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【第3回】 『三度の飯よりご飯が好き』と言っていた友達は今、何しているだろう? (赤松新)

『死那離怨寺』 3本目
「はい出た。音楽知ってます感の鼻につくやつ」

皆様、こんばんは。私、日本でいや、世界で一つしかないシナリオ・脚本の供養を行っております、死那離怨寺第58代目住職、脚翻です。
本日もまた迷える脚本家からシナリオが送られて来ましたので、ご紹介します。

『おい和尚!いつも偉そうに色々言ってるけどな、本当にお前に脚本の良し悪しなんて分かるのか?分かるんだったら、俺が今回送った脚本の悪いところを言ってみやがれ!2016年の8月の某ラジオドラマコンクールに送ったやつだ。課題は「夏祭り」。400字詰めで8枚以内。俺はそんな課題で面白おかしく書いたのに、落としやがった!一体なにが悪かったかなんて全く見当もつかねえ!最高の出来だと今でも確信している。きっと落とされたのには訳があるんだ。きっと俺みたいなすごい才能の持ち主に世に出られたら、おまんま食い上げだと思ったに違いない!確かに俺はすごいからな。みんなが怖がるのも無理はねえ。俺の前に道はなく、俺の前に道が出来る……俺はいつもそうやって生きてきた。いつまでも俺は抗いつづける、転がる石には苔は生えねえ。そう!ライク・ア・ローリング・ストーンだ!』

う~ん……イタイですね。こういう輩とは絶対に絡みたくないですよね。
しかもダサい。作品を書き上げた時には思うんですよね。「やべぇ……すげえ傑作できちゃった……これで世の中、ひっくり返るな」って。
安心してください。それ全部思い込みですから。その程度の作品、そこらへんにごろごろありますから。
とにかく今回も供養に参りましょう。
作品はこちら。

タイトル「タイムマシーンがお願い」

☆登場人物
吉村康一(18)・高校3年生
岡崎(21)・・・未来からきた男
神田巧(18)・・吉村の友人・高校3年生
工藤綾乃(18)・吉村の片思いの相手。高校3年生


   祭囃子が遠くに聞こえる。
女1「ねぇねぇ、もうすぐ燈篭来るって」
男1「やべ!もうそんな時間かよ」
男2「去年みたいにぶつかり合うかな」
女2「迫力あったよね。あんた達出ないの?」
男1「バカ言うなよ。あんなの無理だよ」
男2「とにかく急ごうぜ」

吉村N「そうだ急げ急げ。急いでこの場から離れてくれ。俺は今から一世一代の大勝負に出るんだ。そう、高校三年間、ずっと片思いしている綾乃ちゃんへの告白。もう抑えられない……この気持ちを伝えないと、受験も何も手に付かない……頑張れ!俺!」

SE タイムマシーンが到着する音

吉村「え!なに?なに!?」

SE 宇宙船の扉が開くような音

吉村「ひ、ひ、人?え?!人がいる……!?」
岡崎「あ~着いた~。乗り心地が最悪だよ」
吉村「あ、あの……」
岡崎「あれ?吉村康一さん?高校3年生の?」
吉村「え、えと……はい……そうです」
岡崎「祭もやってるようだし、ここに高3の吉村さんがいるってことは、時間も場所もぴったり!よかった~!」
吉村「ど、どちら様ですか?」
岡崎「ああ~、ごめん。急にビックリされましたよね。私、この時代より96年後の未来からタイムスリップしてきたんです」
吉村「ああ……はぁ」
岡崎「どうもタイムメッセンジャー株式会社の岡崎です」

