#252【連載小説】Forget me Blue【画像付き】
そうして十五分位弱火で加熱し、米の芯が少し残る位の硬さになったら、粉チーズと塩胡椒を加えて味を整えた。佐村は鍋の中身を深皿に装うと粉末のパセリを散らし、イチの前に置いて「さあ、召し上がれ」と言った。直ぐに木製のスプーンも持って来て渡す。
「うおお……良い香り。いっただっきまーっす」
さっきまで腹が張って横になっていたのに、すっかり元気を取り戻したイチは手を合わせると弾んだ声でそう良い、熱熱のリゾットをスプーンで掬った。それからふうふう吹いて冷ますと、パクッと口に入れる。すると、トマトの甘みとチーズの風味に程良い塩気が口の中に広がって、何とも言えない美味しさだった。
「美味しい! 流石サムさん、外すということが無い」
「えへへ、お褒めに預かり光栄です。俺も食べてみよーっと」
照れながらそう言った佐村は自分の席に着くと、イチと同じように深皿の中身をスプーンで掬って口に入れた。途端に幸せそうな表情になる。それを見てくすっと笑ったイチは、直ぐに真面目な顔になって皿の中身を見つめると、パクパク口へ運んだ(美味しくて堪らない)。
暫くしてすっかりリゾットを平らげた二人は、片付けを済ませると(佐村はイチに休んでいるように言って一人でやった)急いで部屋に戻った。そして手を洗うと、佐村は直ぐ様ダイニングチェアを一脚引いて「さあさあ! ここに座って選びましょうぞ!」と誘ったから、イチはぷっと噴き出して「なんか未央みたいな言い方」と言った。
「お腹が大きいから、大きいサイズが良いんだよね」
「おう。だからそうちゃんが出て来たら合わなくなるかもな」
「うっ……でも、また赤ちゃん作るし」
「ブッ」
肩を寄せ合うようにしてスマホを覗き込み話していたら、思い掛けない発言が飛び出してイチは思い切り噴いた。確かに、聡一が二歳になったら二人目を作ると決めているが、ストレートに言われると恥ずかし過ぎる。
「と、とにかく、サムさんはどういうのが好みなんだ?」
慌てて話題を変えると、佐村はノリノリになって希望を述べた。
「えっとね、レースとフリルは絶対外せないんだ。それで色はホワイト系……アイボリーでも良いかな。リボンが付いてたらもっと良い」
「偉い細かく指定すんな……でもリボンは却下だな。絶対似合わない」
「えーっ、そんなこと絶対無いよ! 大きいのでなくて良いから、ちょこっとリボンを……」
「まあ、そういうのがあったら考えても良いけど」
レースにフリル、それからリボンなんてスタイル、可愛らしい少女にしか似合わないだろう。そう思っているからイチはまともに取り合わないことにして、検索フォームに「大きいサイズ ワンピース」と入力した。
「おっ、大きいサイズ専門のブランドがあるんだな」
「へえ! 最近はサイズ展開が充実してるもんね。俺も服、選び易くなったよ……」
「サムさんは横幅は無いけど、とにかく縦に長いからな」
「何か微妙な言い方……」
そんな阿呆なやりとりをしながら、大きいサイズ専門の通販サイトの「ワンピース」カテゴリを見ることにした。どんどん商品を表示させていると、佐村が「あっ」と声を上げたので手を止める。
「これこれ! こういうのが良いの」
「ええ、これ?」
佐村の目に止まったのは、アイボリー色の総レースのワンピースだった。胸元には水平にフリルが付いており、シースルーのパフスリーブの半袖で、胸の下の切り替えからAラインの裾がふわっと広がるタイプだ。けれども膝丈なので、イチは首を横に振った。
「ごっつい脚が見えるから、短いのは着ない」
「ごっつい脚? 長くて綺麗な脚の間違いじゃない?」
「ブッ」
イチは思い切り噴いたけれど、顔を背けたのでスマホに直撃せずに済んだ。それから耳まで赤くなり、「何だって、そんな台詞がスラスラ出て来んの!?」と叫ぶ。
「え? 事実を述べただけ……」
「事実じゃないだろ! もう、恥ずかしい人ね!!」
佐村はきょとんとしてそう言ったから、イチは思わず(?)オネエ口調になってまた叫んだ。すると彼はニヤッとして「イチの脚、セクシーなんだよね。するとき、いつもキスしてるでしょ……」と囁いたから、イチは「ギャーッ!」と悲鳴を上げた。
「もう俺は風呂に入る!!」
「じゃあスマホ貸して。サイズはXLかな?」
「ちょっ、勝手に注文すんなよ!!」
薮からステックなR18発言に恥ずかしくて堪らなくなり、風呂へ逃げ込もうとしたらスマホを奪い取られたから、イチは慌てて取り返そうとした。すると佐村はサッと立ち上がってスマホを高く掲げ届かないようにしたので、「コラーッ!」と叱った……。
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【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村と出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。
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