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#260【連載小説】Forget me Blue【画像付き】

「今日は本当にありがとう! コンペの結果が出たら一番にお知らせするわね! 後、フレームに入れた作品もあげる! ツーエル(サイズ)だけど」
「いえいえ、俺も楽しかったですし。それより、素敵なマタニティフォトを撮って下さって、ありがとうございました」
「ねえねえ、副業でモデルやらない? あなた向いてるわよ!」
「ええっ、いや、副業は無理ですね……」
「ちぇっ」
 撮影は至極スムーズに進んだが、次に撮影するウェディング写真の相談(矢張やはりイチはドレスを着ることになった。日取りは来年一月末)もしたので、会計を済ませた時には夕方の五時を過ぎていた。帰ろうとする三人を見送りに来た森は、興奮冷めやらぬ様子で佐村をスカウトしたけれど、彼は苦笑いをして首を横に振った(A製作所は副業禁止のはず)。すると森は残念そうになったが、最後にはミニバンの窓から顔を出した佐村に笑顔で手を振った。
「それにしても、佐村さんにモデルの才能があったなんて……。道頓堀どうとんぼりではグ◯コサインのポーズとってた癖に」
南京なんきんまちでもブルース・リーの真似まねしてたぞ」
「ポーズキメて写るの好きなんですよ。別人になったみたいでワクワクする」
「えーっ、贅沢! 皆がなりたいイケメンの癖に、別人にもなりたいなんて!」
「贅沢ですかね? 誰でも多かれ少なかれ、変身願望あるんじゃないですか?」
 後部座席で叫んだ未央に、ハンドルを握った佐村は首を傾げてそう応えた。それに、イチはぽうっとした﹅﹅﹅﹅﹅﹅目付きで言う。
「でも、サムさん凄く格好良かったぜ。今日の作品貰ったら、枕元に飾る﹅﹅﹅﹅﹅……」
「ブッ」
 そんなイチの言葉を聞いた佐村と未央が同時に噴いて、そろって耳まで赤くなった。そして、佐村はちょっとの間唇を戦慄わななかせていたが、不意にぼそっと言う。
「イチも、凄く可愛いよ……。早く二人っきりになりたい﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅
「ヘイヘイヘイヘイ!! 俺の前でイチャつくの禁止!! 公然こうぜん猥褻わいせつ!!」
公然こうぜん猥褻わいせつ!? 酷い言い草ですね!!」
「あっ、サムさん! 今日の晩飯何!? 疲れたし、テイクアウトかどっか食べに行く!?」
 真っ赤になったイチが話題を変えようと叫ぶと、佐村はふふっと笑って「ううん、ほっかほかの親子丼、作ったげる」と答えた……。

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【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村さむらと出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。

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