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お母さん食堂

以前、ファミリーマートが「お母さん食堂」というブランド名のお惣菜シリーズを発売して問題になったことがありました(現在は廃止されたようですが)。

炎上した理由は「料理は母親(女性)がつくるものという固定観念を助長する」というようなことでしたが、私にとってはもっと別な意味で問題です。

「こんな東南アジアかどっかの工場で製造したレトルト食品がお母さんを名乗るとは笑止千万。お母さんをなめるな」

ぜんぜん夕張で作られていないのに「夕張メロン」を名乗ったり、シャンパーニュ地方で作られてもいない粗悪な発泡酒なのに「シャンパン」と表示するようなもので、性差別以前に詐称です。

本当にお母さんが作っているなら別です。
たとえば地域のお母さんたちが集まって、ふだん家族から好評な料理を提供する食堂を運営し、収益もお母さんたちで分配するなら、「お母さん食堂」でいいと思います。

たしかに「お母さんの料理」には良いイメージがあります。
でもそれは、歴代のお母さんたちが、血のにじむような努力の末に築きあげたブランドイメージです。
それをまったくお母さんではない、下手をすると家族のために日々ごはんをつくってすらいない企業経営者が儲けるためにタダで利用するのは、ある種の「文化盗用」と言ってもいいと思います。

私の母は料理が上手でした。
ノスタルジーを抜きにしても、たいていのお店の料理より子どものころ母がつくってくれた料理のほうがおいしいと思っています(ましてコンビニのレトルトなど論外です)。
今でも「ウイング」と呼んでいた鶏手羽元の唐揚げや、塩辛い鮭のおにぎり、厚揚げと大根の煮物、ジャガイモからサラミからしらすまで具がたっぷり載った焼きたてのピザ、エビとほうれん草のグラタンなど、思い出すと食べたくなります。
(現在の母はもうそんな手の込んだ料理を作れる状態にないので、かなわないことですが…)
それは「お母さん」であることで無条件にできることではなく、母独自の資質と努力によるものなのです。

もし母と同レベルの料理を出してくれる「お母さん食堂」があったら、ぜひ通いたいです。

ちなみに私はぜんぜんお母さんではなく、また私の料理など母の料理には遠く及ばないので、まちがっても自分の料理を「お母さんの味」などと名付けて売り出すほど図々しくはないです。

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