第18回Book Fair読書会レポート~貴方がいる季節だけが~

画像1


「もっとガチガチのプレゼンをしあうのかと思っていたけど、皆さんが優しくて良かったです」

今回、読書会自体に初参加だった方が、終了後にこう話してくださいました。

(今まで、それほど意識していませんでしたが)「優しい」というのが、Book Fairのカラーになっていると感じました。それは、私が意図して作れるものではありません。本当にありがたいです。

相手の言葉を拾って、称える。全く知らなかった分野との出会いを、面白がれる。

こうした空気があると、「次は何を紹介しよう」「こんな考えも言ってみたい」と積極的になれますよね。

実際、1年以上続けていると、生活の変化もあってメンバーは入れ替わります。

それでも、参加歴に関係なく、自然とその雰囲気が引き継がれています。だから、初参加の方も安心して楽しめるのだと思います。

(司会者のF氏、実は何もしていない疑惑が浮上…)

◆会の流れ

開場・帯書きタイム→自己紹介(お題:炬燵で読みたい本)→【本の紹介タイム(5分)+感想タイム(5分)】→【 】内を、紹介し終えた人が次の人を指名する形で続ける→まとめ・本の集合写真

※( )内の数字は参加回数です。

ニャンちゅうさん(13)→三浦展『お客さま、そのクレームにはお応えできません![小説]不動産屋店長・滝山玲子の事件簿』知恵の森文庫

画像2

前回のBook Fairの帰りに、他の参加者さんと神保町ブックフェスティバルに行った際に、買った本です。

全部で11話の短編集になっていて、不動産屋で働く主人公が、特徴的なお客さんからのクレームに対応していきます。

例えば不動産屋に、賃貸の入居者の勤め先から「3日間無断欠勤しているんだけど」と電話が入ります。それで結局、店長が親御さんと共に、その人が生きているかどうか見に行くんです。この展開には「本当に行っちゃうんだ!」と驚きました。

面白いところでは、風俗嬢とキャバ嬢の見分け方なんかも分かります(笑)。私のように小説が苦手な人でも入りやすく、社会常識を学べる本でもあるので、おすすめです。

▼炬燵で読みたい本…垣根涼介『ヒートアイランド』

これは8月のBook Fairで紹介された本。タイトルからして、あったまりそうだから…

おっくんさん(2)→渡辺龍太『1秒で気のきいた一言が出るハリウッド流すごい会話術――世界の一流が学ぶ77のルール』ダイヤモンド社

画像7

この本は、著者がハリウッドで学んだ即興の会話力「インプロ」のスキルを、演劇ゲームの形で学べるという本です。自分は池袋の天狼院書店で、渡辺さんを講師に実際のゲームもやりました。

例えば「あり」「いす」「うさぎ」などと、あいうえお順に頭文字の言葉を言っていくゲームがあります。これをやってみると、「自分は何も話せない」と思い込んでいる人でも、意外とできると気付きます。舞台の上では、黙ってしまうことこそが危険な状態だといいます。とにかく何か話すことで、その人に「役割」が与えられるそうです。

他にも、

・何を聞かれても「はい、そうなんです。実は…」で答える「YES,AND」ゲーム

・社長になりきって、どんなトラブルを報告されても「ちょうどいい!○○しよう」と答えるゲーム

などがあります。簡単でわかりやすいゲームを通じて、コミュニケーションの基礎が学べるので、「努力しよう」と思う必要がないのがいいですね。

(感想タイムを使い、おっくんさんを司会にゲームを体験!めっちゃ盛り上がりました♪)

▼炬燵で読みたい本…ミヒャエル・エンデ『モモ』

時間を忘れて読める児童文学を通して、行間を読む力をつけたい!

