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私たちは合理的な選択などできないのか?─『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』

「現金は盗まないが鉛筆なら平気で失敬する」
「頼まれごとならがんばるが安い報酬ではやる気が失せる」
「同じプラセボ薬でも高額なほうが効く」―。
人間は、どこまでも滑稽で「不合理」。でも、そんな人間の行動を「予想」することができれば、長続きしなかったダイエットに成功するかもしれないし、次なる大ヒット商品を生み出せるかもしれない!行動経済学ブームに火をつけたベストセラーの文庫版。

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人間はなぜ不合理な選択をしてしまうのか?

伝統的な経済学では人間は合理的な生き物であると考えられてきた。
私たちはなにものにも邪魔されないパーフェクトな情報処理力と計算能力を備える。たとえ失敗したとしても、そこから学習することで失敗をなくしていける生き物だと。

しかし、自身のことは自身が一番がよくわかっている。私たちはどの状況においても合理的な選択を行うことなど到底できていない。
感情や状況、条件などによって普通なら不合理と考えるはずの選択をしてしまうことがあるのだ。

ふつうの経済学は、わたしたちが合理的であると考える。つまり、決断に役立つ情報をすべて知っていて、目の前のさまざまな選択肢の価値を計算することができ、それぞれの選択による結果を何にも邪魔されずに評価できると想定している。

そのため、わたしたちは論理的で分別のある決断をするものと見なされる。そして、たとえときにまちがった決断をするにしても、ふつうの経済学の見方によれば、自分の力で、あるいは「市場原理の力」に助けられて、その失敗からすぐに学べることになっている。経済学者は、このような前提にもとづいて、買い物動向から法律や社会政策にいたるあらゆるものについて影響力の大きい結論を導き出している。

435頁

現金を盗んだりごまかしたりすることはないのにその間に現金以外の何かが入ってくると、途端に人間は不正直になる。

現金から一歩離れたとたん、自分では想像できないほどの不正をしてしまうのだと自覚する必要がある。
436頁

レストランに行った時、同じテーブルの友達の注文を聞いて本当はそれほど食べたくなかったものを思わず注文してしまう。

「独自性欲求」と呼ばれる性格特性とのあいだに相関があることがわかったのだ。要するに、独自性を表現することに関心のある人ほど、テーブルでまだだれも頼んでいないアルコール飲料を頼んで、自分がほんとうに個性的だと示そうとする傾向が強いということだ。
433頁

まったく客観的な評価でないものを相対的な評価対象として設定してしまったりする。私たちは需要と供給のバランスを「神の見えざる手」によってバランスが整えられているように考えてしまっているが、実際には偏りがある。

第一に、ふつうの経済学の枠組みによると、消費者の支払い意思は、市場価格を決定するふたつのデータのうちのひとつだ(これが需要)。ところが、わたしたちの実験が示すように、消費者が支払ってもいいと考える金額は簡単に操作されてしまう。つまり、消費者はさまざまな品物や経験に対する選好や支払い意思額を自分の思いどおりには制御できていない。

第二に、ふつうの経済学の枠組みでは、供給と需要の力が互いに独立していると仮定するが、本章で紹介した種類のアンカリングの操作は、実際にはふたつが互いに依存していることを示している。実世界でのアンカリングは、業者の希望小売価格、広告価格、マーケティング、製品の市場投入などからつくられるものであり、これはすべて供給側の変数だ。消費者の支払い意思が市場価格を左右しているのではなく、因果関係がやや逆転して、市場価格そのものが消費者の支払い意思を左右しているように見える。これは、需要が供給と完全に切りはなされた力ではないことを意味する。

87・88頁

全15章に分けられた本書では、これらの人間の不合理な選択の存在を数々の実験によって明らかにする。私たちは自ら考え生きているように考えているが、実際は見えない何かに動かされているのだ。

わたしたちはみんな、自分がなんの力で動かされているかほとんどわかっていないゲームの駒である。
440頁


では、私たちは合理的な選択などできないのか?

これだけ数々の事例を見せられてしまうと、人間はなんて状況に流されやすい不合理な生き物なんだ...と嘆息してしまう。
しかし、何の手のうちようもないという訳ではない。この人間の特徴を捉えるために生まれたのが「行動経済学」なのだ。

経済学は、人がどのように行動すべきかではなく、実際にどのように行動するかにもとづいているほうがはるかに理にかなっているのではないだろうか。
436頁

このような学問が生まれる背景には、ほとんど予測不可能にすら思える人間の不合理な選択はまったくのランダムネスから生まれる訳ではなく、ある規則性が存在していることにある。

不合理さには規則性があって予想することができ、だから解決策もある。
462頁

この規則性をつかむことで、私たち自身がどのような状況でどのようなに考えるのか、それを意思決定のための選択の一助として導入できる。つまり、私たちはより合理的な選択を行えることができる。そのためには私たちは私たち自身の思考を把握できている訳ではないということを心に留めておくことがまずは必要である。

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