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僕たちが考える、C向けの旅行サービスの勝ち筋

「旅行のC向けサービスは難易度が高い」
この言葉は旅行業界にて取り組んでいる人間であれば、色んな人から言われる言葉です。(訪日インバウンド業界のスタートアップで働く私も何度も言われたことがあります。)

そこで「旅行のC向けサービスはどうすれば成り立つのか?」ということを考えた結果、自分なりの仮説が出来上がったのでnoteに書き留めることにしました。

結論を先にまとめておくと、私たちは「旅行者を特定して、興味関心に沿って訴求できる広告」には旅行サービスにおける勝ち筋があると考えています。

【僕たちが考える勝ち筋】
◆前提
旅行のC向けサービスを立ち上げるのであれば「マネタイズにおける革新性」が必須

◆旅行のビジネス市場における課題
2つの深い課題が存在
①OTAを活用した集客の疲弊
②SEO/リスティング広告のコスパが悪い

◆これら2つの課題を解決する条件
①「出発前の旅行者」に限定してリーチできる仕組み
②旅行者の興味関心を軸にリーチできる仕組み

◆2つの仕組みをもつビジネスアイデア
「旅行者を特定して、興味関心に沿って訴求できる広告」

順番に論理建てて説明していきます。

C向けサービスは難易度が高い原因はなにか?

そもそも、なぜ「旅行のC向けサービスは難易度が高い」と言われているのでしょうか?その理由について、こちらのnoteでわかりやすく解説されていました。

内容を要約すると、このような意見が述べられています。

・旅行系C向けサービスのマネタイズは「仲介・広告」に集約される
・儲かる領域はすでに大型プレイヤーが存在している
・大手との差別化を狙った「旅行プラン作成系サービス」はユーザーが集まらない

この意見は実にまっとうだと思います。

旅行における消費の大半は、航空券(交通手段)や宿泊施設などの「予約」です。そのため、予約を束ねるプラットフォームが大型プレイヤーになることができます。その最たるものがOTAやメタサーチです。

OTAやメタサーチなどの既存の大型プレイヤーが強すぎるために、新しいプレイヤーが登場しても、勝ち目がありません。予約のマネタイズだと大型プレイヤーのリプレイスができず、予約以外のマネタイズを模索してもほぼ不可能で撤退するしかないのです。

旅行領域でC向けサービスは無理なのか?

では、難易度が高すぎて旅行領域でC向けスタートアップは不可能なのでしょうか?

OTAという既存プレイヤーを横目に、一気に成長した企業の存在から考え直してみましょう。みなさんご存知のAirbnbです。

Airbnbは民泊市場に目をつけたサービスですが、成長の理由は「民泊が旅行者の根深い課題を解決したから」でしょうか?私は違うと考えています。もちろん、Airbnbがユーザーに提供する価値は魅力的です。しかし、革新性がありません。「ホテルよりも安い」「ホテルよりも個性的」といった”今までより便利”を突き詰めているだけです。(極論ですが。)

私は、旅行領域において、もはや根深いユーザー(旅行者)の課題など存在しないと考えていますほとんどのユーザーは既存プレイヤーの提供しているサービスで満足しています。「旅行のC向けサービスは難易度が高い」という指摘もここに起因します。

Airbnbも同様で、ユーザーにとって魅力的ではあるもののそれだけでしたら既存プレイヤーに負けて終わりだったでしょう。しかし、現実ではそうはなっていません。Airbnbが一気に成長する要因となったのはマネタイズに理由があるのではないでしょうか。当時、誰もが家を貸して収入を得る事ができるというのは非常に画期的だったはずです。実際、Airbnbの目指す長期的ゴールは「商品におけるeBayのような立場に宿泊市場でなりたい」と説明をしていたようです。
(ポール・グレアムのエッセイ「件名: Airbnb」より)

このことからも分かる通り、AirbnbはC向けのサービスでありながらも、マネタイズの価値のほうが革新性がありました。ユーザーに対する価値は、キャッチーではあるものの”ちょっとした付加価値の集合体”でしかありません。

なにが言いたいかと言うと、旅行のC向けサービスで成功したい場合に、まずはじめに考えるべきは「ユーザー(旅行者)に対するクリティカルな課題解決」ではありません。「マネタイズの革新性」だということです。

仲介・広告の新しい形

マネタイズでの革新性が大事なのは良いとして、どのような課題に注目するべきなのでしょうか?最初のnoteで紹介したとおり、旅行系C向けサービスのマネタイズは「仲介・広告」に集約されます。そのためマネタイズの革新性を考えるなら「仲介・広告の新しい形」を模索する必要があります。Airbnbのもつマネタイズの特徴も「仲介・広告の新しい形」といえますよね。今まで実現されていなかった「仲介・広告」を実現できるサービスこそが求められているのです。