ななうみさん(初)→暁佳奈『ヴァイオレット・エヴァーガーデン(下)』KAエスマ文庫

画像8

何度泣いたことか…というほど感動した作品です。小説とアニメ、ぜひ並行して読んでほしいです。

兵器として育てられた少女(ヴァイオレット)が主人公です。彼女は、育ててくれた少佐を「上司として」慕っていますが、一方の少佐は少女を「女性として」愛していました。戦争の終盤、少佐は少女に愛していると伝えますが、ずっと兵器として育てられた少女は「愛」の意味を知りません。

少佐を失った少女は、その意味を探すため「自動手記人形」という代筆屋を始めます。そこでの出会いを通して、だんだん人の気持ちを汲み取れるようになっていき、少佐が言った「愛してる」の意味も分かるようになります。

ヴァイオレットが文字や感情を知る過程で「航空祭」があります。これは、「拾った人を元気にする内容の手紙」を空からばらまくイベント(原作での設定)で、そこでヴァイオレットも初めて手紙を書くのですが、その一節が今回の帯です。

この言葉は、何度も胸に響きました。今、大切な人がいるのなら、その人を大切にしてほしい、言葉を伝えてほしいなと思いました。

▼炬燵で読みたい本…百田尚樹『カエルの楽園』

読みながら色々と考えたい。でも本当に読みたいのは、(炬燵にいると食べ過ぎそうだから)糖質制限の本です。

ヒロさん(10)→山岸凛子『日出処の天子』白泉社文庫

画像9

聖徳太子(太子、皇子)の半生を描いた漫画で、これが最終巻(第7巻)です。少年時代に始まり、政敵を討ち滅ぼし権力を獲得していく過程が描かれています。

ただ凄いのは、聖徳太子のキャラクターがめちゃくちゃ書き換えられていることです。聖徳太子といえば「篤く三宝を敬え」などの言葉に代表されるような、堅苦しいイメージがありますよね。

しかし本作では、仏教は統治の為の道具に過ぎず、心の底では何も信じていない。冷徹な合理主義者です。しかも超能力が使える天才で、謀略に長けた諸葛亮(『三国志』)のような一面も持っています。そして彼は、男色家で女ぎらい、つまり同性愛者なんです。

こんなに色々と変えて、この話大丈夫か?と思われそうですが、史実に関する部分はほぼ外していません。同性愛者という設定も、全体を読むと辻褄が合うようになっている。一方で「ええ~っ!?」という驚きもある作品になっています。

聖徳太子の好きな人は、歴史上は大悪党の蘇我蝦夷(えみしくん)です。聖徳太子が周囲から恐れられていても、朗らかな性格のえみしくんは怖がりません。人の心を操る超能力もえみしくんには効かず、それゆえに恋をしてしまうのですが…。そんな聖徳太子の告白が、最終巻の名シーンです。

帯は、「何でも手に入るけれど、満たされない」皇子の孤独は、現代人も通じるのではないかと思って書きました。

▼炬燵で読みたい本…村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』

長い小説なので、炬燵で集中して読んでみたい!

KITAJIさん(10)→ジョセフ・シュガーマン『シュガーマンのマーケティング30の法則』フォレスト出版

画像10

営業やマーケティングに使える心理学の本です。著者は、サングラスを世界で2000万個売ったという優秀なセールスマンでもあります。

特徴は章のタイトルの面白さで、「合理的賄賂で成功する」「バカで単純が最高」などがあります。要は、誠実な対応に加えて、相手が思っていた以上のことをしてあげれば、自分に対してリピーターになってくれると。こうした「心理トリガー」がいくつも紹介されています。

自分が特に印象に残っているのは、帰属欲求について書かれた「全国世捨て人会議」(の章)ですね。例えば、高級ブランドを買う人は、既にそれを持っている富裕層に仲間入りしたいと思っている。同じように、世の中から外れている「世捨て人」たちも、実はそのグループに所属していたい欲求があるんだ、と書かれています。

この帰属欲求を知っていれば、「○○の皆さんは、これ持ってますよ」「社長さんはこのペンを絶対に買います」という商品の営業ができるわけです。こんな風に、「人たらし」についての本だとも言えます。

