【ネタバレ注意】『方舟』を語る!第46回Book Fair読書会
マスクの下で噛みしめた、「ネタバレOK」の幸せ・・・!
今回のBook Fairは、特別企画!
話題沸騰のミステリ小説、『方舟』(夕木春央・著)の帯を作る読書会でした。
いわゆる「課題本形式」での開催は初。緊張しましたが、個人的にはとても楽しい時間でした!!
というのも、SNSではどこからともなく本がバズったかと思えば、誰が言うでもなく「結末自粛」「セルフ緘口令」状態。
それだけに、ネタバレ歓迎で語り合えるリアルな場は、貴重だったのではないかと思います。
(ご参加の皆さんはいかがでしょうか?思う存分語れましたか?)
それでは、感想戦の様子をどうぞ!
(これより先、未読の方はネタバレにご注意!!)
参加してくださったみなさん
◆えみさん(5)・・・オススメのミステリは宮部みゆき『模倣犯』。
◆SANAさん(初)・・・好きなミステリは京極夏彦『姑獲鳥の夏』。
◆かとうさん(初)・・・今回の読書会で、久しぶりにミステリを読みました。
◆まおさん(初)・・・久々に一気読みしたミステリは赤松利市『らんちう』。
◆nakanoさん(2)・・・オススメのミステリは降田天『偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理』、原浩『やまのめの六人』、高野和明『グレイヴディッガー』。
◆こーせーさん(38)・・・みんなに読んでほしいミステリは、伊坂幸太郎『重力ピエロ』。好きなミステリは我孫子武丸『殺戮にいたる病』。
◆ふっかー(46)・・・最近読んで面白かったミステリは澤村伊智『予言の島』。
※カッコ内数字は通算の参加回数
テーマ➀ 私の「帯」
ふっかー:私は「意味のない意味深vs.意味のある無意味」と書きました。
今朝も読み返していて、”意味ありげに”とか”意味深に”ってフレーズが目についた。けどそれが、重大な伏線かというとそうでもない。主に、色々言ってるのは翔太郎なんですけど(笑)。
一方で、最初は目立たなかったものが、最後になって意味を持ってきた。
全てが著者のミスリードとは限らなくて、だからこそ自分の価値観や先入観に気付かされる。改めてそう思ったから「ミステリは自分を映す鏡」とも書いています。
えみさん:「極限状態の緩慢」・・・タイムリミットまでに誰かが犠牲にならないといけないのに、その割にはみんなマイペース。
人が死んでも何か建設的な話し合いも起こらず、ただなんとなく時間が進み、(犠牲になる)誰かが決まるのかなとみんな思っている。緊張感があるようでないような感じ。
でも実際、その渦中にいる人って、ずっと怯え続けることはできないのかな、いやもっとパニックになるのかな?と思いながら読んでいました。
他の”極限状態もの”なら「俺はもう出てやる!」ってフラグを立てたり、もっとめちゃめちゃになってるはずなのに、各々バラバラに行動しているところとか、そのギャップも怖いなと思いました。
SANAさん:「真実を見ているのは誰だ」・・・最後の”どんでん返し”で、単純に自分が「これが本当だ」と信じていたものが崩れてしまう、その怖さ。
自分がゼロだと思っていたものがゼロではなくて、そこから間違えると取り返しがつかなくなってしまう。
登場人物が見ていた真実が崩れていく感覚も異様に怖いし、「本当じゃない」とわかった時の衝撃も凄く大きかった。
「一番最初を見誤ると、こういうことになるんだな」という怖さから、読み終えた後に思ったことはこれ(帯文)でした。
まおさん:《読み終えて突きつけられる衝撃と問い 「あなたは同じことができますか?」》
事前に「死んでもいいのは誰か?」とか「トロッコ問題」みたいな話を聞いていたので、閉じ込められる人たちはもっと悪人か、元々あからさまに揉めていると思っていました。
そうではなく、むしろ友達だったはずなのに、犯人は生き残るために一切の情を捨て、計画を実行に移す決断をする。その割り切りが、どんでん返し抜きに怖かったですね。
こーせーさん:「愛のチカラは無限大♡」・・・ふざけてる感じですが、主人公(柊一)が助かる唯一の道って、実は「愛してる」と言うしかなかった。
柊一にしかないラストワンチャンス、それ以外は殺される。結局は掴めなかったけれど、このミステリの中で、ただ一つの救いだったのかな・・・っていうおふざけです(笑)。
nakanoさん:《かつてない「why?」》・・・こういう理由があったから殺した、ではなく、自分が助かりたいからやるしかなかったんですよね。
なぜ殺したのか、じゃなくて、なんで殺すしかなかったのかという「反転」。こうした反転が全編に仕込まれている。
麻衣が(地震が起こる前に)《「私は、溺れるのが嫌かな。溺死」》と言う場面がありますが、後から読むと「やだー、怖ーい」ではなくて「嫌だから絶対(避けるために何でも)私やるわ」という意志を感じる。
あと、パパ(矢崎幸太郎)が岩を落とそうとする場面あるじゃないですか。その時に麻衣が《「やめて下さい!閉じ込められちゃう!」》って叫ぶのも、「あなたが」ではなくて「私が」なんですよね。
最後は、麻衣の旦那が《「いや、ありえない。誰かに嵌められてる」》って言うけど「いや、それはお前だよ」って(笑)。
こういう細かい反転を拾ってみると、2回目に読んでも面白いなと思いました。
そして、終始「俺は特別」みたいに振る舞っていた翔太郎が、最後あんなコケにされるとは・・・。
今までこんな辱めを受ける探偵役いなかったし、最初に思ったことは「名探偵、完膚なき敗北」でしたね。
かとうさん:「善は生き残れるか」・・・『ノアの方舟』だと悪い人は滅び、良いことをした人は動物と共に(方舟で)生き残れる。
しかし、この小説は方舟自体が水没してしまうから、対照的に悪人が生き残る象徴になっているのかなと。
テーマ② あなたなら、どうする?
