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集中力が9割 - なぜ村上春樹さんは毎日走るのか? -

2冊の本を読んだ。村上春樹さんが走ること、そして小説を書くことについて書いたエッセイだ。

走ることについて語るときに僕の語ること

職業としての小説家

村上春樹さんのエッセイは、(まあぼくが今更なにかを言う必要はないのだけれど)、ただただ読みやすい。それこそ天気のいい朝に川沿いを「タッタッタッ」とジョギングするかのような軽快さと心地よさがある。そんな小気味良いリズムで語られると、日常のなんでもないことだっていくばくかの説得力を持って聞こえてくる。実際に村上春樹さんのエッセイを読み終えたときには、この世の中について、もしくは人生についての真理を (といったら大袈裟かもしれないが) 少しばかり知り得たような感覚にさせてくれる。もう十分大人だけど、そんな自分でもまた一段大人の階段を登ったような気にさせてくれる。そういえば昔書いた記事でも「アボカドはむずかしい」というどうってことないエピソードが秀逸だったという話をしたな。

今回読んだ2冊のエッセイについては、期待通り"学び"があるものだった。ただその軽快な文章のリズムはいつもながらも、その内容についてはある種の"重さ"を感じるものだ。それは内容がヘビーということではなくて、なんというか"マッチョ"な精神論を感じるものだった。もちろんいい意味で。そしてそれは仕事を頑張ろうとする人にとってとても深い教訓があるものだったと言っておこう。

集中力なくして成果なし

小説を書くうえで何が必要か?という質問について、村上春樹さんは以下のように答えている。

小説家としてインタビューを受けているときに、「小説家にとってもっとも重要な資質とは何ですか?」という質問をされることがある。小説家にとってもっとも重要な資質は、言うまでもなく才能である。文学的才能がまったくなければ、どれだけ熱心に努力しても小説家にはなれないだろう。

走るときについて語るときに僕の語ること

これはまあど正論だ。ここをスルーして他を語っても説得力を欠くというものだろう。大事なのは、ここからの部分だ。

才能の次に、小説家にとって何が重要か資質かと問われれば、迷うことなく集中力をあげる。自分の持っている限られた量の才能を、必要な一点に集中して注ぎ込める能力。これがなければ大事なことは何も達成できない。そしてこの力を有効に用いれば、才能の不足や偏在をある程度補うことができる。僕は普段、一日に三時間か四時間、朝のうちに集中して仕事をする。机に向かって、自分の書いているものだけに意識を傾倒する。ほかには何も考えない。ほかには何も見ない。

走るときについて語るときに僕の語ること

ほぼ例外なく、村上春樹さんのベストセラー作品というのはこの集中力を保ってこそ生まれてきたものなのだろう。集中力なくして成果なしというわけだ。

ただこれは普通に仕事をしている人にもほぼほぼ当てはまることなんじゃないだろうか。キャリアの金字塔になるような過去の成功体験をしたときには、もう周りなんかまったく見えてないぐらい無我夢中になっていたという人が多いはずだ。お客さん向けの大事なプレゼンがバッチリできたとき、手応えのある企画書・ドキュメントを作成できたとき、新しいプロダクトをギリギリの納期に間に合わせてリリースできたとき。そういった輝かしい仕事の成果を出すときにはいつだって頭がフル回転してたはずだ。逆に言うと、目や耳があっちへ行ったりこっちへ来たりといった散漫な状態で胸を誇れるような成果をぶち上げた、ということは稀だろう。ぼくはアマゾンジャパンにいるときにPMとしてプライムデーやブラックフライデーといったセールイベントの統括をしていたけれど、思い出すのは一人オフィスに残って黙々と企画書を書いているときのことだ。11:30PMの消灯の時間でオフィスの電気がぱって消えて「え、もうこんな時間か!」と気づくあの瞬間だ。

では集中力があればもうパーフェクトなのだろうか?

集中力の次に必要なものは持続力だ。一日に三時間か四時間、意識を集中して執筆できたとしても、一週間続けたら疲れ切ってしまいましたというのでは、長い作品は書けない。日々の集中を、半年も一年も二年も継続して維持できる力が、小説家には  - 少なくとも長編小説を書くことを志す作家には - 求められる。

走るときについて語るときに僕の語ること

ここで注意したいのは、"集中力を"持続させることが大事、ということだと思う。少なくともぼくはそう解釈した。つまり、やるんだかやんないんだが分からないような状態で毎日続けても、それはきっと納得のいく結果を生み出すということにはならないだろう。たとえて言うならば、毎日会社の帰り道に特に買いたいものがあるわけでもないのにコンビニにふらっと足を踏み入れて3分ほどスナックとアイスのコーナーをぶらぶらを眺めたあと手ぶらで店をあとにする。これを繰り返しても特段なにかに繋がる、ということは残念ながらないんじゃないか (コンビニはいつ訪れても楽しいけれども!)。

では、物事を持続させるためには何が大事なのだろうか?それに密接に絡んでくるのが、どうやら"走る"ということのようだ。

なぜ村上春樹さんは毎日走るのか?