その中でも、私たちが可能性があると考えている「仲介・広告の新しい形」は「旅行者を特定して、興味関心に沿って訴求できる広告」です。この広告は今までの「仲介・広告」にはない新しい2つの仕組みを兼ね備えています。

1:「出発前の旅行者」に限定してリーチできる仕組み
2:旅行者の興味関心を軸にリーチできる仕組み

これらの2つの仕組みがなぜ旅行市場における2つの課題を解決していて革新性があるのか、次から説明していきます。

課題1:OTAを活用した集客の疲弊

1つ目の課題は、今の旅行市場におけるOTA,メタサーチなどの既存の大型プレイヤーの持つ価値の欠点に起因しています。OTAは、施設側からしたら成果課金で集客を実行してくれる夢のような集客獲得施策です。しかしその反面、OTAには欠点があります。ユーザーに振り向いてもらうためには安売りをしなければならないというリスクを秘めています。

こちらのnoteでは、ホテルの実態が詳しくは紹介されていますが、かなり厳しい経営を迫られているようです。

根本的な原因はどのOTAも宿泊客に対して価格訴求をしていることだと思う。(中略)OTAは宿泊客に対しては、予約経路として選ばれるための熾烈な競争が繰り広げられているのだが、宿泊施設に対しては寡占状態となっている。この結果OTAの予約獲得競争のためにセールが行われる一方、予約手数料はどんどん上がっていくという、ホテル側にのみ負担がかかる現象が起きてしまう。実際に独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会の立ち入り検査まで行われた。(中略)これらの「安さ」「お買い得さ」を訴求させられるOTAの施策によって、ホテル業界はじわじわと真綿で首を締められるようになって来た。

OTAを活用して予約を獲得するためには、①OTA上で安売りすることで目立つ、②レビューなどで人気ランキングに載る、くらいしかないのではないでしょうか。予約の質(単価)をあげようとすると予約の量が足りなくなり、十分な予約の量(予約の件数)を獲得しようとすると安売りせざるを得ない。

つまり、OTA上での集客だけでは、疲弊しがちな熾烈な争いに陥ることになるという明確な課題が存在します。OTAはホテルだけではなく、航空券・アクティビティ・ツアーなどあらゆる旅行事業者の集客手段であるにも関わらずです。

この状況を脱するためには、リーチ課金の広告によるダイレクトマーケティングへの取り組みを増やしていくことが一つの解決手段であると思います。そうすれば過度なOTAへの依存は減るはずです。しかし現状ではダイレクトマーケティングへの取り組みはまだまだ少ないです。その理由は、近いうちに旅行する予定のユーザー、すなわち「出発前の旅行者」に対して訴求する広告サービスが少ないからです。

本来、「出発前の旅行者」に限定して広告を打つことができれば、(成果課金ではなくなるものの)価格比較をされづらいという大きなメリットが得られるはずです。しかし、現状のOTA以外の広告手段では「出発前の旅行者」に絞ることのできない広告がほとんどです。例えば、KOL(インフルエンサー)やSNS広告などです。これらの広告は、自社商品に興味を持ってくれそうなユーザーに興味関心を軸にアプローチが可能であるという利点を持っています。その一方、旅行予定のないユーザーに対してもアプローチする可能性があり、宿泊施設や飲食店やアクティビティなどの旅行事業者が使っても「認知形成・ブランディング」以上の効果を見込むことが出来ません。

現状のOTA依存という根深い問題を解決するためには、OTAとは違う方法で「出発前の旅行者」へ正確に訴求できる広告の仕組みが必要なのです。

課題2:SEO/リスティング広告のコスパが悪い

ここまで、OTAのみが「出発前の旅行者」に訴求する唯一の方法であるような書き方をしてきましたが、実はOTA以外にももう1つ方法が存在します。それはGoogleなどの検索エンジン、つまり「SEO / リスティング広告」です。

SEO / リスティング広告でも、ある程度「出発前の旅行者」に訴求することは可能です。たとえば「沖縄 ダイビング」と検索している人は、沖縄でダイビングがしたい人なんだなということがわかります。そのため、「地名 + 関連ワード」に注目して対策をすれば「出発前の旅行者」に訴求すること自体は可能です。しかしリスティング広告にも欠点があります。それは、ユーザーが旅行情報をあまり検索していないことです。