ふっかー:自分が柊一だったら、生き残れるかどうか・・・「愛のチカラは無限大」に気付けるか(笑)。
nakanoさん:麻衣からしたら、「自分の信者」になっていない人間を、連れていくつもりはないんですよね。でないと地上に出てからが大変なんですよ。
SANAさん:「愛されてない人間が犠牲になる」って言ってるし。それもめっちゃ皮肉ですよね。
えみさん:柊一は生ぬるい・・・。
(賛同の声、多数!)
まおさん:そうですね。いまいち行動力や決断力に欠けて、流されている。
えみさん:「この中だったら、麻衣かな?」って選んでいる感じ。
◇溺れかけの人に食べかけのグミをあげる
まおさん:麻衣に関しては、他の全員を犠牲にする決断と、それ以上に具体的な計画を瞬時に実行するところに驚きました。
ふっかー:かとうさんの話にもありましたが、麻衣は他の全員にとっては悪人だけれど、実は「(ノアの)方舟」を作り続けてもいた。その集中力も凄まじいですね。
nakanoさん:最後にグミを渡されても、鼻で笑わずに「ありがとう」って受け取ってるし。
SANAさん:内心は笑いを堪えるのに必死なはずなのに、淡々と受け取れる。
ふっかー:生き残れるだけでも嬉しいのに、貴重な糖分もジップロックも貰えちゃう。
nakanoさん:これから少しずつ溺れるとわかってる人に、食べかけのグミ渡す花の性格もどうかと思うけど(笑)。
SANAさん:みんなから「犠牲になってくれる?お願いね?」という態度を取られた時点で、もうこいつら私の味方じゃないんだなって、決別もできたはず。
その後に”どんでん返し”が待っているのに、「しめしめ」という感情を表に出さないのは怖かったですね。
◇それでいいのか?某登山サークル
ふっかー:えみさんの帯にもありましたが、極限状態でも、みんな結構のんびりしている。
その辺の描写に違和感を覚えた人は多いみたいですね。SNSでも話題になっていました。
SANAさん:翔太郎は犯人を捜すために頭を動かし、柊一はその助けになろうとしていた。
矢崎一家もなんとなくやってたけど、他の人たちには「そんなに人に頼ってていいの?」と思いましたね。
nakanoさん:「殺した人が残る」ことが、なんとなく満場一致で決まったじゃないですか。
だから、殺してない自覚のある人は「私以外の誰かが死ぬじゃん、私じゃないし」ってのんびりしていたのかなと。
ふっかー:翔太郎が推理に対してアグレッシブな分、周りが冷めてしまったとも言えませんか。
それもあって、下手に動いてあらぬ疑いをかけられるより、守りを固めて逃げ切り、みたいな。
nakanoさん:(地下3階の)水位すら自分で見に行ってないですからね。
SANAさん:「翔太郎がどうせ犯人見つけるでしょ」みたいな、危機意識のない雰囲気。えっ、でもそれ、わかんなくない?
