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情報へのアクセシビリティ─『貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える』

貧困研究は、ここまで進んだ!

食糧、医療、教育、家族、マイクロ融資、貯蓄……
世界の貧困問題をサイエンスする新・経済学。
W・イースタリーやJ・サックスらの図式的な見方(市場 vs 政府)を越えて、
ランダム化対照試行(RCT)といわれる、精緻なフィールド実験が、
丹念に解決策を明らかにしていきます。

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貧困がなぜ存在し続けてるのか、脱出する方法はあるのか。そんな問題をさまざまな研究データと実験で分析していく本書。
分析の対象となるのはいわゆるインドやインドネシア、アフリカ諸国などの「途上国」と呼ばれている(た)国々だ。
ここで試みられる手法は「ランダム化対照試行」というものだ。訳者である山形氏の解説に少し説明があるので引いてみよう。

~でも、個体別に揃えなくてもいいじゃないか、というのがランダム化対照試行の発想だ。グループとしてだいたいの性質を揃えよう。たとえば同じ地域の似たようなA村とB村をランダムに選び、片方には介入してみる。片方には何もしない。それで両者に何か有意な変化が生じるかを見てみようじゃないか。

もちろんそれぞれの村には違いがある。
その違いによって大きな変化が生じることもあり得るかもしれない。そうしたことも踏まえ実験の設計を行う必要がある。そうした小さな違いは現地に赴かないと見えてこない。本書の強みは10年以上にわたり、積み重ねられてきた小さな成果だからこそ強い説得力を持つことだ。

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本書でも触れられているが、行動経済学しかり、そこで語られることは考えてみれば当たり前のことが多い。
本書の知見も、

・飢えている人でもカロリー増よりおいしいものやテレビのほうを優先する。

など、聞いてみればなんてことはないことが多い。しかし、よくよく考えてみれば、その小さな当たり前の積み重ねが貧困のスパイラルを生んでいるということだ。あまりにも当たり前であるからこそ、私たちはそれに大して注意を払わない。だからこそ、問題のアウトラインがなかなか見えてこない。

本書に登場する 貧乏な生活を改善する教訓のひとつに

貧乏な人は重要な情報を持ってないことが多く、まちがったことを信じています。

というものが出てくる。

小川哲による小説『ゲームの王国』はかつてカンボジアに実在したポル・ポトによる独裁政権を物語の主軸に据えた作品だ。
この政権の最も恐ろしい点が技術者や知識人など知識のあるものを地方に迫害することや殺害することでそもそも「反乱」という選択肢自体を考えなくさせてしまう反知性主義の極致を体現したような政権であったことだ。ここでも国民は重要な情報にアクセスできず、意味のない作業に従事させられていたのだ。

そもそも情報にアクセスできないことは明らかに多くの人にとって不利益な状況を生み出す。

本書で語られる途上国の状況や、ましてやポル・ポト政権の話は遠い話のように聞こえるかもしれないが、この問題の本質にある「情報へのアクセシビリティ」は私たち自身も考えなければいけない点である。本書で明らかになる知見は私たちも心に刻んでおくべき重要な教訓と言えるだろう。

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