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サンアントニオ旅行記 -世界遺産と微妙なラーメン-

サンアントニオを訪れた初日にNBA観戦をした (それについてはこちらの記事に書いた)。観客席でじっと試合を見ていると隣のおっさんがフランクな感じで話しかけてくる。地元に住む人で小さい子供のいるお父さんらしい。タプタプとしたお腹と優しくもたくましく生えたヒゲがトレードマークといった輩だ。まあよくいる中年アメリカ人男性といえばそれまでだが。ヒゲの奥に隠れた小さな口から発する言葉はこうだった。

サンアントニオにいつまでいるんだ?1/16 (月)か。月曜日は死ぬほど寒くなるみたいだから堪忍しておき!

「ふむふむ、そうですか」とそれを聞いた時にはスルーした。それよりもバスケの試合の方が大事だったからだ。

だけれど月曜日の朝を迎えて深く納得した。これは寒い。スマホで気温を見るとなんと氷点下じゃないか!それにしても昨日まで暖かったことに加えてここがテキサスの砂漠の上であることを踏まえるとどうにも信じられない。

着替えを済ませてホテルのロビーに降りると行き場を失った観光客で溢れていた。あまりの寒さで外出することをやめて帰ってきてしまったらしい。こういう時アメリカ人はあっけらかんとしていていい。「じゃあホテルでぼーっとするか」みたいなことを言ってゲラゲラ笑っている輩もいる。頼もしいと言えば頼もしい。

ぼくの場合はというと「ここまで来たからには心ゆくまで楽しみたい」と思っている自分がいる。ムリしてでも観光してやりたい。というわけで突き刺すような冷たい風がピューピュー吹くなかダウンに身を包んでホテルを後にした。

行き先はミッショントレイル。伝道所、つまりアメリカ最古の教会もしくは宗教施設が数多く存在しており、徒歩またはUberではしごしながら訪れることができる。世界遺産にも登録されている場所と聞いたからには、これは行くしかない。

Mission San Jose (ミッション・サンノゼ)

最初に来たのがここ。ミッション・サンノゼには当時の伝道所の面影を見てとることができる。入り口からして「おーーー」と思わず声を出してしまう趣深さ。アメリカという国はヨーロッパや日本と比べると歴史というものを深く感じることがあまりないけれど(なんてったってつい200~300年くらい前に出来た国ですもんね)この場所については流石に時の流れをしみじみと感じた。

訪れた伝道所はどこも入り口にこんな感じのオブジェが置かれていた
歴史を感じる入り口の門

歩を進めていくと教会の建物が見えてくる。この日は寒すぎて誰もいなかったこともあってか、どこまでも物悲しく見える。この建物を見ていると「終わり」というものの一つのかたちを見てしまったような気持ちになる。

ドラクエとかにも出てきそうだなと思った
ヨーロピアンな感じ
教会の前にひっそりと佇む墓。ぼくがもしエモいバンドを率いている立場だったらこの写真をアルバムのジャケットに使いたいと思う日もあるかもしれない。何の話だ。

当時住んでいた様子も残されていてこれも思わず見入ってしまう。当たり前だけれどインターネットもスタバもない時代。生活は限りなくシンプルでそこには神を信じる心と慎ましく生きる修道者の姿だけがあったのだろう。アメリカも随分と変わってしまったよなと思う。まあそんなこと言えば日本も大きく姿を変えて今のかたちがあるわけだけれど。

当日の生活を再現した部屋

教会の中に入ってみる。建物の中は思ったよりも明るく、天井が高いこともあって外よりも開放的に思えるほどだった。とても丁寧に管理されているようで綺麗で華やかだった。

せっせとギターに弦を張るおじさん。このあと演奏でもするのだろうか。

Mission Conception (ミッション・コンセプション)

次に訪れたのがここ。先ほどのミッション・サンノゼの近くにある。同じ伝道所ということでデザインは似ている。ただこちらの方がより一層物悲しい感じがした。だからこそと言うべきなのか建物は限りなく美しく見え、深く心を打つものがあった。世界遺産に登録されているというのも納得だ。

入り口のオブジェ
荘厳で美しい。いつまでもこの形で残っていてほしいと思うのはぼくだけではないはず。

それにしても人がいない。いくら寒いとはいえ有名な観光地なんだからもっと人がいてもいいんじゃないかと思った。今にも雪が降りそうな天気だったから足が遠のくのも理解できるが。

そんなことを考えながらふらっと教会の中に足を踏み入れる。するとそこには驚くべき光景が。

教会が教会として機能している当たり前の姿がそこにはあった。神父様が聖書かなにかを読んでいる。その言葉にじっくりと耳を傾ける聴衆。おそらくここにいる全員が地元の人という感じがした。そのクラシックな建物の中で目に映る光景を前にすると古き良き時代にタイムスリップしたかのようだった。

この教会は遺跡なのではない。現役で今も人々の暮らしを支えているのだ。そう思うと随分と感動するところがあった。残っているのは建物だけでなく人々を信仰によって支えようとする精神ともいうべきか。

アメリカの様々な場所を旅していてよく思うけれど、一歩足を踏み入れると全く異なる光景が待っていたりする。ここもそうで外観からは想像もつかないローカルなアメリカの姿がそこにはあった。こういう瞬間を見れるだけで旅に出た甲斐があるなとつくづく思う。

教会の中の思わぬ光景

微妙?なラーメン

その後も伝道所を渡り歩き、予定よりも早くミッショントレイルを見終えた。さて今日はここから先なんの予定もないんだよな。どうしたものか。

それにしても寒いなーーー。


え?


