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ダイヤモンドの月を抱け

 ダイヤモンドは最も有名で最も美しく、そして最も硬い宝石の王。『無敵』を意味するギリシア語が由来になっています。

 子どもの頃、ドリトル先生が私のヒーローでした。ヒュー・ロフティングが生み出した児童文学の主人公であり、動物の言葉を話すお医者さんです。

 そのドリトル先生の家にはたくさんの動物がいるのですが、月からやってきた猫というのがいます。名前はイティー。最初は猫というだけで嫌われ、「それ(It)と呼びなさい」というオウムの言葉がきっかけでついた名前です。

 神秘的かつ飄々とした猫で、動物たちにどんなに気味悪がられてもなんのその。最後には友達になるのですが、猫というだけでこんな仕打ちないじゃないかと幼心に憤ったものです。
 それでもイティーは猫らしく凜としていて、感動すら覚えた記憶があります。理不尽なことがあっても、嫌われても、背筋を伸ばすべきである。初めてそれを教えてくれたのがイティーだったように思います。

 月の猫ってね、ダイヤモンドみたいに無敵だなと思います。きっとそれ以上に美しい横顔をしているのでしょう。

 これを読んだのは小学生の頃だったのですが、当時の私にとって世界はとても小さいものでした。学校と地域がすべてなんです。他の場所は親がいないと行けない、飛び出すという選択肢も思い浮かばない、そういう子どもでした。

 だからこそ、その中で嫌われたらどうしよう、無視されたらこの世の終わり。

 だけど、「あなたに非がないのなら顔をあげていなさい」と、無敵の猫は小学校の図書室で教えてくれたのでした。自分ではどうしようもない流れの前にどうあるべきかと、問題提起をしてくれた猫です。

 現在、我が家には無敵を誇る月の猫がいます。
 最も歳下のメスの愛猫『鏡花』です。名前はかの文豪・泉鏡花から。ハチワレが七三に見えて、泉鏡花にそっくりだったのです。

 彼女はある家電量販店の入り口にぽんと捨てられ、うずくまり動けなくなっていたところを夫に保護されたのでした。最初は里親を探す予定でしたが、夫が「情が移った」と言い、結局は我が家の子になりました。

 性格は自由奔放でやんちゃなじゃじゃ馬娘。先住猫の輪に飛び込み、嫌われても煙たがられても無邪気にじゃれています。

 若さなのか、性格なのか、無敵な彼女のエネルギーはほとばしるようです。
 そんな鏡花を腕に抱いていると、ぬくもりを通してパワーをもらえる気がします。私は私を愛しているし、私は私のままでいく。そんな強さです。

 でも猫ってみんなそういうところがあるから、好きなのかもしれません。みんなそれぞれ無敵なんです。なにより、かけがえのない家族ですもの。そりゃあ、無敵ですね。

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