村上さんは走る。この『職業としての小説家』という本が刊行された時点で、ほぼ毎日1時間程度のランニング、あるいは泳ぐことを生活習慣にしてきたという。それも30年以上にわたって。

一体なにが彼を走らせるのだろうか?毎日コツコツと執筆を続けるのは我慢強さが求められる作業であり、それを支えるのは言うまでもなく持続力であるとしたうえでこう続ける。

それでは持続力を身につけるためにはどうすればいいのか?それに対する僕の答えはただひとつ、とてもシンプルなものです - 基礎体力を身につけること。逞しくしぶといフィジカルな力を獲得すること。自分の身体を味方につけること。

職業としての小説家

先ほどの"集中力を"持続させるためにはまずもって身体が大事であると。

ただどうやらそれだけではないらしい。

毎日の執筆作業を続けるには並大抵ではない集中力が必要で、それを更に下から支える心の強さが要になる。その心の強さを形作るのが、走るという行為のようだ。

小説を書くという作業に関して言えば、僕は一日に五時間ばかり、机に向かってかなり強い心をいだき続けることができます。その心の強さは - 少なくともその多くの部分はということですが - 僕の中に生まれつき具わっていたものではなく、後天的に獲得されたものです。僕は自分を意識的に訓練することによって、それを身につけることができたのです。

職業としての小説家

集中力を毎日注ぎ込むだけでも大変だ。とはいえ仕事は、もっというと人生は複雑で難解だ。自分なりに色々と頑張ってはいるものの言われようのない陰口を言われたり、パートナーや友達とケンカしちゃったり、釣りをしてたら崖から落ちたり (これはぼくだけかもしれませんが)。そんなうんざりするような日々を生きて、そして仕事をしっかり全うするうえでなにが大事か?

職業的小説家であるという一点に関して言えば - 個別的な相違を貫いて、何かしら通底するものがあるはずです。一言で言えばそれは精神の「タフさ」ではないかと、僕は考えています。迷いをくぐり抜けたり、厳しい批判を浴びたり、親しい人に裏切られたり、思いもかけない失敗をしたり、あるときには自信を持ちすぎてしくじったり、とにかくありとあらゆる現実的な障害に遭遇しながらも、それでもなんとかして小説というものを書き続けようとする意志の堅固さです。

職業としての小説家

自分の人生やキャリアにおいて手綱を握るには心の強さ (= 意志の強さ)というものが必要になってくるだろう。

意志をできるだけ強固なものにしておくこと、そして同時にまた、その意志の本拠地である身体もできるだけ健康に、できるだけ頑丈に、できるだけ支障のない状態に整備し、保っておくこと- それはとりもなおさず、あなたの生き方そのものクオリティーを総合的に、バランス良く上に押し上げていくことにも繋がっていきます。

職業としての小説家

健全な精神は健全な肉体にしか宿らない、のかも。

まとめ (る必要もないけれど)

ここまで書いておいてなんだけれど、ぼくは絶対に走らない (笑)。だって疲れるし、つまらんし。ぼくは昔からランニングといったものが嫌いで、なんでわざわざあんな退屈なことをするんだろうと不思議に思っていたぐらいだ。だから走らない。

とはいえ自分の場合はストレッチを毎日やろう。昔から音楽をかけながらストレッチをするのが好きなのだ。寝る前にやるストレッチなんて最高だ。部屋を暗くしてランプを一つ灯して、ゆっくりと労わりながら体を伸ばす。おっと書いているうちに気持ち良くなってすやすやと寝てしまいそうだ。

きっと走ることじゃなくてもいいと思う。集中力を持続させるタフな精神、それを包み込むためのしっかりとした身体。それを形作る自分なりのルーティーンがあれば、それはきっと人生を豊かにするための一助となるだろう。

お気づきかもしれないが、村上春樹さんは「集中力が9割」とは言っていない。なんだけれど、仕事に関していう限りは、そう言ってもぜんぜん差し支えないんじゃないかというのがぼくの意見だ。

うむ、なかなかいいが顔がでかい。

今日はそんなところかな。写真はシアトルのダウンタウンで見つけた素敵な絵です。

それではどうも。お疲れたまねぎでした!

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