サンアントニオ旅行記 -コーラといえばメキシコでしょ-
サンアントニオの旅は続く。天気に恵まれたこの日はひたすら散歩をすることにした。
街並みはどこかカラッとしていてそれでいて親しみやすい温もりがある。行き交う人々は気が抜けているようにも見えてリラックスしている。ちょっとよそよそしい感じのするシアトルの人々とはこんなところにも違いがある。当てつけかもしれないがアメリカでは南に行けば行くほど、そして気候が暖かくなればなるほど、人当たりはいいように思える。気のせいかな。
アラモ砦
最初の目的地はアラモ砦という場所だ。ここはサンアントニオ随一の観光名所。今から200年近くも前に(1836年)メキシコの一部だったテキサスが独立を勝ち取るべく戦っていた。その独立戦争の時に要塞として使われたのがこのアラモ砦というわけだ。
白い石を積み上げて作られた要塞。元々は伝導所(教会ができる前にあった宗教施設という意味らしい)だったのだが、戦火の中で軍の駐屯地として使われる運びとなった。
装飾一つないシンプルな外観は砂漠の上に作られた建造物としてピッタリだなと思った。雲一つない晴天の元でこの乾いた建物を見ているだけで喉が渇いてくるようだ。中の作りも至ってシンプル。がらんとした室内には戦争の遺品がゆとりを持って並べられていた。
たまたま地球の歩き方を持っていたのでアラモ砦に関するページを開いてみた。メキシコの大軍が迫ってきたときのアメリカ軍の奮闘についてこのように綴られている。
ぼくはこれを読んで深く考え込んでしまった。
細かい事情は知らない。だけれど、死を選んだ188人と「死にたくない」と言った1人、そのどちらの方が勇気があったと言えるだろうか。そこには間違いなく同調圧力というものが働いていたのに違いないし、188人の中には自らの意思で選択したものもいただろうけれど周りに気圧されるかたちでそうなってしまったという人もいるかもしれない。だとしたら「おれやっぱり死にたくない」と意思表示した1人はとても勇気があったに違いない。
もちろん愛国心に燃えて戦い抜いた人の勇気はとんでもなく凄い。そこは讃えられるべきだし当然異論はない。でも自分の気持ちを正直に言う人だって同じくらいの勇気がいたはずだ。ちなみにラテン語で勇気を意味する言葉はそもそも「自分の思っていることを他者に打ち明けること」という意味を持っていた、という話を聞いたことがある。
うーむ、なかなか深い話だ。そう一人で唸りながら次の目的地へと歩を進めていく。
リヴァーウォーク
サンアントニオのダウンタウンの中心部には川が突き抜けるようにして流れている。曲がりくねったこの川の両岸は遊歩道となっており、散歩をする人やレストランで食事をする人が。これが歩いているだけでもなかなか楽しいんですよね。
京都にある哲学の道をふと思い出した。あの道も「哲学」という小難しい言葉を使っているにも関わらず、全部歩き通そうとすると結構な距離があってびっくりしたものだ。このリヴァーウォークもとっても似ていてまあまあ距離がある。とはいえいい運動になるから問題なし。
メキシコのコーラ
ヒストリック・マーケットという場所に行き着く。メキシコの隣ということもあって、サンアントニオにはメキシコの影響が色濃く残っている。このマーケットはそのど真ん中を行くメキシカン・マーケットだ。ディズニー映画で『リメンバーミー』という素晴らしい傑作があったけれどあれを思い出す。
小腹も空いてきたということでここで軽くランチ。前日にNBAの試合を観戦していたときに地元に住んでいるというおっさんがやたらとこう話しかけてきたのだ。
ローカル情報に間違いはないだろう。そんな訳で近くのメキシコ料理屋へ。メキシコ人の店員に「コーラはあるか?」と尋ねると「あたりめーよ!」と食い気味でレスポンスが返ってきた。そそくさと冷蔵庫から取り出し手際よくプシュッと蓋を開けてぼくの目の前に差し出す。
見かけは至って普通のコーラ。強いて言えばここでは瓶でコーラを飲むということぐらいか。
何はともあれ一口飲んでみる。ゴクっ。
うーむ。なるほど。
確かに違う。いや、全然違うと言ってもいいかもしれない。
