#256【連載小説】Forget me Blue【画像付き】
ところでTのタクシー会社には、初乗り料金が日本一安いと言われている「きんぴらタクシー」がある。本社はR町商店街から車で四分の場所にあるので、昔から佐藤家の御用達だ。
「全く……帰ったら絶対泣かれるわ」
「泣きはしないでしょ? 俺が選ぶのは可愛いのに決まってるし! ちゃんと佐村さんの希望のフリルとレースっていう条件も守るよ」
未央と共にタクシーを待ちながらそうぼやくと、彼は頗る上機嫌にそう請け合った——佐村は休憩時間が終わるギリギリまで未央を連れて行くのに反対していたのだが、イチが今更断れる筈も無かった。
「そういや、態態タクシー呼ぶなんて珍しいね。もしかして、歩くのしんどいん?」
ふと思いついたのか未央が心配顔でそう聞いて、イチは彼に三好のことを話していないのに気付いた。だから少し悩んだ末、端的に「例のストーカーに狙われてるんだ、多分俺が」と答えた。
「ええええー!?」
「うるせぇ!! 近所迷惑だろ!!」
耳元で叫ばれて、イチは顔を顰めて注意した。見ると未央は涙目になっており、「何で言ってくれんかったん!?」とまた叫んだので、「シンプルに忘れてた」と答える。
丁度その時、前の道にきんぴらタクシーの車両が一台停まり、イチは彼の手を引きながら「道中説明するから、とにかく乗るぞ」と言った……。
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【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村と出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。
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