キーワードプランナーで「地名 + 関連ワード」を調べてみると、以下の月間ボリュームがこれくらいです。

「沖縄 ホテル」:1万~10万
「沖縄 ダイビング」:1万~10万
「沖縄 観光スポット」1000〜1万

沖縄に関する「地名 + 関連ワード」では月間で約10万件以下の検索回数であることがわかります。(課金してる人なら更に詳細な数値が見れるはずなので、ぜひ確認してみてください。)

これらの月間検索ボリュームに対して、国内の沖縄への旅行者はどれくらいいるのでしょうか?なんと、2019年の沖縄県への国内旅行者は約723万人というデータが出ています。つまり月間平均で60万人ほどの国内旅行者がいた計算になります。そう、60万人もいるはずなのに10万以下の検索回数しかないのです。

旅行へ行くにも関わらず明確な情報収集を行わないケースが多い。私は「旅行の満足度向上には興味があるが、細かく検索するのは面倒だ」というユーザー傾向があるのだと考えています。

旅行に行くのだから、自分の旅行を楽しくしたいとは確実に思っているはずです。しかし、そもそも旅行の満足度というものは「なにをするか」では決まりません。旅行は「どこに行くか」よりも「誰と行くか」というのは、昔からよく言われていることですね。しかも、近年ではSNSの発達により友人や知人から調べずともオススメの情報が手に入る時代になりました。それらが相まって、なんとなく楽しくなればいいと思っているものの面倒だから検索はしないという人が多数になるのではないでしょうか。

それはさておき、この「旅行へ行くにも関わらず明確な情報収集を行わないケース」が多いことの何が問題かというと、SEO/リスティング広告がしたくても旅行者が検索してくれないためにユーザーにアプローチが出来ないという状況が発生します。言い換えれば、旅行者がネット上に出てきてくれないのです。これではデジタルマーケティングをする手段がありません。

これらが原因となり、旅行の現場ではOTAで疲弊するからダイレクトマーケティングをしようとしても、SEOやリスティング広告では見つけることが難しいというもどかしい状況が発生してしまっています。旅行者は「なにか良いもの」を求めていてはいても、それを検索するほど「特定のサービス」に興味はありません。端的に、旅行ニーズのほとんどは顕在化していないとも言えるでしょう。
(ここでの「顕在化」とは、”旅行に行くこと自体”ではなく”旅行に行く予定があるけど具体的に〇〇なサービスがほしいと思ってはいない”という意味を指しています。)

私は、旅行ニーズが潜在的(=旅行の情報検索に消極的)であるのであれば、ユーザーの普段の興味関心などを軸に広告をすることが最善だと考えています。それらを実現している既存の広告手段といえば、KOL(インフルエンサー)やSNS広告ですよね。しかし前述の通りでこれらの広告手段は、旅行予定のないユーザーに対してもアプローチする可能性があり「認知形成・ブランディング」以上の効果を見込むことが出来ません。

(余談ですが、これまで宿泊事業者の課題にフォーカスして意見を述べてきましたが、OTAも「SEO/リスティング広告のコスパが悪い」という課題は同じです。OTAはユーザー獲得を主にSEO/リスティング広告で取り組んでおり、その方法だけではリーチできないユーザーを取りこぼしてしまっているからです。)

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これらの理由から、以下の2つの仕組みを兼ね備えるビジネスアイデアには、革新性があると考えています。

1:「出発前の旅行者」に限定してリーチできる仕組み
2:旅行者の興味関心を軸にリーチできる仕組み

そして私たちは、これらを「旅行者を特定して、興味関心に沿って訴求できる広告」という形で実現できないかと考えています。

おわりに

私は結.JAPANという旅行系スタートアップにて、インバウンド(訪日観光)の領域でビジネスを日々模索しています。そして行き着いた結論が今回のnoteの内容でした。

結.JAPANでは現在「9Pocket」というサービスを開発中で、この仮説をもとに検証を進めている最中です。「9Pocket」ではこのマネタイズを実現するための仕組みを盛り込んだサービスとなっているのですが、現状このnoteで言えることはまだありません。(ごめんなさい!)

もしも、広告を実現するためにどんなサービス作ってるの!?という部分まで気になっていただける方がいるのでしたら、とても嬉しい限りです。

まだまだ未熟で的はずれな意見もあるかもしれません。ですが、今回の知見(特に前提部分のマネタイズにおける革新性が欠かせない)はインバウンドの領域以外でも旅行全般のC向けサービスに当てはまることだと思い、noteでシェアをさせていただきました。旅行系スタートアップのみなさまの糧になるのであれば幸いです。

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