まず目が覚めるような甘さで思わず背筋が伸びる。気のせいかもしれないけれど炭酸も若干強い気がする。瓶で飲むという体験も好印象で、つるんとしてころんとした飲み口はどこまでも口当たりがいい。暑い日にはこのコーラをガブガブと飲んでしまう姿が容易に想像できた。
あとで聞いた話だけど、このコーラにはコーンシロップが入ってるそうだ。どうりで甘いわけだ。
コーラだけだと味気ないし(まあとは言っても強烈な味だったわけだけど)口寂しいということでタコスを頼んでみる。
トルティーヤの中にはチョップした牛肉の上に薬味がまぶされている。こんなにシンプルなのに(いやだからこそと言うべきか)これがまたとても美味しい。素朴だが記憶に残る味わい。
飲んだ食った、ということでお店を後にする。水を飲み干してから店を出たわけど、歯の奥にあの甘いコーラがまだ詰まっているような気がした。
Pearl District (パールディストリクト)
夕方にかけておしゃれなお店が集まるというパールディストリクトまで出かけることに。
またリヴァーウォークをてくてくと歩く。何を考えるでもなくふらふらと歩いていると不思議な光景が目に入ってきた。
青みがかった上半身にピンク色の腹部。お世辞にもかわいいとは言えない…というかグロテスクとしか言いようがない魚のオブジェ。それらが橋の下にいくつも並んでいる。
うーむ、一体これを見てどう思って欲しいんだろうか(笑)。ちなみにこれはピラニアってことらしい。この川にはピラニアがいるようで実際にこの姿をした魚が川でゆうゆうと泳いでいるのを目にして驚いた。どれだけ酔っ払ってもこの川にだけはうっかり足を踏み入れたりしないようにと心に誓った。
そんなこんなで思わず笑ってしまいながら前に進む。
途中に川沿いでビールを飲みながら休憩しつつ、マイペースに散歩する。そうこうしているうちにお目当てのパールディストリクトに着いた。
ヨーロピアンな感じの建物が連なり中にはバーや洒落たレストランが顔を覗かせる。中央には大きい広場があり家族連れやカップルがそれぞれの形で休日を楽しんでいるようだった。お酒を飲む人もいれば、犬の散歩をする人も。きっとローカルの人々から愛されている場所なのだろう。リラックスした呼吸と自然なスマイルに溢れていた。
Jazz TX
もはやアメリカの都市を訪れたらその地元のジャズバーに行かないと気が済まない体になってしまっている。パールディスクリトを散歩したあと、広場の地下にあるジャズクラブを訪れる。ここJazz TXはサンアントニオ随一のジャズクラブとのことで期待で胸が高鳴る。
店内は横に長くゆったりと食事を楽しめるような作りになっている。奥には品のいいバーが。ぼくはこのバーに腰掛けてパスタを食べながら地元のクラフトビールを飲みつつ開演を待った。
いざ開演。今日はビッグバンドによる演奏。
一曲目がニューオリンズテイストの伝統的なスィングジャズだったこともあって「今日はこういう感じか」と悟った気でいた。ところがどっこい、演目は多岐に渡るものでビリー・ホリデイをやったかと思ったらトム・ウェイツの昔の曲をやったり、更にはビリー・ジョエルの曲まで。ピアノマンがブルースを唸るように歌い切る曲なんかもあってびっくりしてしまった。
ジャズのライブは結局行ってみないと、そしてその場にいないと、何が起こるか分からない。そんな偶発性に身を委ねる体験がなんとも言えない。だから異なる場所へと旅立ち、異なるジャズクラブを訪れ、異なるミュージシャンによる演奏に耳を傾ける。そんな気がする。
お腹いっぱいジャズを聴いた後に家路へと着く。川沿いを逆戻りする形で歩いていく。すると頭上におどろおどろしい光が目に入る。
なんだこれは。ピラニアが光ってるじゃないか。
…気持ち悪い(笑)。見なかったことにしてスタスタと足早に通り過ぎる。
ホテルの近くまで着くとそこには美しい光景が。川沿いにはレストランで食事をする人々や観光用のボートに乗る人が。この川は夜が深まれば深まるほと綺麗なんじゃないかと思った。
今日はそんなところですね。サンアントニオの旅についてはもう一つ記事を書きます。お楽しみに〜。
それではどうも。お疲れたまねぎでした!
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