#255【連載小説】Forget me Blue【画像付き】
鱈の切り身は水分を拭き取り、黒胡椒と片栗粉を塗す。それから弱火で熱したフライパンに有塩バターを入れて溶かし、切り身を投入する。そして両面にこんがりと焼き色が付いたら、中まで火が通ったのを確認して取り出す。次に同じフライパンにしめじと舞茸、醤油と酒に砂糖、顆粒和風出汁に水を加え中火で炒めて、しめじと舞茸がしんなりしたら一度火を止める。そこへ水溶き片栗粉を回し入れて弱火で熱し、とろみがついたら火から下ろす。最後にそれを皿に盛り付けた白身魚にとろりと掛けて、小葱を散らしたら出来上がりだ——手分けして手際良く調理したから、二人は二十分弱で食卓に着くことが出来た。
「さあて、白ごはんはモリモリのモリアーティ教授でいただきますよお」
「ブッ!! 何だそれ!!」
満面の笑みを浮かべて手を合わせた佐村の口からそんな台詞が飛び出して、同じように手を合わせていたイチは盛大に噴いた(勿論顔を背けたからソテーは無事だ)。因みにモリアーティ教授とは、ご存知コナン・ドイルの小説「シャーロック・ホームズ」シリーズに登場する悪役だ。
「この前、未央さんが『いやはやハヤシライス』って言ってたじゃん。だからあの時から、俺も何か上手いこと言えないかなって考えてたの」
「対抗するのにも程があるだろ! 顔に似合わずめっちゃ執念深いな……」
「だから俺は隠れメンヘラだって言ってるじゃん! 未央さんにもネチネチしてるって言われたし!」
佐村はこんもりと白米が盛られた茶碗を手に、ぷうと頬を膨らませてそう言った。それから白身魚のソテーと一緒にパクパク食べ始める——いつ見ても気持ちが良い程の食べっぷりだ(野菜は手早く作ったグリーンサラダでとる)。
その時、噂をすれば影がさす、と言うべきか、イチのスマホが「ラ◯ン」と鳴って、見ると未央からのメッセージを受信していた。内容はクリスマスプレゼントの小旅行の行き先についてで、県の西部にあるW町の「うだつの街並」はどうかと書いてあった。
『一月九日からは、花屋敷圭吾の〔うだつをいけちゃう〕が始まるんだよ! 二十日までやってるから、引っ越しが一段落したら行けるんちゃう?』
「おお、花屋敷圭吾……」
「あっ、華道家の人?」
思い掛けない提案に声を上げたら、佐村も目を見開いてそう言った。花屋敷圭吾とはバラエティー番組等でも活躍する華道家で、オネエ系芸能人としても人気がある。W町では町興しの一環で、うだつの街並、即ち国の重要伝統的建造物群保存地区「W町南町」を構成する建造物の一つである、藍の豪商佐直吉田家住宅を会場として、花屋敷氏の個展を毎年一月に開催している。一度も訪れたことは無いが、ローカルニュース番組で度度取り上げられていたのでイチも知っていた。
「へえ、生け花の展覧会かあ! 綺麗だろうね、見に行きたい!」
「だよな! 俺も興味ある……ええと、オッケー、っと……」
目を輝かせてそう言った佐村に同意すると、イチは未央への返信メッセージを入力した……。
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【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村と出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。
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