ラーメン食べたい?


ぼくの心の奥に住んでいる小人がそう叫んでいるような気がした。「ラーメン食べてーよー!ピコピコ」みたいな感じで。こんな寒い日には体の芯から温まるようなものを食べたい。そう思うのもムリはない。

でも待てよ。アメリカでラーメンを食べにいくのは要注意なのだ。それは以前シカゴを旅したときによく学んだじゃないか (詳しくは以下の記事を参照のこと)。あんな決定的になにかが欠けている微妙なラーメンを食べるのはまっぴらじゃないか。

とはいえこの寒さだ。寒さと言えばラーメンじゃないか!

そう息巻いている自分がいる。そういえば今朝から異様に寒かったのもすべてはぼくにラーメンを食べさせるためのフリであったような気もしてきた。きっとそうだ。そうに違いない。

そんなこんなでGoogle Mapで近くのラーメン屋を探してみた。アメリカの都市にはラーメン屋は実は少なくない。その中から評価が最も高い場所を選んでいくことにした。ラーメン♪ラーメン♪と言いながらぼくの心の中の小人も小躍りしている。

辿り着いたのは「ヒーローラーメン」というお店だった。"横浜家系らーめん"というからにはあのドロっとした豚骨ラーメンが食べられるのだろう。そう言えば久しぶりに食べたいな、家系ラーメン。

お店の入り口

店の中に入る。すると昔の駄菓子屋っぽい光景が目に入ってきた。ラーメンを食べる前にも、そしてラーメンを食べた後にもお菓子を食べたくなることはないだろう。そう静かに心の中でつっこんでいた。

今思えばこの時点で「まずいな」と勘付いている自分がいたのだ。振り返ったところで仕方ないけれど。

日本のお菓子がところ狭しと並んでいる

店内は明るくお客さんもまずまず入っていた。考えることは同じなのだろう。こんな寒い日にはやっぱりラーメンである。

明るく清潔な店内

入り口で食べ物を注文するというスタイルだった。ぼくはざっとメニューを見た。すると「うなぎ丼」という言葉が視界をとらえた。

こんなものがアメリカにあるのだなと感心してしまった。まずは腹ごしらえにこれを食べようじゃないか。うなぎとか久々に食べたいし。そしてラーメンはというと看板メニューの豚骨ラーメンにした。

席につくや否やサーバーがその「うなぎ丼」は持ってきた。アジア系のアメリカ人の彼女は自信満々の顔で差し出すではないか。

うなぎ丼

まずは一口。

これは一体なんだ。まずうなぎを食べるときってあの甘くてドロっとしたタレの味が重要な役割を果たすはずだ。白米にあの茶色い汁がじとっと染み込む。そしてうなぎとご飯を口にかき込む。口に広がる甘さとうまさ。

でもこれはなんだ。まずあのタレがちょこっとしかかかっていない。そしてそのわずかなタレを白いお米粒が固くなに染み込むことを拒否しているかのようだった。お米一粒一粒が雨をパキッと弾くレインコートを着ているかのようだった。

あのーーー‥ パッサパサなんですけど(笑)。あまりに淡白な味で思わず笑ってしまった。

肝心のうなぎも「確かにこれはうなぎのような味はしているけれど、ひょっとしたらそっくりさんの他の魚を食べさせられているのかもしれない」という疑惑が生まれては頭から離れることはなかった。

おーなかなかパンチに効いたオープニングだぜ。そう思ってたら主役のラーメンの登場だ。

家系ラーメンの登場

見かけはそれっぽかった。でもスープを一口飲めば分かる。そこに全ての答えが詰まっている。


これは微妙だ。とても微妙だ。


…というか、これはまずいと言って差し支えないかもしれない(笑)。

まあなんてコクのなさなんだろう。スープに絶望した後、残りの希望を麺やチャーシューに授けた。でも後に待っていたのは「このどんぶりの中で一番うまい食材は外側にはみ出しているノリだ」という事実だった。

「もういいからノリだけ食わしてほしい。」ぼくの中の小人が肩を落としてため息混じりにそう言っているような気がした。


あれだけラーメンが食べたかったのにあの気持ちはどこに行ってしまったのだろう。ラーメンは温かったけど気持ちはちっとも温まらなかった。会計を済ませ、また冷たい風が吹き荒ぶ外へと出た。

帰りは歩いてサンアントニオ美術館に寄った。絵のセレクションにとりわけ感心をしたわけではないけれど、一枚の絵がやたらとぼくの心を惹きつけた。

なんだか今の自分の気持ちを絵にしたらこんな感じなんじゃないかと。そう思ったのだった。

随分とダークなぼくの気持ちを代弁してくれているかのようだ


今日はそんなところですね。サンアントニオは全米の中でも屈指の観光名所として知られているみたいです。お近くにお越しの際はぜひ寄ってみてもいいかも。でもラーメン屋だけは要注意っす!

それではどうも。お疲れたまねぎでした!




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