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「ハブ型」と「サンドボックス型」─『ゲームデザイナーのための空間設計 歴史的建造物から学ぶレベルデザイン』を読む4

他分野からの建築への視点を見てみよう,ということで読み始めたクリストファー・トッテンによる『ゲームデザイナーのための空間設計 歴史的建造物から学ぶレベルデザイン』.

前回に引き続いて3章「基本的な空間配置とゲーム空間の種類」についてメモ.


ハブ型の空間

前回は空間の配置や空間構造について見ていきましたが,ゲームの中には いくつかの空間タイプが存在している.その中でも特徴的なのが,「ハブ型」と「サンドボックス型」の空間.
まずは「ハブ型」の空間について.

ハブ型の空間とは扉などの出入り口を活用することで複数の環境を行き来できるような空間形式.代表的なもので言えば「スーパーマリオ64」「バンジョーとカズーイの大冒険」などが当てはまる.

「ハブ型」の空間では,中心となる空間を置き,それを介して空間を行き来することでさまざまな種類の空間を体験させることができる.
また,ゴールやレベル,進捗状況の管理なども行いやすい形式だと言える.
個人制作作品でありながら圧倒的な知名度を持つ作品「ゆめにっき」などでも「ハブ型」の空間が用いられている.

また,「モンスターハンター」シリーズなども「ハブ型」であることから,極めてポピュラーな空間のタイプだと言えるのだろう.

一見,開発者によってルートを強制されているような印象も受ける「ハブ型」の空間だが,その実,選択自体はプレイヤーに委ねられており,自由度の高い空間のタイプと言える.


サンドボックス型の空間

もうひとつのタイプはいわゆるオープンワールド形式.
「決まった境界はあるものの,他の大半のゲームよりも縛りのない自由な方法でプレイヤーの好きなようにプレイできるところ」からサンドボックス(砂場)ときているとか.

サンドボックス型では,プレイヤーにかなりの自由度が与えられている分,プレイヤーにどのようにゲームを進めてもらい楽しんでもらうかを設計するのが非常に難しいという問題がつきまとう.
現実を考えてみると,これはたとえば,都市計画において都市計画者が行き当たる問題に近い.そこで,サンドボックス型を考えるために非常に有用な補助線となるのがケヴィン・リンチによる『都市のイメージ』の中で唱えられた,都市の視認性を担保する

ランドマーク・パス・ノード・エッジ・ディストリクト

の5つの要素.
ランドマークやパスについては現実のものの役割と大差はないが,ノードやエッジ,ディストリクトについてはゲーム独自の性質を秘めていると言える.
ノードは,都市空間において,道が合流する場所や人が集まる特徴的な場所のことを差す.これがパラメータやナラトロジーと関係するとゲームに奥行きをもたらす効果を生み出す.
例えばハイスクールを舞台にした『Bully』は「校舎」自体が「ランドマーク」となり「ノード」となり,ゲームの根幹となっている.

また「ディストリクト」について.『グランド・セフト・オート』などでは,貧富などはっきりしたエリア分けを行い,各ディストリクトの個別性を高めている.はっきりした区分けがないとゲームの楽しさは減衰する.



「敵」の存在

また,視認性を上げる要素としてシンボルも重要である.象徴性を持った空間的要素を活用することによって空間をさらに印象的にすることができる.
ゲーム内の空間では,現実との違いとして「敵」が存在することがある.ゲームでは「敵」を上手く利用することで,視認性を向上させることも可能である.
たとえば,初期の『バイオハザード』のごく単純なAIしか持たないゾンビでも,空間的要素となる.『バイオハザード』では「縮みゆく要塞」という概念が意識されている.これはゾンビ映画の概念であり,それまで安全だった領域を侵食していくことでプレイヤーをどんどん追い込んでいくものだ.
「敵」を利用することでシナリオと絡ませつつ空間を変異させていくこともゲーム内では可能である.



「ハブ型」と「サンドボックス型」の空間の部分を読んでいて,青木淳氏の『原っぱと遊園地』を思い出した.

ざっくり言えば,「原っぱ」は人びとが自ら発見的に活用方法やアクティビティを見出していくことを担保する無目的の空間,
「遊園地」はあらゆるアクティビティが提供される至れり尽くせりの空間.しかし,そこには提供者の想定以上のアクティビティは発生し得ないとか.
これを上記に照らし合わせてみると,「サンドボックス型」が「原っぱ」であり,「ハブ型」が「遊園地」と言える.
中心となる空間を基点としてワールドが展開されるという構成上,同心円的な空間配置になる「ハブ型」と,ある囲われた空間にさまざまなアトラクションが配置される「遊園地」は空間構成的に似るというのもなんとなく腑に落ちる.

しかしながら,「ハブ型」と「サンドボックス型」の両者の性質は「原っぱ」と「遊園地」よりも境目が曖昧と言える.

ディズニーランドの構成は、シンデレラ城を中心にして、その周囲に同心円状にボックスのパヴィリオンを並べているだけなので、これがつまらないのはよくわかります。
しかしディズニーシーのほうは、パヴィリオン同士の関係こそを重視しています。床のレベルを上げ下げしてみたり、大きなものの奥に小さなものを配置して距離感を撹乱させてみたりとパヴィリオンのなかに入らなくても楽しめるようになっている。さらに、最近のディズニーリゾートの来場者のなかには、ミッキーマウスが目的の人ばかりではなく、自分で勝手に楽しんでいる人たちがいます。
《馬見原橋》から考える

上記の引用から考えてみる.
ゲーム内の「ハブ型」と「サンドボックス型」,「原っぱ」と「遊園地」の違いは,ゲームの「インタラクション」という性質にあるのではないか.つまり,ゲームでは「自分で勝手に楽しむことができる」.現実の「遊園地」には「規制」が存在しており,勝手に楽しむことが行いにくい.
『スーパーマリオ64』をいまだに楽しむ人が存在するのは,「勝手にクリアタイム時間までの早さ」を競っているからで,それを開発者が想定していたかはわからない.
ゲームにおいてはプレイヤーもシステムの一部と考えられる.
ジェレミー・キャンベルの『文法的人間』によれば,システムの複雑さは「それ自体が特異的性質」で「あるシステムが存在することが、我々の思いも寄らないことが起きるという感覚や,予想外のものになったりするということを可能にする」とのこと.建築という複雑なものも,それが存在することで思いも寄らないことが起きる.ゲームと建築の共通性ですね.



目次

はじめに
●Chapter1 建造物からレベルデザインを学ぶ準備
●Chapter2 レベルデザインのツールとテクニック
今回→●Chapter3 基本的な空間配置とゲーム空間の種類
●Chapter4 ビジュアル要素によるチュートリアル
●Chapter5 生存本能を利用したレベルデザイン
●Chapter6 報酬の空間でプレイヤーを誘い込む
●Chapter7 ゲーム空間におけるストーリーテリング
●Chapter8 インタラクティブ空間とワールドデザイン
●Chapter9 プレイヤーの交流を生み出すレベルデザイン
●Chapter10 サウンドによるレベルデザインの強化
●Chapter11 現実世界を舞台にしたレベルデザイン


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