見出し画像

農家さんのお話~唐津のために、日本の柑橘産業を変えたい~

こんにちは、広報担当です!
今回お話を伺ったのは佐賀県唐津市の柑橘農家3代目・シトラスプラスの上野勉さんです。さまざまな柑橘類を栽培されていますが、今回はその中でも「レモン」を軸にお話いただきました。

一年中スーパーの棚に並んでいるレモンですが、実は夏の時期は国産レモンの供給が途切れてしまい、ほぼ外国産のレモンで占められています。上野さんは、そんな夏の時期でも「国産の美味しいレモンを届けたい」という想いを持ってレモン栽培に取り組まれているのです。

柑橘農家として唐津で育ち、唐津で生きる

―まずは上野さんについて教えてください
上野さん:祖父の代からミカン栽培をはじめた家に生まれました。とにかく地域の人と関わりながら成長したと思っていて。たとえば学校の帰りに近所の農家さんの軽トラに乗せてもらったり、外で遊んだ帰りにご近所さんの家に寄ってアイスを食べさせてもらったり…地域の中で育った自覚があるんですよ。地元の高校を卒業したあとは、国のミカン研究所で2年間の研修を受けて唐津に戻りました。今は柑橘農家の3代目として柑橘類の栽培に携わっています。

弊社では11種類の柑橘類をハウスと露地で栽培して、自社での柑橘栽培に注力しています。その他にも関東圏で活躍している農家さんを唐津に呼んで地元の高校生に向けて講演してもらうなど、地域とのつながりを大切にした活動もしています。キツイとか稼げないとかよくある農業のイメージが覆って、実はとても魅力的な仕事であることを知ってもらえたらうれしいですね。

-レモンの栽培をはじめたきっかけを教えてください
上野さん:近年、国産レモンの需要が伸びているのですが、国産の露地ものは秋冬が旬で、夏場はどうしても外国産が中心になってしまいます。「国産レモンの供給が途切れる夏の時期にも、お客様にレモンをお届けしたい」という想いがあって、2018年からハウスレモンの栽培をはじめました。

もともと唐津市はハウスミカンの全国シェアが40%を占める一大産地なんです。ミカンも秋冬が旬なので、夏の時期は露地ものの供給は途絶えてしまいます。でも、ハウス栽培なら生産時期をずらせるので、夏でもお客様にミカンをお届けすることができるというわけです。

そんなふうに唐津市はハウス栽培によって露地ものと出荷時期をずらすことで産地を形成してきた歴史があって、それをレモンにも活かしました。少しずつ時期をずらして栽培することで一年中レモンを出荷できる体制を整えています。

弊社のレモンには化学肥料や防腐剤、防カビ剤、ワックスは使用していません。農薬もできる限り使わないようにしていて、通常の50%減という基準で作っています。2023年には「特別栽培農産物」(農薬や化学肥料を不使用、または減らしている農産物)の認証を受ける予定で、今後は有機JASの認証を取得し、オーガニックレモンの生産を目指しています。

目指すのは「レモンらしいレモン」

―どんなレモンをつくろうとされていますか?
上野さん:レモンに限りませんが、「柑橘らしい柑橘」づくりを目指しています。最近の柑橘類って、甘いか酸っぱいかの2軸で評価されることが多いのですけど、私は柑橘類の魅力はそれだけではないと思っていて。香りや食感も大切な要素なので、レモンらしい酸味や香りのあるレモンを作りたいと思っています。

育てているのはレモンの原種に近いリスボンという品種で、香りや酸味が強いという特徴があります。実際にお客様からは「香りが高く、酸味も強くて美味しい」「夏場に国産のレモンが食べられて嬉しい」という声をたくさんいただいていますよ。

レモンは時期によって味わいや香りが大きく変化するんです。グリーンレモンだと酸味が強く、ライムに近いスパイシーな香りが特徴です。皮の香りが立つので料理向きで、実際にレストランのシェフにも愛用されています。そこから黄緑色に変わって、果汁が少しずつ増えていきます。黄緑色から1ヶ月ほど経ってイエローレモンになると、果汁が多くまろやかな酸味に変わっていきます。

個人的に好きな食べ方は、夏なら皮の香りを楽しめるレモンサワーやレモンスカッシュですね。冬ははちみつ漬けにしてホットレモンにしたり、水炊きにスライスレモンを入れてレモン鍋にしたり、お浸しにレモンを削ってのせたりすることも多いです。

職人技と科学技術を融合させたこだわりの栽培方法

-どんなことを大切にして栽培していますか?
上野さん:私たちはレモンのことを植物だと思っているので、日射量や湿度など植物がいきいきと心地よく過ごせる環境を整えることを大事にしています。

果樹類は剪定や摘果など地上部の作業がたくさんあるのですけど、実は地下部にある根っこも大切なんです。良い土をつくるためにスリランカからココピード(ココナッツを原材料とした天然の土壌改良材)を自社輸入して畑に敷いたり、菜種油の絞り粕や魚粕、骨粉を麹菌と混ぜて1ヶ月ほど発酵させた手作り肥料を使ったりしています。

ハウスの中って温度が保たれているので、一見すると露地栽培よりも良さそうにみえますよね?でも実は温度の変化に弱い植物にとって高ストレスな環境なんです。露地であれば湿度が一気に10%も変わることは滅多にありませんが、ハウスは扉を閉めたときの湿度が98%でも、開けた瞬間に50%まで下がってしまいます。