でもこうした知識は、「この場面ではこのトリガーだ」などと使えるものではないし、使えたら怖いですよね(笑)。だから何度も読んで、パッと反射的にアウトプットできるようになりたいと思います。

▼炬燵で読みたい本…うえやまとち『クッキングパパ』

難しいことを考えずに楽しめる料理漫画だから。

ヒヤシンスさん(初)→夏目漱石『三四郎』新潮文庫

画像6

自分の好きな夏目漱石の中でも、特におすすめしたい初期の作品を持ってきました。『こころ』など晩年の作品よりも読みやすいと思います。

23歳で熊本から上京した東大生が、1人の女性と出会う「ボーイ・ミーツ・ガール」。青春恋愛小説になっています。

主人公は女性経験に乏しく、勉強だけやってきたような人。一方で、彼が出会う美禰子は、男からしたら「ワルい女」ですね。野々宮さんという男が好きなのかな?と思わせておいて、主人公にも話しかけてくるなど、あたふたさせてきます。

主人公が、どんな人かを表すエピソードが最初にあります。三四郎は電車の中で知り合ったある女性に、名古屋で降りた後も付いてこられ、一緒に宿に泊まることになります。

しかし、お風呂で「背中流しましょうか」と言われては逃げ、同じ布団に入っても「潔癖症なんで」と予防線を張り…。結局夜は何事もなく、翌朝の別れ際に「あなた、よっぽど度胸のない方なんですね」と、女性に笑われてしまいます。

三四郎はそれにびっくりしすぎて、プラットホームからはじき出されそうになります(笑)。23年間の弱い部分が一気に出てきたような気分がして、耳が火照ってしょうがない三四郎くん。文豪が書いていいのかと思うほどの、かわいい小説になっています。

▼炬燵で読みたい本…トルストイ『アンナ・カレーニナ』

「長くて寒い」ロシア文学!

なかしーさん(2)→小川糸『ツバキ文具店』幻冬舎文庫

画像5

鎌倉が好きということと、淡いデザインの表紙に惹かれて読んだ小説です。繊細な読み筋や、五感をフルに使った表現が面白いなと思います。

若い女性が主人公で、鎌倉で小さな文具店を営む傍ら、代筆業もしています。そこに舞い込む依頼は「友人への絶縁状」「借金のお断り」「天国にいる人からの手紙」など、なかなかの無理難題ばかり。

それでも主人公は、依頼者の気持ちに寄り添いながら手紙を書いていきます。事前の準備、使う文房具にもこだわっているんです。そんな仕事を通して、仲違いしたまま亡くなった祖母の「厳しさ」の理由に気付く、彼女の成長ドラマでもあります。

感想としては、心が温まる作品であると同時に、ずっと入っていたいと思えるほどの「鎌倉ファンタジー」な世界が広がっているのが好きです。主人公の書いた手紙が、挿絵として入っているのも感動ポイントですね。人付き合いなどに疲れて、気持ちが荒んだ人に読んでほしいです。生計立てられるの?とか、そういうことは考えない方がいいです(笑)。

作品に登場する鎌倉の名所を紹介する別冊(『ツバキ文具店の鎌倉案内』)もありますし、自分は鎌倉版の『るるぶ』も買いました!

▼炬燵で読みたい本…小川糸『あつあつを召し上がれ』

寒い日でも前向きな気持ちになれるように。

こーせーさん(18)→森絵都『カラフル』文春文庫

画像11

これは元々、なかしーさんに「この本いいよ!」と言ってもらったのがきっかけで、手に取りました。

簡単に言うと、まず「主人公が死にます」。それで魂だけ残って、降りてきた天使に「一回だけ生き返るチャンスがあるよ」と言われます。その条件は、自殺を図った中学生の肉体に入り、記憶を失った彼として生活する。それでも、元の記憶を取り戻すことができたら、また輪廻の中に入れるというものです。

