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もうすぐ異界入りの日なので、SIREN初心者が解析本『サイレン マニアックス』を熟読してみた

 2003年に発売され、今なおカルト的な人気を誇るPS2ゲームソフト『SIREN(サイレン)』は今年で20周年!ジャパニーズホラー独特のじめっとした要素がこれでもかと盛り込まれた世界観、そして、難解な物語と超絶難易度のプレイシステムは、プレイの有無にかかわらず、多くの人に強烈な印象を残しています。発売当時、まだ小学生だった筆者にとっては、父親がプレイしている傍らで一緒になって怖がったり、時にはちょっと操作してみたりと、色々な思い出が蘇る作品です。

さて、今年もまもなく異界入りの日を迎えます。異界入りとは、サイレンの舞台となる羽生蛇村や登場人物たちが異界へと引きずり込まれる現象のこと。「異界入りの日」は異界入りした8月3日から、そこからの脱出を試みた8月5日までの3日間全体を指し、毎年SNSを中心にお祭りのような盛り上がりを見せています。

実は筆者、サイレンというゲームの存在はつい最近まで遠い記憶の彼方にありました。時代はすでにPS5、まさかPS2のゲームが今だに人気だとは……驚く気持ちもありつつ、過去として切り離されていた記憶が、現在まで地続きであることを感じさせる事実に、不思議と嬉しくなり胸がざわつく感覚を覚えました。

記憶の中のサイレンは、暗闇の中から急に出てくるクリーチャー(屍人)が怖すぎるゲーム。ノイズとともに現れる不気味な映像(視界ジャック:他人が見ている視界を利用するシステム)にもよく驚かされました。しかし、怖いながらにも、つい父親がプレイするのに見入ってしまったのは、小学生にさえ魅力に映る何かがあったからでしょう。

というわけで、今回はサイレン初心者である筆者が、懐かしい記憶を辿りながらサイレン公式完全解析本『SIREN MANIACS(サイレン マニアックス)』を熟読してみました!本記事では初心者から見た本書の見どころベスト3を紹介していきます。熟練のプレイヤーの方には生温かい目で見守ってもらえれば幸いです!

SIREN MANIACS(サイレン マニアックス) サイレン公式完全解析本
週刊ザ・プレイステーション2編集部 編

そもそも、初心者が解析本を読んでも面白いの?

ずばり、YES!
本書は「解析本」の名の通り、サイレンという作品を形作る要素を紐解いていくもの。攻略本ではないことが一つのポイントです。通常、攻略本ではダンジョンのクリア方法や、アイテムの効果などがまとめられており、プレイしながら適宜参照するのが一般的です。一方、本書にはいわゆる攻略本の性格はほとんどありません。作品への理解を深めるというコンセプトで作られているため、登場人物や舞台の設定、制作の裏話などを中心に構成されています。

何となくストーリーや登場人物を知っている程度の筆者でも十分面白い内容で、よく読めばストーリーの大筋の理解はばっちり。記憶を補完しながら読み進めていきました。ただし言い換えれば、冒頭からしっかりネタバレする仕様になっているので、プレイ前に本書を読もうという人は要注意かもしれません。

見どころ第3位 舞台の設定・制作の裏側

作品を視覚的に盛り上げる舞台の魅力は、作品全体の魅力を大きく左右するもの。プレイ前後に関わらず、作品の入り口とも言えるこの部分に惹かれるかどうかは、かなり重要なポイントだと思います。

その点、サイレンの舞台となる寒村・羽生蛇村が醸し出す妖しい空気感は群を抜く素晴らしさ。あの雰囲気はいかにして作られたのか?どんな設定があったのか?そんな疑問に答えてくれるのが、本書の見どころの一つです。

例えば、各地の廃村・廃坑などで行われたロケ。CGのテクスチャとなる素材集めだけでなく、現地の雰囲気をスタッフが肌で感じることも重要だったとか。効果音にも、現地取材で収録された音が多く使われているそうですよ。

企画の立ち上げ当初から「サイレン」のスタッフがこだわっていたのが、「ユーザーがもっとも身近に実感できる、この日本の寒村を再現すること」。陰鬱な木立、霧が立ち込め、じっとりとした湿気にあふれた空気……。“日常”をほんの一歩踏み外してしまったときに迷い込む異世界の恐怖を描くため、まずは日本人が皮膚感覚で実感できるような、ありのままの舞台を創造することが必要だった。(中略)止まったような時間の中、人知れず朽ち果てようとしている木造建築、壁に残るブリキの広告看板や赤い郵便ポストは、どこかしら“日本人の遺伝子”レベルの懐かしい記憶を思い起こさせるもの。そのためにスタッフは、全国各地に点在する廃村や廃坑を丹念に回ったのだ。

