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#262【連載小説】Forget me Blue【画像付き】

 イチの心配を余所よそに、佐村はいつも通り午後六時半過ぎに帰って来た。「ただいまー」と明るい声で挨拶しながら三和土たたきで靴を脱ぐと、受付に直行しデスクトップパソコンのマウスを動かして点灯した画面を見た。
「お帰り。何してんの? 蒼士」
「今日も異状いじょうはありませんでしたかあ? ってパソコンに聞いてるの」
「へえ」
 踊り場から顔を覗かせたイチがそう聞くと、佐村は意外な返事をした。何でも、昼間録画された映像を早送りで再生しているらしい。
「別に何も映ってないね。まあ、三好さんも働いてる時間だし、当たり前だけど」
「前は朝に来たけど……映ってないんだな?」
「うん。イチが出て来ないし、朝を狙って来るのはやめたのかも知れないね。かといって、俺が帰って来る時間には現れないし……」
「でもまあ、油断はしないでよ。後ろから刺されでもしたら﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅……」
「ヒェッ」
「い、いや、最悪の場合であって、億が一﹅﹅﹅にも無いとは思うけど!」
 イチの言葉に佐村は青くなって悲鳴を上げたから、慌ててそう付け加えた。すると、彼はパッと明るい顔になり「だよね〜」と応えて階段を上って来たので、内心「単純過ぎるやろ!」と突っ込んだ。けれどもおくびにもさずに話題を変える。
「あ、そういや、ついさっきまで未央がったんよ。ファ◯マのシュークリーム持って来てくれた。デッカいやつ」
「え、本当? わーい! 俺の分もあるよね?」
「おう、勿論もちろん
「でも何しに来たの? まだ火曜なのに」
「知らんけど、三好さんの件を相談した……何か、じーちゃんのイン◯タフォローして来たっぽい」
「ええっ、三好さんが!?」
 イン◯タグラムでの一件と、先程未央と祖父と三人で相談したことを報告すると、佐村はエプロンを着けながら深刻な顔付きになった。そしてテーブルの上に置いてあるスマホをちらっと見て、珍しく低い声で「うっかりしてたな……」と呟いたから、イチは首を横に振って自身の考えを口にした。
「蒼士、滅多にスマホ落としたりしないじゃん。椅子の上に落としたかもって言ってたけど、席を立つときには必ず忘れ物確認するやろ? 思うに、三好さんにられたんじゃ……」
「ええ、るって……完全に常軌じょうきいっしてるじゃん」
「そう。だから案外面倒な相手﹅﹅﹅﹅﹅かも知れないと思ってさ」
「……」
 何となくこの予想は当たっている気がしたから、イチは真剣な顔でそう言った。すると佐村は押し黙ったが、冷蔵庫からとりにくのパックを取り出した。いつものようにシンクへ運んだそれを洗いながら言う。
「でも、どうすることも出来ないよね……かと言って、何か行動﹅﹅されるのも困るし」
「情報抜かれたっていう証拠も無いしな。ただ不気味なだけで、対策するのが難しい」
「いつまで続くか分かんないけど、来月には引っ越しするからね。そっちに付いて来られないようにしないと。って言っても、尾行に気付くのは素人の俺には難しい……」
「本当、憂鬱だわ」
 イチと佐村は口口くちぐちにそう言うと、そろって大きなため息を吐いた……。

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【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村さむらと出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。

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