吉村N「何この人?変な事言ってる。怖いよ。俺の名前知ってるみたいだし。ていうかどっか行けよ。綾乃ちゃんが来ちゃうだろ」

岡崎「あれ?何か信じてないみたいですね」
吉村「あ、いえ・・僕ちょっと予定あるんで」
   岡崎、本をめくっている。
岡崎「え~、吉村康一、18歳、水瓶座。サッカー部で図書委員。文系が得意。それで」
吉村「ちょっと、あなた、探偵とかですか?」
岡崎「96年後のあなたに聞いたんですよ」
吉村「はぁ~?」
岡崎「あと、今日ここで3年間片思いの工藤綾乃に告白しようとしてるんでしょ」
吉村「なんでそれを!誰にも言ってないのに」
岡崎「だから聞いたの。114歳のあなたに」
吉村「ひゃ、114歳の僕?」
岡崎「ええ。今から50年後に科学と医療の発展で、寿命が驚くほど飛躍するんです」
吉村「……はぁ」
岡崎「あ、歴史の授業で習いましたけど、4年後の東京オリンピック、めちゃくちゃ成功するみたいですよ。というのもね……」
吉村「(話を遮り)それで、なんの御用ですか」
岡崎「ああ、そうでした。未来のあなたに依頼を受けまして、今日、この祭で起こる事故を止めて欲しいとの事なんです」
吉村「未来の僕に……事故……ですか?」
岡崎「はい。あなたのご友人の神田巧さんが事故に巻き込まれるんです」
吉村「巧が?どんな事故ですか?」
岡崎「あなた神田さんと、あるたこ焼き屋台の所で待ち合わせされてますよね?」
吉村「は、はい。ここの用事が終わったら向かうつもりですけど……」
岡崎「あなたを待っている時、そのたこ焼き屋台のガスボンベが爆発をして」
吉村「まさか!そ、それで、巧が……死ぬ?」
岡崎「いえ、誰も死にません。神田さんが腕に少し火傷を負うだけです」
吉村「なんだよ!じゃあ別にいいでしょ」
岡崎「それが、その後96年経った今も、ずっとその事を言われるんですって。この火傷はお前のせいだって」
吉村「知りませんよ、そんな事」
岡崎「本当に鬱陶しいから、止めて欲しいと」
吉村「あのね、その話が本当だとして、僕はこれから大事な用があるんです」
岡崎「告白なんていつでも出来るでしょう」
吉村「嫌ですよ。僕は今日ここで告白するって決めてきたんです!」
岡崎「やはりそうですか。未来のあなたが言ってましたよ。多分、嫌がるだろうって」
吉村「分かったら帰ってくださいよ。もうすぐ約束の時間ですから」
岡崎、本をめくりポエム読み出す。
岡崎「ああ、この月をあの娘も見ているだろうか?どうか北極星よ教えてくれ、あの娘の心を、どうか風よ運んでくれ、僕の」
吉村「うわあああ!な、なんでそれを!!?」
岡崎「どうします?やります?」
吉村「なんで?なんでそれ持ってるの!?」
岡崎「だから預かってきたんですよ、未来のあなたに。あなた自作のポエムを」
吉村「何やってんだよ!未来の俺!!」
岡崎「どうしてもやらないならこのポエム、コピーしてみんなに配りますけど」
吉村「分かりました!やればいいんでしょ!」
   吉村、走り出す。
岡崎「急いでくださいね。もし失敗しても、コレ配っちゃいますからね~」

吉村N「くそ~!何なんだよ!未来とか意味分かんねぇし。とりあえず巧に会って、すぐ戻らないと。アレがばれたらやばい!」

女A「きゃあ!痛い~」
吉村「あ、す、すみません」
   たくさんの人が祭を楽しんでいる。
吉村「どこだ?どこだよ?巧~!!」
神田「あれ?康一?」
吉村「あ!!巧!!よかった~!!」
神田「な、なに?そのテンション」
吉村「本当よかった……よし、早く離れよ」
神田「なんで?あそこのたこ焼き食べたいよ」
吉村「ダメダメ!絶対ダメ!」
神田「すぐそこじゃん。ちょっと待っててよ」
吉村「ダメだって!違う所で食べようって」
神田「なんであそこじゃダメなんだよ?」