『サイレン マニアックス』P.163より引用

とはいえ、制作陣の思いを存分に反映して出来上がった舞台も、プレイ中に堪能する余裕はなかなか無いはず…。そんなもどかしさに応えるかのように、本書には、羽生蛇村の各区域の設定や、一部のイメージボードなどが収録されています。サイレンの世界観が立体化していく感覚は、初心者ながらにとてもワクワクするものでした。

見どころ第2位 小道具の設定と解説

続いての見どころは、30ページ以上にわたって紹介される、100個の「アーカイブアイテム」!ビジュアル・解説とともに一覧化されており、そのボリュームは圧巻です。

「アーカイブアイテム」は本来、プレイヤーが地道に集め、断片的な情報からサイレンの世界を理解していくためのものなのですが、同解説には制作の裏話もちらほらと。新聞や雑誌、写真、学生手帳など、各アイテムはかなり作り込まれているので、眺めているだけでも制作陣のこだわりが感じられて面白い内容となっています。

【No.021】須田恭也の学生手帳
(前略)実際の定期入れをベースに撮影用小道具として作られた“須田恭也の学生手帳”の中には、中野坂上に実在する某コンビニエンスストアのレシートが入っていた。それによると買い物をしたのは2002年12月26日(木)、18時06分。まさに「サイレン」の開発真っ最中の時期である。購入しているのは◯◯◯◯◯胃腸液と肉まん、あわせて575円ナリ……(税込み)。おそらくこのレシートは“リアリティ”を生み出す小道具として意図的に中に入れられたものと思われるが、こういう細かい演出に開発スタッフのこだわりが表れているようで面白い。(後略)

『サイレン マニアックス』P.123より引用

そして、どうやらこれらを全入手するのは中々ハードルが高いようなので、本書でまとめて見ることができるのは、プレイヤーにとっては興奮ものではないでしょうか!
 
細部にこそ神は宿ると言いますが、サイレンという作品にこそ、この言葉は相応しいのではと思うほど、各設定が徹底的に考え抜かれていました。

見どころ第1位 サイレンに影響を与えた作品一覧

個人的に最も没頭して読んだのは、サイレンの世界観に影響を与えたとされる、さまざまな作品の一覧。小説、漫画、写真集、映画、音楽、ゲームなど、延べ32作品が掲載されています。サイレンと関連する要素をそれぞれ解説してくれているので、親切かつ非常に興味深い内容です。

これだけの作品の魅力的な要素を結集させたサイレンが面白くないわけがない!と感じると同時に、制作陣の情報収集への貪欲さが垣間見え、評価されるべくして評価された作品なのだと腑に落ちるようでもありました。

【掲載作品(一部抜粋)】
「道のない街」(収録作:『伊藤潤二恐怖博物館5「路地裏」』)伊藤潤二/朝日ソノラマ
『キャリー』スティーヴン・キング/新潮社
『漂流教室』楳図かずお/小学館
『Paul McCarthy』ポール・マッカーシー
『チープスリル』くらもちふさこ/集英社
『海竜祭の夜・妖怪ハンター』諸星大二郎/創美社
「蛭子」(収録作:『山岸涼子自選作品集「月読」』)山岸涼子/文藝春秋
『屍鬼』小野不由美/新潮社

『サイレン マニアックス』P.172.173より

サイレンに触れたことがない方は、「掲載された作品が好きなら、サイレンも好きだろう!」と、逆引き的に参考としてみるのもまた一興かもしれません。
今となっては、サイレン自体が他の作品に大きな影響を与えるものとなっていることを思うと、クリエイティブはこうして進化していくのだな、としみじみ感じてしまいます。

おわりに

『サイレン マニアックス』を読みながら、久しぶりにやってみたいなと思った筆者。とはいえPS2とソフトがあるのは実家なので、まずはYouTubeで実況動画を見てみることにしました。

すると、おや?これは怖い!暗闇から急に現れる屍人に、追いかけてくる屍人、戦ってもすぐにゲームオーバーになる主人公…。動画を見ながら何度もドキッとすること十数分、だんだん緊張感に耐えられなくなり、肩も凝ってきたような。これでは1人でプレイするなどできたものではありません。サイレンのディレクター・外山圭一郎氏が手がけたゲーム『サイレントヒル』は大丈夫だったのですが…。大人になった今でも、サイレンは見ているくらいが丁度良いみたいです。


■この記事を書いた人
Akari Miyama

元復刊ドットコム社員で、現在はフリーランスとして、社会の〈奥行き〉を〈奥ゆかしく〉伝えることをミッションとし、執筆・企画の両面から活動しています。いつか自分の言葉を本に乗せ、誰かの一生に寄り添う本を次の世代に送り出すことが夢。
https://okuyuki.info/

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