見出し画像

「20分で3品」司書

よく料理で、「揚げ○○の××あんかけ」みたいな手のかかるレシピに挑戦したり、「フォアグラのトリュフソース添え」みたいな高級食材を使いたがる人がいます。

でも家庭で求められるのはそんなことではなく、「冷蔵庫にある賞味期限が迫っている食材を組み合わせて20分で3品作れ、しかもちゃんとおいしい」ことだったりしますね。おなかをすかせた家族を待たせないことのほうがたいせつです。

図書館でも同じようなことがあります。
視察や研修で意識が高くなったえらい人にありがちなのですが、海外の先進的な図書館の事例に感動して「それに比べてウチは…」となり、にわかに最先端のシステムを取り入れたがったり、仕事のやり方を見習わせようとしたりします。

たとえば、New York Public Library(略称:NYPL)という有名な図書館があります。

映画にもなりましたね。

たしかにNYPLはひとつの理想像として語られることが多いですし、私たち図書館員にとっても憧れの的です。
ただこれはある意味、図書館界の三ツ星レストランですよね。
日本中の図書館がNYPLになることはありえないですし、またNYPLの司書がもし日本の普通の図書館に転職したとして、言語の壁は別として、同レベルの仕事ができるかどうかは疑問です。

仕事から帰ってありあわせの材料で急いで作った夕食を子どもに食べさせているところに、三ツ星レストランでディナーを堪能してきた夫が「うちでもあれくらいのもの作れない?」と言ったら確実にちゃぶ台ひっくり返し案件でしょう。

限られた予算をやりくりして利用者ニーズに合わせた資料を揃え、展示方法を工夫し、蔵書の新陳代謝を止めず、目録をアップデートし、適切な見守りと声掛けで利用者との信頼関係を構築し、理解のない他部署の職員も説得して連携を進め、図書館を守り続けている司書がたくさんいることを、私は知っています。

個人的にこれを「冷蔵庫にある賞味期限が迫っている食材を組み合わせて20分で3品作れ、しかもちゃんとおいしい司書」と名付けました(長いな…)。

たぶん図書館に限らずどんな職種でもこういう人たちがいて、誠実に仕事を続けているのでしょうが、とくに評価されることもなく、もちろん映画にもならず、充分な支援もないままに過ぎてゆくのだろうな、と思っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?