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日々雑感2018

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テキストなどを放り込んでいく場.基本的には読書録・映画録になると思います.2018年は精読を心掛ける!
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#小説

読まれる(物語られる)ことを意識すること─『プロローグ』

小説の書き手である「わたし」は、物語を始めるにあたり、日本語の表記の範囲を定め、登場人物となる13氏族を制定し、世界を作り出す。けれどもそこに、プログラムのバグともいうべき異常事態が次々と起こり、作者は物語の進行を見守りつつ自作を構成する日本語の統計を取りつつ再考察を試みる……。 プログラミング、人工知能、自動筆記…あらゆる科学的アプローチを試みながら「物語」生成の源流へ遡っていく一方で、書き手の「わたし」は執筆のために喫茶店をハシゴし、京都や札幌へ出張して道に迷い、ついには

わたしたち「会社員」は、社会という環境が生み出した、あるパターンの一部にしか過ぎないのだとか云々─『社員たち』

書籍詳細 地中深くに沈んだ会社。社長の愛した怪獣クゲラ。卵になった妻。あっぱれ! 大卒ポンプ。不景気なのか戦時下か、今日を生き抜く社員たち。北野ワールド全開! 超日常の愛しい奇想短編集。 ■ 読了. 北野勇作氏のブラックユーモア溢れる奇妙な世界が爽快. 「社員」を描く短編を集めた本作はまさにサラリーマンである我が身に響く内容である. ある日出勤すると会社は地中深くに沈んでいた.社長も一緒に沈んでしまったために失業保険を得るためには社長を掘り出さなければと,掘り出し

SF小説からテクノロジーを考えるメモ1

現実を精彩に描くとSFになってしまう、と言われて久しい現代社会とテクノロジーですが、それでもSF小説に描かれる世界は私たちの現実社会やテクノロジーへ何らかの啓示を与えてくれます。 物語として楽しみつつもそこから何が考えられるか、ということを意識しながらなるべく読みたいな。ということで国内SFで色々とメモしてみる。 テクノロジーとの共存(共存した結果、究極的には人間がどのような存在になるかが描かれる) 野崎まど『know』...情報が増えすぎた時代「超情報化時代」に対して「

「死」とは?─『ニルヤの島』

人生のすべてを記録し再生できる生体受像(ビオヴィス)の発明により、死後の世界という概念が否定された未来。ミクロネシア経済連合体(ECM)を訪れた文化人類学者イリアス・ノヴァクは、浜辺で死出の船を作る老人と出会う。この南洋に残る「世界最後の宗教」によれば、人は死ぬと「ニルヤの島」へ行くという――生と死の相克の果てにノヴァクが知る、人類の魂を導く実験とは? ※※※ 柴田勝家 /『ニルヤの島』を読んで感じたこと。 その風貌や言葉遣いが柴田勝家そのまんまだということで一昨年去

AIと人類は共存できるか?

AIと人類は共存できるか? ■長谷敏司「仕事がいつまで経っても終わらない件」憲法改正を行うために総理大臣の大味はアドバイザーとして人工知能「あいのすけ」を採用することを許可したが。。。 人間の言語理解をするに至ってない「弱いAI」しか実現してない本作では、人工知能をカバーするために「人力」が投入される。しかし、その労働環境の誕生とは24時間弛まなく計算を続ける人工知能にあわせてうまれた「最先端のブラック職場」の登場でもあったのだ、その行きつく先は...。 面白すぎる。こ

「3年前、会社から帰宅途中の吉田大輔氏(30代、妻と男児ひとり)は、電車を降りて自宅に向かうあいだで一瞬にして19329人となった」

「20××年○月△日19時頃、夏の宵闇垂れ込めるS市K町4丁目の通りで多数の住民が暗色の奔流を目撃した」 3年前、会社から帰宅途中の吉田大輔氏(30代、妻と男児ひとり)は、電車を降りて自宅に向かうあいだで一瞬にして19329人となった——第7回創元SF短編賞を受賞した「吉田同名」をはじめ、ある日突然、縦に半分になった家で、平然と暮らし続ける一家とその観察に没頭する人々を描く表題作、全住民が白と黒のチームに分かれ、300年もの間ゲームを続ける奇妙な町を舞台にした「白黒ダービー小

だらだらと書く自分の文章。的確な短い文章。

大学でのプレゼンの授業、論文の梗概を書くとき、など物事を説明するとき、そして社会に出てからはもっと顕著になる 「言いたいことは短く」 「短い文章で説明してこそ説得力がある」 ということだが、この文句には一定の同意を感じつつも、そうすることでそぎ落とされてしまう何かがあるのではないかともいつも思う。 自分自身がだらだらとした文章を読むことが割と好きで、そして自分が書くときもだらだらとした文章になってしまうから、そう思ってしまうのだろうか。 これはケースバイケースだと考える