では、なぜ中学生は自ら命を絶とうとしたかと言えば、色々とショックな出来事が重なったからです。たとえば、好きだった女の子が中年男とラブホテルから出てきて、兄からはいじめ。お父さんは割と普通の会社員で、役員の不正がきっかけで部長に昇進し、喜んでいるだけ。ですが、男の子にとっては、「現金な奴だな」と気に入らなかったらしいです。そしてお母さんは、フラメンコ教室の先生とラブホテルに行ってます…。

一度は死んだ身の主人公はやりたい放題で、中学生の周りの人達の事情を探っていきます。やっぱり、死にたくなるくらい面倒くさい人間関係だったんだなということは分かるのですが、話を聞いていくと、それぞれの人の想いが見えてきます。

後悔していることや、これから良くしようとしていること。身近な人だからこそ、知っているようであまり知らないことがあると思いました。だからこそちゃんと話さないといけない。

また、もうひとつの気付きは「人間ってそんな綺麗なものじゃないな」ということ。どうしても、矛盾してしまうこともある。でも、自分の中で芯のある選択、後悔しない選択であれば、それで良いんだと思います。作品の中でも、主人公が「人を大事にする選択をすればよかった」と思うことで、物語が動き出します。

▼炬燵で読みたい本…恩田陸『Q&A』

以前のBook Fairで紹介されて気になった本。もしくは稲盛和夫さんの本を読み、年末年始でも熱い想いでいたい。

ゆいさん(2)→堂場瞬一『チーム』実業之日本社文庫

画像4

これは、箱根駅伝に出場できなかった大学の選手で作られる「学連選抜」の小説です。

選手は、箱根駅伝には出たいけれど、その場だけの寄せ集めチームで、何の為に走るのかという葛藤があります。それでも、段々と襷をつなぐ意味を考え、分かっていくお話です。

読む前から箱根駅伝は好きだったけど、なんとなく好きな大学や上位校中心に観て、学連選抜には興味が持てませんでした。でも色々な人の想いや、駅伝に出ることの凄さを感じることができたので、来年は学連選抜も応援しようと思いました。もう一回読み返そうかな。

学連選抜の本ってあんまりないですが、せっかく出ているのに、(記録やシード権に関係ないからといって)目を向けられないのは悲しいですよね。学連選抜が1位を獲ったら面白いのに、と思ったりもします。

▼炬燵で読みたい本…坂木司『和菓子のアン』

炬燵は、入ると何か食べたくなるイメージ。

ふっかー(18)→平畠啓史『今日も、Jリーグ日和』ヨシモトブックス

画像3

サッカー大好き!なお笑い芸人さんのJリーグ観戦日記です。芸能人なのに、テレビよりもスタジアムで目撃されることの方が多い。Jリーグに詳しすぎて、アナウンサーの代わりに中継の実況まで担当している凄い人なんです。

私が伝えたいことはただひとつ、「現場主義」!今、スポーツはネットで簡単に観られる時代ですが、生でしか味わえないことって沢山あります。試合前の演出、スタジアムグルメやサポーターとの何気ない会話…。行き帰りの道中も楽しいです。自分の帯や、本のサブタイトルには「マニアック」とありますが、これは戦術的な意味ではなくて、現地に行ったからこそ知れることを指しています。

実は、昔からサッカー観戦が趣味だったのですが、今年は慣れ過ぎたというか、虚しさすら感じていました。しかし、最近「現場主義」の熱いサポーターたちと知り合い、一緒に行動するようになると、忘れかけていた「楽しさ」を思い出せたんです。その経験を踏まえて読むと、本当に納得します。

試合結果は「情報」として残るけれど、ライブの「体験」はその時限りです。音楽でも演劇でも、迷ったら行くことをおすすめします。ちなみに、昨日もスタジアムで飛び跳ねていたので、今筋肉痛です(笑)。

▼炬燵で読みたい本…貴志祐介『新世界より』

出不精な時でも、大切な人の名前や存在を忘れないように。

★参加者の皆さん、本当にありがとうございました!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?