かとうさん:「最終的には犯人がわかる」「その犯人がなんとかしてくれる」前提でいる。
えみさん:そこはB案持っておきたい。
nakanoさん:それにしても、麻衣の腹の据わり具合が凄い。
ふっかー:不安を装っているけど、ちょいちょい真顔で周りを煽って(いるような言動あり)ますからね。
nakanoさん:旦那が隠れ蓑みたくなってるけど、実は他の女子2人(さやか、花)とつるんでない。
えみさん:そうそう。あまり仲良さそうじゃないんですよね。
ふっかー:なんでこのメンバーで来ちゃったんだろう。柊一は”今回の集まりに揉めごとの気配を感じ”(P.12)ていたらしいけど、心当たりは何だったのか気になる。
nakanoさん:(竹本健治さんの)帯コメントにある「カルネアデスの舟板」は、「非常事態だったら、自分のこと優先していい」って話なんですよ。
つまり人を殺すハードルが下がるし、出てからは「押し付けられて岩を落としたら、みんなの方が閉じ込められた」とか、どうにでもなる。
◇犯人について本気出して考えてみた
えみさん:私は、麻衣がそこまで悪いとは思えなくて。確かにみんなを騙していたけれど、状況が状況だから、そんなに「怖い」もなかったんですよね。
SANAさん:仮に、麻衣のように「自分だけが助かる」道に気付いたとして、実際にやるかどうかは悩みそう。
仮に酸素ボンベが使えて、非常口が開いたとしても、地上に出るのはイチかバチかじゃない?って思ったりもして。
こーせーさん:ただ、旦那さんのことはもう嫌いなんだなってわかりますよね。どうして結婚しちゃったんだろう。
麻衣は、色んなところでちょっとずつズレてる感じがするんですよね。
ふっかー:あくまで想像ですが、「生き残る」ことへのこだわりが人一倍強いのかもしれない。
(卒業して)すぐに結婚する、しかも相手はインストラクターの男性。身体的にもスペックの高い人間と一緒にいれば、生き残る確率は高くなる。
登山サークルに入ったのもその逆算だったけれど、「思ってたのと違う」から乗り換えようとしていたのかも。
nakanoさん:トランシーバーアプリがつながるか柊一に確認する場面も、「脈アリ」かどうか、気持ちを量っていたのかもしれないですね。
こーせーさん:そのアプリを残している辺りも、「生き残る」ことを意識していたからなのかも。
ふっかー:エピローグで、そういった心情を説明し過ぎなかったのが、逆に良かったと思いました。
かとうさん:余韻があって良かったなと思います。終わりがすっきりするというか。
nakanoさん:最後、みんな手を取り合って喜んだりしないんですね。我先に出ようとしてる。結局、誰も仲良くないのかな。
ふっかー:探偵役として主人公感すら醸し出していた翔太郎も、最後は絶叫する一般ピーポーに・・・
nakanaoさん:「麻衣が犯人」という結論を導き出すまでの道筋は申し分なかったんですけど。こんなに滑稽で、コケにされる探偵役いないですよ。
ふっかー:ここも、内心「完璧なんじゃないかな(笑)」って感じですよね。
SANAさん:「何言ってるんだろう、この人」ってくらいの。
◇善か、偽善か、純粋な願いか
nakanaoさん:犯人だと分かった麻衣に対して、他の人たちが投げかける言葉には偽善を感じます。
ふっかー:かとうさんの帯に絡めれば、”善”は最初からなかったのかもしれないですね。
SANAさん:花の「麻衣にしかできない」とか翔太郎の「誰よりも理性的な判断ができることを信じている」とか、頼み方としておかしい。
ふっかー:ちょっと鳥肌が立ちましたね。あなたは麻衣の何を知ってるのって思っちゃう。
SANAさん:言葉に薄っぺらさを感じるんですよね。
一方で「絶対、死刑だ」って素直に感情を露にする隼斗や、「助けて下さい。この子は、まだ十五です」と純然たる願いを伝えるお母さん。彼らの方が、まだ人間味があると思う。
えみさん:微妙な関係性の人を前にすると、ズルくなっちゃうのかな。
nakanaoさん:人物像をあまり掘り下げていない小説に見えるけれど、それは内面を描写していないだけ。
それぞれの言動から、どんな人物か分かるように書かれているなと思います。
テーマ② 勝手に映像化プロジェクト
ふっかー:もし映像化するとしたら、翔太郎役は過去に名探偵役がハマっていた俳優さんがいい。先入観を裏切るというか。
nakanaoさん:全員有名か全員無名がいい。配役で予想されたくない。
(前者なら)翔太郎は林遣都、麻衣は有村架純がいい。隆平は間宮祥太朗とか。矢崎パパは野間口徹みたいな、どこにでもいそう、でも何か企んでそうな雰囲気の人が良い。
まおさん:映像化されたら、柊一が(視聴者にとって)もっとイラつくキャラになっているかも。この話自体が、柊一の主観フィルターを通して描かれていますし。
ふっかー:柊一も含め、それぞれが「誰と生き残りたいか」妄想する、ダークなラブコメになっている可能性もある。
nakanaoさん:この小説は、「麻衣が生き残るストーリー」が先にあって、その物語を柊一の視点から描いてミスリードを誘う・・・そんな書き方になっているのかなと思いました。
一見、主体性ないように見える”かわいい系”の女優さんが麻衣を演じると、新境地開拓になってバズりそう。
読書会の感想
・もう一回読もうって思いました。
・SNSでは話せないことなので、話せてめちゃめちゃ楽しかった。
・解釈の一致が嬉しかった。
・解釈を巡るデスゲームが起きなくて良かった。
・思い返して「その通りだな」と思えることが多かったです。
・ちょっとした文章の意味や、明言されていないことの解釈についても聞けて良かった。
・色んなミステリーを読みたい。でも読めば読むと自分が翔太郎になりそうで怖い(笑)。
・帯を作るために3000字くらい感想を書いたんですが、(ネタバレするから)どこにもアップできない(笑)。ここで成仏させられて良かったです。
今回、書き起こした他にも「ハーネスは本当に2つあったのか?」「麻衣と柊一の微妙な距離感」「矢崎家=スパイファミリー説」など、話題の尽きない読書会でした!!
参加してくださった皆さん、本当にありがとうございました!
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