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わたしの腰には何かが憑いている

昨年からずっと腰が重い。歩いているとき。椅子に座っているとき。寝ているとき。ずっしりとした重みとたまにピリッと感じる痛み。寝がえりを打とうとすると、金縛りのように腰が動かせない。私の腰にまとわりつく「何か」はどうしたら去ってくれるのだろうか。




世の中に腰痛持ちの人はどれくらいいるのだろう。私は高校時代から腰痛持ちだ。直接的な原因ではないかもしれないが、通学中の自転車事故が長年に渡って影響している気がしている。学生時代は長時間机に向かっていると、腰やお尻の奥の方が痛くなってくるのがつらかった。

なによりつらいのは、仰向けで寝られないことだ。寝た時点で腰に違和感を覚える。そして、起き上がる際には激痛を感じることもあった。寝たままで両親や兄弟を呼んで、手を持って引っ張り起してもらうこともあった。まるでお年寄りである。


その後も「痛みと共存出来てきたかも!」、「寝る時に腰の下にこぶしを入れとくといい感じかも!」などと、不思議なほどポジティブに腰痛と付き合ってきた私だが、ここ最近腰痛に拍車がかかってきた。

もう30歳手前だからだろうか。これまでは座った時だけだったのが、歩く時にも痛みが出るようになった。足を動かす度に刺すような痛みに襲われるのだ。

――さすがにこれを放置しておくわけにはいかないぞ。

そんな焦りのなかで、整体通いを始めた。痛みがひどい時は3日おきに施術してもらうこともあった。


そんなある日、友人に整体通いに苦労している話をしたところ、彼女は冗談交じりで恐ろしいことを言った。

「これはあくまで面白い話として聞いて欲しいんだけどさ、知り合いで長年腰痛だった人がお祓いに行ったらすっかり良くなったらしいんだよね。」

「え、それって何かが憑いてた~みたいな話?」

まさかの話の展開に若干驚きながら彼女の話を聞くと、やはりそういう話らしい。長年腰痛に苦しんだその知人が試しに評判の高い霊媒師のもとに行くと、腰に人が抱き着いていると言われたそうだ。そして、その場で祓うと、これまでの痛みが嘘のように消えたらしい。

私はどちらかと言うと信心深いほうで、スピリチュアルなこともほどほどには信じている。しかし、さすがにこの話は信じ難い。仮に私の腰に何かが憑いていたとして、高校の頃からその「何か」と一緒に生活していたなんて信じたくもない。


それなのに。その日から私は、腰になにかがまとわりついているのではないか、とふと考えるようになった。思考して怖くなるのではなく、その可能性がゼロではないかもしれないと、検討するような感覚だった。

――このまま腰痛とその正体について考え続けるのも精神衛生上あまり良くないな。

思い立ったら即行動派の私は、近所の神社で簡単なお祓いをあげることにした。名目は健康祈願と厄払い。腰だけではなくて、この一年健康で過ごしたい気持ちもあったので、いい機会だった。


冷たい床に座ってお祓いの太鼓の音を聞く。願うのはただひとつ。「腰の痛みが引くこと」だ。と言いたいところだが、実際の私の心情としては、「これで腰の痛みが引かなかったら良いな」というものだった。なぜなら、お祓いで痛みが引いたら「何か」の存在を認めなければならないのだから。

結局、お祓いをしても私の腰は治らなかった。あの時の不思議な安堵感は忘れられない。今では笑い話だが、半信半疑とはいえ相当に薄気味悪いと感じていたのだと思う。目に見えないものというのは、どうしても恐怖を誘引するようだ。


残念なことに、私は今でも整体通いを続けている。通い始めの頃より痛む回数はぐんと減ったのだが、他の部位もだいぶ問題があることが判明した。やはりある程度年齢が上がってくると、定期的に身体をメンテナンスする必要があるようだ。

後にも先にも、神社に行って効果が出ないことを望むのはこの一度だけだろう。というより、そうであってほしい。私の腰には「何も」憑いていなかったが、みなさんの腰痛は本当に疲労や酷使が原因だろうか。長年腰痛に悩む人は、「何か」が憑いていないか確認することをおすすめする。

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