#250【連載小説】Forget me Blue【画像付き】
「さてさて、今日は『パパッと! ふわふわ親子丼』を作りますよお。勿論、レシピとは違って卵にはしっかり火を通します」
「おお! サムさんの親子丼、大好物! そして、何時も乍らお気遣いありがとうございます」
後ろ手にエプロンの紐をキュッと締め、うきうきとそう言った佐村に、イチはにこにこして応えるとぺこっとお辞儀した。すると佐村も同じようにして、「イチこそ、二十四時間頑張ってそうちゃんを育ててくれて、ありがとうございます」と言ったので、見つめ合ってくすくす笑う。そうしたら、ソファに掛けてスマホを弄っていた祖父が振り返り、「全く、仲良しだなあ!」と冷やかしたから、二人揃って耳まで赤くなった。
「それにしても、二日連続で現れるなんて、かなり本気だね! 未央さんのストーカー」
「まだ未央のストーカーと決まった訳じゃないだろ。どっちかってぇと、サムさんのストーカーのような気がする……」
「ええっ、何で? こっち来てからそんなこと、一度も無かったのに……」
「まあ、前はゲイ疑惑もあったし……でも今は結婚指輪嵌めてるし、すっかり疑惑は晴れてるだろ」
「結婚指輪嵌めてるからストーカーって、おかしいでしょ!」
「女は怖いんだよ……サムさんだってよく分かってるだろ、数ある苦い経験から……」
「うっ、確かにそうだけど……」
イチの指摘に、佐村は鮮やかな手付きで玉葱を薄切りにしながら呻いた(件の指輪は今はステンレスのハリネズミの鼻に掛けられている)。Tは田舎でのんびりしているから油断するのは分かるが、一般人にしては魅力的過ぎる彼は狙われ易いのだ——きっとイチの予感は当たっている。
「サムさんはこんなに格好良いのに、話し易くて『ぽけーっ』としてるからなあ。絶妙に手が届きそうなところが魅力なのに違いない」
「前半は褒めてるけど、後半はめっちゃ貶してない!? 薮からステックに……」
イチの言い草に佐村は頬を染めたが、直ぐに眉を寄せて突っ込んだ——既に玉葱は切り終えて、パックから取り出した鶏もも肉を一口大に切る作業に移っている。
「でも、そんな風にする人なんて心当たり無いよ……あっ」
「え?」
「まさか、スマホ持って来てくれた子……三好さんじゃないよね?」
「へえ、三好さんていうの」
「うん。一見大人しそうな感じだし、年齢も未央さんの目撃情報に合う……」
「それに、スマホの中見られたかも知れないんだよな?」
「まあ、その可能性は低いと思うけど……でも、流石に無い無い。彼氏居そうな感じだし」
「居そうな感じって、サムさんの勝手な感想だろ?」
「うっ、確かにそうだけど……」
相変わらず「ぽけーっ」としている佐村は自身の予想を否定したが、イチは心の中で「もしかしたらビンゴかも知れないな……」と呟いた……。
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【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村と出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。
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