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#281【連載小説】Forget me Blue【画像付き】

 そうしてイチは、ソファに腰を下ろすと未央からのプレゼントの包みを開けた。隣に掛けている祖父も、同じようにしてイチから貰ったスマホ三脚を取り出した——それから目をきらきら輝かせて、「ありがとな、いっちゃん!」と礼を言った。
「ううん、安いもんでごめんね」
「いや、三脚、欲しいと思ってたから丁度良かったや。これ、脚が変形すんだな」
「そうそう。だから高い所に取り付けて撮影したり出来るよ。勿論もちろんシャッターリモコン付き」
「それは、ポシェットか? 未央ちゃんがくれたの」
「うん。スマホポシェットと財布が合体したのみたい。斜め掛けに出来るし、めっちゃ便利そう」
 未央からのプレゼントは、長方形の薄いポシェットだった。スマホを入れるスペースの他にカード入れや小銭入れもあって、付け外し可能なショルダーベルトが付属しているから、聡一を抱いていて手がふさがっているときに重宝ちょうほうしそうだ。明るいブルーのナイロン生地に黄色いキリンのイラストがプリントされており、とても可愛らしい——イチはポシェットを手にくすっと笑うと、スマホを取り出して未央宛てのラ◯ンメッセージをしたため始めた。

未央がイチにプレゼントしたスマホポシェット?

 そして午前九時丁度にインターホンが鳴り、祖父が大声で応え階段を下りて行った。セコミ﹅﹅﹅の防犯装置を取り付ける業者が来たのだ。
「監視カメラにセコミ……何か要塞化﹅﹅﹅しつつあるな、この家」
 階下で業者の男性と祖父がやりとりしているのを聞きながら、イチはそう呟いた。三好は二十三日イブイブに事件を起こしてから姿を見せていないが、まだ諦めていないだろう。けれども、年末年始は彼女も家族と過ごすのかも知れないな、と思った——彼女が住むT県西部はこの辺りよりずっと田舎だし、実家暮らしなら行事をしたり親戚が集まったりして、一人で出掛ける暇が無いはずだ。
「お邪魔しまーす。センサー取り付けに上がりましたぁ」
「おっ、どうもお世話になります」
「ちょっとうるさくしますけど、二時間くらいで終わらせますんで」
「いえいえ、どうぞゆっくり作業して下さい」
 しばらくして、ブルーの作業着姿の男性二人組がリビングに上がって来た(祖父は彼らの後からよいせ、よいせ、と言いながら戻って来た)。ソファに掛けているイチに気付くと、白い歯を見せて笑いそんな挨拶をした——イチは慌てて立ち上がり笑顔で応えた。それから彼らは部屋の中をあちこち見て回り、隅の天井近くにセンサーを取り付けることになった。
 そして、彼らは本当に手早く作業を済ませたから、宣言通り二時間ちょっとで要所要所にセンサーが設置され、リビングの入り口にも操作用のタッチパネルが取り付けられた。そして玄関ドアの横にも、専用のキーを挿しセキュリティーシステムの操作をする装置が付いた。
「それじゃ、分からないことがあれば、いつでもお電話下さいね!」
「分かりました。どうもお世話になりました」
「ありがとうございました。おっ、お茶お茶」
 工具等の荷物をまとめて帰ろうとする作業員達に、佐村が買って来たペットボトルのお茶を渡さなければいけないのを思い出した祖父が、ダイニングテーブルの上に置いてあるのを急いで取って来た。そしてそれぞれ一本ずつ渡すと、作業員達は何度もお礼を言って帰って行った。
「ふう。説明書もあるけど、早速操作してみっか」
 祖父が玄関ドアにしっかり施錠したのを確認して、イチは操作パネルの前へ行きそう呟いた。事業所に勤めたことが無いから、こういうのを見るのは初めてである——少しワクワクしながらタッチパネルを触ると、女性の電子音声が流れたので「おおっ」と声を上げる。
「これ、サムさん帰って来たら大喜びするだろうな……って、本当はそんな場合じゃないけど」
 ストーカー被害に遭っているからセキュリティーシステムを導入したのに、最新の装置にワクワクするのも妙だ。イチはそう呟くと、工事が終わったことを知らせる為、佐村と一宛てのラ◯ンメッセージをしたため始めた……。

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【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村さむらと出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。

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5,147字

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