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私とキリストと芥川龍之介

私事で恐縮ですが、先日誕生日を迎えました。
毎年この時期に思うのが「こんな季節に産まれてくるもんじゃないな…」ということです。
連日の猛暑日。高温多湿。不快指数最高。紫外線最強。跋扈する害虫。台風と豪雨災害。お年寄りが熱中症で救急搬送。
この時期に出産して新生児を育てるのは大変だったでしょう。母があせもで苦労したと言っていたことがあります。
出生時からの親不孝に加え「お誕生日パーティ」などを開催してもらうのも気が引けます。そもそも外出は控えるよう呼びかけられています。ドレスアップしてもすぐ汗じみになりますし、化粧は崩れ放題、ケーキもクリームがどろどろ、せっかくごちそうが出てもみんな夏バテ気味で食欲不振、と不安要素満載です。
そういえば16歳になったとき、産んだ母も含めて世界中の誰一人として私の誕生日を覚えていなかったという悲しい記憶もありますが、私としても「ま、しょうがないな。この時期じゃ」と思いました。
みんなむしゃくしゃしてお祝いどころではないうえ、小中高は夏休み、大学は前期試験と重なるタイミングでもあります。

キリストの誕生日

そこで思うのですが、キリストの誕生日が12月25日というのはなかなか絶妙な設定ではないでしょうか。
史実のイエスはこの日に産まれていないという説もありますし、キリスト教的な必然性があって定められたものとは思いますが、宗教とは無関係に、クリスマスという年中行事が日本に定着するうえで、最高のマーケティング戦略と言えます。
日照時間が短く人恋しくなる一方で、すくなくとも東京周辺ではまだそこまで極寒ではなく、台風も来ないし、雪もロマンティックにちらつく程度で、なによりごはんがおいしく、ケーキを焼くにも最適な気候です。
もしクリスマスが7月下旬だったら、ここまで日本に定着したでしょうか。

芥川龍之介との関係

私の誕生日と並ぶ(?)この時期のイベントと言えば「河童忌」です。

芥川龍之介の命日ですね。
芥川龍之介は1927年7月24日、自ら命を絶ちました。
彼が内面にどんな憂悶を抱えていたのかわかりませんが、友人だった作家の内田百閒は「あんまり暑いので、腹を立てて死んだのだろう」と書いています(『河童忌』ちくま文庫『内田百閒集成6』より)。
あながち冗談とも言い切れません。理由はほかにもあったにしても、暑さがダメ押しになった可能性はあります。実際ものすごく暑い年だったそうです。冷房のない時代にこの暑さにさらされたら、死にたくなっても不思議はありません。暑さ・寒さというのは一身上の不幸に匹敵するストレスになりうるそうで、軽く見てはいけません。

毎年誕生日になると「産まれるより死ぬほうに適した季節…」とちらっと心をよぎります。
もしかして今も精神的に追いこまれている人がいるかもしれませんが、その不調は暑さのせいと思って、とりあえず何事も決断は涼しくなるまで先送りすることにして、冷房を使ってください。電気代が心配な方は図書館に行きましょう。

みなさまどうぞご自愛ください。


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