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まどろむ宝石、もの言う鏡

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宝石より美しい目を持つ生き物、それは猫。 そしてその目はありのままの私を映し出す鏡。 宝石の目と視線がかち合うとき、私は自分の姿を直視する。 猫がいつも傍にいるエッセイです。 … もっと読む
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ダイヤモンドの月を抱け

ダイヤモンドの月を抱け

 ダイヤモンドは最も有名で最も美しく、そして最も硬い宝石の王。『無敵』を意味するギリシア語が由来になっています。

 子どもの頃、ドリトル先生が私のヒーローでした。ヒュー・ロフティングが生み出した児童文学の主人公であり、動物の言葉を話すお医者さんです。

 そのドリトル先生の家にはたくさんの動物がいるのですが、月からやってきた猫というのがいます。名前はイティー。最初は猫というだけで嫌われ、「それ(

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無防備なアクアマリン

無防備なアクアマリン

 アクアマリンは透き通った淡い水色の緑柱石です。緑柱石といえばエメラルドのことだと思っていましたが、鉄を含むことによって色と宝石名が変わるのだそうです。『海の水』という名がぴったりの美しい色です。

 もう7年ほど前のこと。北海道の実家にオッドアイのメス猫が顔を出していたことがありました。白の多い三毛猫で、とても美しい顔立ち。おまけに右目が琥珀で左目がアクアマリンのような神秘的な色なのです。

 

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オパールの橋で会いましょう

オパールの橋で会いましょう

 オパールは珪酸と水から成る鉱物で、卵の白身のように見えることから蛋白石と呼ばれることもあります。微細な珪酸球が規則正しく並んだものは光の影響で虹色に見えるそうです。物質内部の構造によって光が分光し、表面が虹色に見えることを遊色と呼び、オパールはその代表種なんだとか。

 実は私、SNSを使うようになって初めて『虹の橋』を知りました。今では『虹』と聞くと必ずこの『虹の橋』を連想します。

 虹の橋

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エメラルドの幻想

エメラルドの幻想

 エメラルドはベリリウムを主成分とする緑柱石。鉄を含んで淡い水色になるとアクアマリン、クロムやバナジウムを含んで緑色になるとエメラルド。色によって宝石名が変わるんだそうです。面白いものですね。クレオパトラが愛したために『宝石の女王』とも呼ばれる石です。

 我が家にいる愛猫のうち、唯一のオスである黒猫が、このエメラルドの色を帯びた金の目をしています。彼の名前は『天』といい、命名したのは夫でした。夫

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ペリドットの太陽

ペリドットの太陽

 我が家の愛猫『凪』は不思議な目の色をしています。おそらくヘーゼルと呼ばれるものだと思うのですが、金色から青みがかったグリーンにグラデーションがかかっているのです。光の加減でグリーンが色濃く見えるときはペリドットという宝石を思わせる色で、思わず見とれてしまいます。

 ペリドットの英名はオリビンでその由来はオリーブ。色合いがオリーブに似ているのです。そしてオリーブをカンランという植物と間違えた明治

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金の瞳じろじろまわりに

金の瞳じろじろまわりに

 知里幸恵編訳『アイヌ神謡集』には梟の神の自ら歌った謡「銀の滴降る降るまわりに」が収められています。
 梟の神が「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに」と繰り返し歌っているのです。なんとも美しいですね。

 我が家には金の滴や銀の滴は降りませんでしたが、金の目だったらおりますとも。
 二番目にやってきた愛猫『小町』です。彼女の目は鮮やかな金色で、私にとっては純金より素晴らしいものです。

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豊満なタイガーアイ

豊満なタイガーアイ

 タイガーアイは鉄分を含む岩石の隙間に産する鉱物です。発がん性を持つ青石綿が酸化分解して錆びた黄褐色になり、石英に置き換わってできるんだとか。

 我が家には現在、五匹の愛猫がいますが、その中で一番最初にやってきたのは『姫』という猫でした。典型的なキジトラで、タイガーアイを思わせる色合いをしています。肉球は黒一色です。

 色はタイガーアイだけれど、タイガー、つまり虎のような野性は母猫の胎内に置き

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砂漠の薔薇の色

砂漠の薔薇の色

 サハラ砂漠をはじめ、かつてオアシスがあった場所には『砂漠の薔薇』と呼ばれる鉱石ができます。石膏などの結晶が花弁状に集合したものです。

 そしてサハラ砂漠を舞台にし、世界中で愛されているサン=テグジュペリの『星の王子さま』には植物の薔薇が登場します。王子がふるさとに残してきた薔薇は、彼に旅立つきっかけをくれた存在です。王子とキツネ、そして薔薇のやりとりに、自分と愛猫の姿を重ねてしまうのは私だけで

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まどろむ宝石、もの言う鏡

まどろむ宝石、もの言う鏡

 猫の目をじっと見つめていると、まるで宝石のような美しさにうっとりします。個性あふれる色に命の光を帯びる球体。

 そして、その目は常に私の傍にあり、ありのままの私を見ているのです。

 喜びに震えたとき、取り乱したとき、悲しみに沈むとき、猫の目がじっと私を見つめています。

 視線がかち合った瞬間、その目の中に私は自分の姿を見出すのです。それはまるで美しい、もの言う鏡。ぎくりとするほど、残酷に現

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