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モスキート・ドリーム

今日は天気のいい朝だ。駅のホームには日光が射して暑いが、夏って感じがして気持ちいい。

少しして電車が到着し、ドアが開くと私は電車に乗り込んだ。車内は冷房がしっかり効いていて涼しく、最高に気持ちがいい。これならまた朝の睡眠の続きをとれそうだ。
運よく真ん中の席が空いていたので、私はそそくさとその空いている席に座った。
両隣はそれぞれ、50代ぐらいのサラリーマンと通学途中の私立と思われる中学生の男の子が座っていてた。エアコンのおかげで涼しかったが、気持ち的には暑苦しい席であった。
私は座席にもたれかかり、後ろの窓ガラスに後頭部をぴったりつけて眠りにつくことにした。

そして、私は目を瞑るとすぐに眠りに落ちた。

そして、奇妙な夢をみたのである。


「ここは駅のホームか・・・」

しかし周りを見渡しても、電車を待つ人は誰もいない。しかもさらにおかしなことに、ホームのそこらかしこにおいしそうな果実が生っている。大きさはまばらだが、大きいものはスイカぐらいの大きさがあってかなり大きい。

手に取って食べようとしたが、頭がクラクラしてきた。ホームに差し込む日の光もまぶし過ぎる気がする。

今日は体調が良くないのだろうか。そういえば、さきほどから体がフワフワするし、動くたびに「ブーン」と耳元で蚊が飛んでいるような嫌な音が鳴る。
耳の中に蚊でも入ったのだろうか。しかもやけに喉が渇く。

駅のアナウンスがなり、電車がまもなく到着することを知らせる。

すぐに電車がホームの線路に入ってきた。

停車するためにスピードはかなり落ちているはずなのに、電車が横切る風圧で吹っ飛びそうになる。やっぱり今日は身体がおかしい。

何とか吹っ飛びそうになるのをこらえたところで電車は停車し、扉が開いた。

「ブーン」

私が動くとやはり変な音がなるが、電車に乗り込んだ。

車内にもやはり、人の姿は見えない。しかし、ホームと同じおいそうな果実がたくさん生っている。私のテンションは上がってきた。

どこからか、とても濃厚な甘い香りが漂ってきている。
そそられるような匂いだ。その匂いを辿っていくと、
そこには、車内にあるたくさんの果実の中でも特においしそうな果実が三つ並んでいた。喉も乾ききっていたので、たまらなくおいしそうだ。

「さーて、どれからいただこうかな♪」

三つのうちの左のやつ、これは確かに甘そうではあるがすこし熟し過ぎてる。このような奴は、甘みの中に酸味も混じっていて後味があまりよろしくない。

そして、右端。これは甘そうだ。しかも3つの内は鮮度が抜群でみずみずしい。でも何だろう。この感じ。野生の勘とでもいおうか。今、これに手を出せば命を落としそうな恐ろしい予感がビンビンする。
果実はもう一つあるのだ、ここで危険を冒す必要もないだろう。

そういうことで、この真ん中の物を頂くことにしよう。鮮度はまあまあだが三つのなかで一番好みの香りがする。
そして何よりも、先ほど感じた恐怖心を全く感じない。これならゆっくり心行くまで食事を楽しめそうである。

「では、いただきます」

俺は手に持っていた長いストローをその果実に突き刺した。ストローなんて持ってきた記憶はないが気がついたら手に握りしめていた。そして勢いよく果汁を吸った。


「あぁ・・・やっぱりおいしい」

最高だ。おいしすぎて身体がぞくぞくする。
こんなおいしい果実、味わったことないぞ。しかも先ほどまでの喉の渇きが嘘みたいに癒されて、体中に力がみなぎってくる。

我を忘れて目の前の果汁を吸っていると、何か嫌な気配を感じた。

そう思い、ふと上を見上げると電車の車内にいたはずなのに、天井はなくなり、上から巨大な物体が凄いスピードへこちらへ向かってきているではないか。

「なんなんだ、あれは」

どこかで見たことあるような形… そう、あれは人の手だ!

私は上空からこちらに向かってくる巨大な手のひらに命を脅かされる危険を感じた。早くこの場を離れなければ…
「やばい、死ぬ・・」



「パチン!」鋭い音が電車内で響いた。
電車の心地良い揺れと、適度な冷房で完全に熟睡してしまっていたが、腕に感じる痒みで目が覚めた。


まさか、車内に蚊がいるとは。思わず、勢いよく叩いてしまった。叩いた手の平を確認したが蚊の姿は見当たらなかった。蚊は逃した上に派手な音が鳴ってみんながみたので少し恥ずかしい。

それにしても残念だ。とてもいい夢だった。

人のいない電車の中には見たこともないおいしそうな果実がいっぱい生っていた。その果汁を飲むと最高に甘くておいしかった。あれはいったいなんの果実だろうか。

もっとあの場所にいて果実の味を楽しみたかったのに。

いきなり、上空から巨大な手のひらが凄いスピードで向かってきて、間一髪逃げることができたがそこで目が覚めてしまった。

実に不思議な夢であった。

しかし、こうも人がたくさんいる中でなぜ私の血を吸うのかわからない。隣のサラリーマンは、朝あわててきいたのか、ほんのりシャツが汗ばんでる。そういえば蚊は若い人間の血を好むと聞いたことがある。見たところ五十歳ぐらいだが、好みじゃないのか。
反対の隣のスマホをずっといじっている中学生なんてどうだ。若くてピチピチの肌だ。絶対こっちのほうがおいしそうだと思う。私が蚊なら絶対こっちを吸うはずだ。でももしこの子の血をすっていたら確実に叩かれてしんでいただろう。

2人の間で熟睡している俺を狙ったのは正しい判断だ。しかし蚊というのは血を吸う人間が寝ていて安全だとかこいつは警戒心が全くないとか、わかるものなのだろうか。


まぁいい、気を取り直してもう一度寝ることにしよう。

私はこの車内の中を飛んでいる蚊の存在が気になってはいたが、もう一度眠りにつくことにする。

もしもまた私の血を吸いにきたら確実にしとめてやる。

早く先ほどまで見ていた、あの最高においしい果実に囲まれた夢の続きをもう一度みたい。

もう一度、あのとびきりおいしかった果実を食しさなければ・・・

私は先ほどの楽園を思い浮かべながら再び眠りにつくことにした。

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