SE ボンベが破裂する音

女B「きゃあ~!!」
屋台店主「すみません!大丈夫ですか!?」
神田「ビックリしたな……あそこに行ってたら怪我してたかもな」
吉村「じゃあ巧、また後で!」
   吉村、走り去っていく。
神田「お、おい!康一!どこ行くんだよ?」

吉村N「よし!巧はこれで大丈夫。早く行かないと。綾乃ちゃん待っててくれ!」

吉村「ハァハァ……やっぱりいないか……くそ~!今日中に綾乃ちゃんに好きだって、付き合ってって言いたかったのに~!」
綾乃「……吉村君?」
吉村「ええ!あ、綾乃ちゃん、待っててくれたの!?」
綾乃「岡崎さんにお願いされて。もう少しここで待ってるようにって」
吉村「あ……そ、そうなんだ(小声で)岡崎……ナイス!」
綾乃「ごめん聞こえちゃった……私の事……」
吉村「う、うん……そう……なんだ、1年の頃から……ずっと」
綾乃「ビックリしたけど……すごい嬉しい!」
吉村「え!それじゃ」
綾乃「うん……それに岡崎さんに吉村君のポエム読ませてもらって。本当よかったよ」
吉村「ええ!あ、あれ読んだの!岡崎ぃ~!」

吉村N「よし決めた……俺は絶対、96年後に岡崎を殴ってやる!」    
(終わり)

摩訶般若波羅密多心経観自在菩薩行深般若波羅密多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色……ハァーッ!!
たった今、ご供養が終わりました。

この脚本、まず主人公が「何でこの祭りの時に告白したいのか?」という思いがよく分からない。受験勉強に手が付かないとかでは弱いかな。
「この祭りの、花火が上がっている時間に告白した者は永遠に結ばれる」とか、「もう引っ越してしまうから、今日じゃないとダメ」とか、何かしらの理由付けが無いと。フリなんだから。読んでる人も「え?何で今日に拘るの?」て思われたら終わり。
ポエムも効果的じゃない。最終的に付き合うんかい!という感じだし。オチで岡崎を殴ると決めるのであれば、付き合えないほうがいいし、ポエムを効果的に使うなら、彼女にも良いなと思われてたけど、ポエム見られてフラれるとかにしないと。どういう風に展開したいのか、中途半端。
あと、タイトル。いかにも「音楽知ってますよ、僕」というのが鼻につく。
元ネタは「サディスティック・ミカ・バンド」の「タイムマシーンにお願い」なんだろうけど、それを文字ったタイトル。
「僕、サブカルに詳しいんですよ」の変な上から目線が透けて見える。
あと、手紙にあった「ライク・ア・ローリング・ストーン」も意味合い全然違うから。「ローリング・ストーン」とは「風来坊」とか「住所不定の人」を指す言葉で、「石のように転がって行くぜ」ではなく「路傍の石」という意味合いが強いのですよ。もっと勉強しなさい。

ともあれ、この作品は私の手で完全に供養されたわけですので、これからは権利フリーの作品です。これをどう使おうが、どこでやろうが一切、誰も関与しません。また、使っていただけれましたら、この作品もより供養・成仏致しますので、何卒よろしくお願いいたします。

この世にシナリオがある限り、脚本家がいる限り、この死那離怨寺がございます。
供養依頼をいつでもお待ちしております。本日はここで失礼いたします。


赤松新(吉本興業所属)
ルミネtheよしもと出演中
ドラマ「初めて恋をした日に読む話」泉譲役で出演。
第29回ヤングシナリオ大賞・佳作受賞
世にも奇妙な物語
「幽霊社員」脚本 「あしたのあたし」原案 「鍋蓋」脚本
「映画・生理ちゃん」脚本
「ランチ合コン探偵」第5話、第7話脚本

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