うなぎ絶滅後の世界を描く「ポストうなぎSF」─『うなぎばか』

もしも、うなぎが絶滅してしまったら? 「土用の丑の日」広告阻止のため江戸時代の平賀源内を訪ねる「源内にお願い」、元うなぎ屋の父と息子それぞれの想いと葛藤を描く「うなぎばか」などなど、クスっと笑えてハッとさせられる、うなぎがテーマの連作五篇。 仕事が落ち着いたので,久しぶりに国内SF小説を買い漁り,読んでいる. まずは倉田タカシ氏の「うなぎばか」. うなぎ絶滅後の世界を描く「ポストうなぎSF」 というキャッチコピーで土用の丑の日に発売された本作 . 著者の前作『母になる

後ろ向きに生きる─フランツ・カフカから

奥泉光による音楽ミステリーの新しい挑戦。 虫への〈変身〉を夢見た伝説のサックス奏者。彼の行方を追い求めた先に〈私〉が見たのは─。カフカ『変身』を通奏低音にして蠱惑的な魅力を放つ、音楽ミステリーの新しい挑戦。もう一つの代表作。 『変身』ではなく『変態』『虫樹音楽集』という小説を読んだ後に,一時期カフカについてよく考えていた. 小説の中で物語のキーとなる人物が 「カフカの『変身』は本当なら『変態』と訳されるべきなんだ」 と言う. 変態とは昆虫が進化してトランスフォーム

さよなら,わたし─『ハーモニー』

『ハーモニー』4度目くらいの再読.相変わらず素晴らしい作品である. 21世紀後半、〈大災禍(ザ・メイルストロム)〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。 医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、 見せかけの優しさや倫理が横溢する"ユートピア"。 そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した―― それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはすの少女の影を見る―― 『虐殺器官』の著者が描く、ユ

中二病の人工知能─『人工知能の見る夢は』

◎対話システム ◎自動運転 ◎環境知能 ◎ゲームA I ◎神経科学 ◎人工知能と法律 ◎人工知能と哲学 ◎人工知能と創作 3度目のバブルを迎え,人工知能(AI)という言葉は今や知らない人はいないだろうというほど毎日聞くキーワードとなった. しかし,一口に人工知能と言ってもそれらの仕組みと目指すものが違うことは多々ある.本書はそれを「物語」という形で提示する. 「物語」は人間が生み出した現実への媒介装置だ.これを読むことで人工知能にまつわるいくつかの事柄が理解でき

『伊藤計劃トリビュート』

「公正的戦闘規範」藤井太洋軍事ロボティクスの未来を描いた作品. タイトルのダブルミーニングが憎い.ドローン型戦闘兵器の存在の仕方というものについて考えさせられる.ドローンが落ちてニュースになっていたことがあるが,よくよく考えてみればそこに爆弾を搭載してテロを起こすということが容易にできるということだ. 世界はギリギリのラインで成り立っている. 「仮想の在処」伏見完著者は1992年生まれと何と年下. もうそんなに年になったかと妙に落ち込む. 「わたしの双子の姉。生まれた時に

読者よ,正解されたし─『正解するマド』

野崎まどが脚本を手がけたTVアニメ『正解するカド』のノベライズを依頼された作家は、何を書けばいいのか悩むあまり精神を病みつつあった。次第にアニメに登場するキャラクター・ヤハクィザシュニナの幻覚まで見え始め…… 2017年に放映された野崎まど脚本によるテレビアニメ『正解するカド』のノベライズ. 真道幸路朗(しんどう・こうじろう)は、外務省に勤務する凄腕の交渉官。 羽田空港で真道が乗った旅客機が離陸準備に入った時、空から謎の巨大立方体が現れる。“それ”は急速に巨大化し、252

無数の「どこにもない場所」─『ゴースト・オブ・ユートピア』

『一九八四年』に始まり、『ガリヴァー旅行記』を経由して、『華氏四五一度』へ― 〈ぼく〉でもある〈きみ〉は21世紀のユートピアを追い求める 古今東西のユートピア小説を扱った本書は様々な読み方ができて面白い. 取り上げられてるのは,『一九八四年』『愛の新世界』『ガリヴァー旅行記』『小惑星物語』『無可有郷だより』『すばらしい新世界』『世界最終戦論』『収容所群島』『太陽の帝国』『華氏四五一度』. 〈ビッグ・ブラザー〉率いる党が支配する超全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理