温度や湿度の急激な変化は植物にとって大きなストレスとなってしまうので、いかにレモンの樹にストレスを与えないようにするかが課題ですね。扉の開け方一つとっても、タイミングや回数はもちろん、扉を開ける面積までセンチメートル単位で緻密に調整しています。この他にもハウス内にCO2を添加して光合成しやすい環境になるよう調整するなど「環境制御」と呼ばれる取り組みも行っています。

その一方で、ロジカルなことだけでは説明できない部分も大切にしています。篤農家と呼ばれる柑橘栽培のベテラン生産者さんは「職人技」を持っているんですよ。それって長年の経験や感覚が織りなすものであって、言語化やデータ化することが難しいものなんです。それを地元のベテラン生産者から学びながら、ロジカルな環境制御と両軸で栽培に取り組んでいます。

室温45℃のハウスで棘まみれ、すべては美味しいレモンのために

―レモン栽培におけるこだわりを教えてください

レモンの葉の香りを嗅ぐ上野さん。レモンの葉は爽やかな香りがします

上野さん:グリーンレモンは痛みやすくて、少しでもこすれると茶色くなってしまうので、とにかく丁寧に扱うことを心がけています。たとえば、一般的にはレモンを収穫するときに手元のカゴに入れて、ある程度集まったらコンテナに移し替えて…とまとめて運んで出荷することが多いのですけど、弊社ではなるべくレモンに触る回数を減らすようにしています。
コンテナに移し替えれば大きなトラックで一度に運べるんですが、収穫したカゴのまま何往復もして作業場に運んで出荷用の段ボールに詰めています。

さらにレモンは収穫すると香りが飛んでしまうので、注文を承けてから収穫するようにしています。レモンの樹はとにかく棘が多いので、いつも全身傷だらけになりながら作業していますよ。夏場はハウスの室温が45℃まで上がるので大変ですが、お客様に美味しいレモンを届けるためには手間を惜しみません。

常に挑戦する、柑橘界のファーストペンギンを目指す

―最近社名を変更されたそうですが、そのきっかけを教えてください
上野さん:
10年ほど前、唐津が産地として成長が鈍い時期がありました。それはトップ農家が投資をせず、新しいことに挑戦していなかったからです。逆に苦しい農家の方が新しい技術に挑戦して失敗してまた挑戦して…それらを繰り返して成長していきました。その姿を見ていて、産地が成長するためには、新しいことにチャレンジするファーストペンギンのような存在が絶対に必要だと思うようになったんです。

それと全国農業青年クラブ連絡協議会の副会長をしているのですが、その経験も関係していて。副会長になって日本の農業全体を見ていると、「唐津をよくするためには農業全体をよくしていかないといけない、日本の柑橘産業を変える存在にならなくては」と感じるようになりました。

そういう想いが強くなっていく中で、唐津だけではなく柑橘(シトラス)に視点をおいた社名に変えようと考えて、唐津のミカン農家という意味の「KARATSU TACHIBANA」という以前の社名から「シトラスプラス」へと変更しました。私だけではなく従業員にもこうした想いを語れるようになってほしいので、一緒にフレームワークを行って自社の存在価値は何かなどを従業員みんなで考えましたよ。

実際に使われたフレームワークのボード

今のところはまだ大きな利益がでているわけではありませんが、社会に必要とされることをやっていくことが、結果として本質的な利益になると考えているので、新しいことに挑み続けていきます。

国産グレープフルーツの生産やスマート農業…今後の目標とは

―今後の目標を教えてください
上野さん:2021年には、農作物の長期保管を可能にした特許冷蔵庫を持つ福岡ソノリクと共同で清見オレンジとレモンの貯蔵試験を行って、品質や味や香りの変化を調べました。清見オレンジは数ヶ月間保管すると酸味が抜けて美味しくなって驚きましたし、ポリ袋に包まずに裸の状態の方が品質が維持されることなどがわかりました。この結果を受けて、今後は横浜の市場と提携して出荷することも決まったんですよ。

この他にも、玄海町にある第2農場で農研機構とシーリングマルチの実証実験をしたり、ドローン測量による3Dマッピングといった、ITと農業をかけ合わせたスマート農業化にも取り組んでいます。

今後の目標としては、まずはニーズの大きいライムやベルガモット、グレープフルーツの国産化に取り組みたいです・そしてゆくゆくは九州の地の利を活かしてアジア圏へ輸出して、日本独自の美味しい柑橘を世界に届けていくことを目指したいと思います。

<取材後記>
「唐津のために日本の柑橘産業を変えていきたい」そんな想いを持って歴史の長い農業で新しいことに挑戦する姿勢や地域のために実際に動いている行動力に、お話を伺いながら引き込まれました。後日、実際に上野さんのレモンを食べたのですが、キレのある香りで果汁がジュワーっと溢れてきて、プロの料理人から引く手数多なのも納得の美味しさでした!

《シトラスプラス》
〒849-5111 佐賀県唐津市浜玉町南山2347-2
TEL : 0955-53-8606
FAX : 0955-53-8607
HPへのアクセスはコチラから

▼上野さんのレモンはこちらから購入いただけます


この記事が参加している募集

#わたしの野菜づくり

3,793件

最後まで読んで頂きありがとうございます。 気軽にコメントを残してくださいね。