見出し画像

図書館員流「本を見る方法」

「本を読む方法」ではないことがポイントです。
図書館に勤めていると「本が読み放題でいいね」と言われることもありますが、年間何千冊何万冊を取り扱っている身では、いちいち本を「読んで」いたのでは時間がいくらあっても足りません。とは言え資料を把握するのも仕事のうちなので、手にした本は時間の許す限り開いて見るようにしています。こうした速読やななめ読みですらない、図書館員独特の「本の見方」をご紹介します。

1.標題紙

一般的に本はまず表紙を見ると思いますが、図書館では比較的標題紙を重視しています。表紙をめくると1,2枚目くらいに出てくるタイトルや著者、出版社名が書いてある紙ですね。基本的な情報はここから採ります。表紙ではない理由は、表紙は破損して読めなくなったり、再製本で別物に付け替えられたりしがちだからでしょう。カバー(ブックジャケット)も情報源としてはさらに落ちるのですが、本によっては標題紙にあたるものがまったくなく、表紙は真っ白、カバーにタイトルその他すべての情報が印刷されているうえにそのカバーが紛失している、などで困ることがあります。

2.目次

これは図書館に限らず誰もがチェックする項目でしょうが、内容を知るうえで重要です。書誌データの作成時に目次のデータも採録することがあります。

3.ページ数

これは細かいことですが結構重要でして、まず新刊納品時に落丁乱丁がないかパラパラめくってチェックしますし、書誌データと現物を照合する際に、ページ数が違うと「違う本」と判断することもあります。
また「第二版」とかになっていると、ページ数で初版と内容の異同があるか推定できます。
行方不明の本を捜索するときもデータでページ数を調べて「これは極端にページ数が少ないからたぶん薄い本で、他の本に挟まっていそう」などと目星をつけられます。
利用者からの依頼で調べもののお手伝いをするときも、ページ数によって「分厚い本で内容が充実していそう」「テーマに対してページ数が少なすぎるから簡単な説明だけかも」という判断の目安になります。

4.奥付

本の後ろ(洋書とかだと前にあったりもしますが)にある出版年や出版社などの情報が書いてあるところです。標題紙を補完するかたちでタイトル等をチェックするほか、「情報としてどれくらい新しい本なのか」(出版年)、「物理的にどれくらい新しい本なのか」(刷年)を知るうえでも重要です。

5.著者略歴

同じテーマの本でも「どういう人が書いたか」によって扱いが変わることがあります。例えば同じ魚の写真集でも、アート分野で賞を獲っている写真家だと芸術、魚類学者だと動物学(魚類)、漁師さんだと産業(漁業)とかに分類されたりですね(図書館によって違いますが…)。
また地元や図書館所属組織にゆかりのある著者だと、特集コーナーをつくって展示することもあります。

6.あとがき・まえがき

本の趣旨や出版の経緯について書かれていることがあるので参照します。翻訳書の場合「訳者あとがき」も重要です。完訳なのか抄訳なのか、底本は何か(原書がロシア語でも英訳版からの重訳だったりするのです)、といったことをチェックします。

7.その他

参考文献リストや索引があるか、写真や図版がたくさんあるかもポイントです。あと利用者は「タイトルは忘れたけど青い大きな本だった」みたいな漠然とした問い合わせをしてくることがあるので、なんとなく「このへんにこんな本があったな」というイメージで覚えておくのも役立ちます。

8.本を見る技術:応用編

利用者からの問い合わせ対応で洋書(フランス語)の棚をご案内したことがありました。その方はぜんぜんフランス語がわからないのですがゴシック建築の写真がいろいろあれば、ということで直接本を見にいったのです。利用者が取ろうとした本を見て「それは近代建築なのでお探しのものとは違うかもしれないですね」と言うと「すごい、フランス語が読めるんですね!」と勘違いされて尊敬されてしまったのですが、私はフランス語など読めません(職場には読める人もいますが…)。私が見ていたのは背ラベルです。背ラベルには分類番号がついているので「523.045(ゴシック建築)を探す」→「この本は523.06(19世紀建築)だから違う」と判断したわけです。このように自分が読んだこともなければ読めもしない本の内容を「見て」判断できるのも図書館の便利なところです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?