#270【連載小説】Forget me Blue【画像付き】
溝口の発言を聞いてとても嫉妬しているように見えたあかちゃんは、直ぐに元の通りの笑顔を浮かべると、「本当、良くお似合いでしたね! ワンピース」と褒めた。だからイチは、怯えながらも「あ、ありがとう……?」と礼を言う。
「あの後、佐村さんモデルなんかやっちゃって、めっちゃ格好良かったんだよ! 溝口さん」
「ええーっ、そうなんですか!? データとかあります? 是非見たいです!」
「あ、スマホで撮ったのならあるぜ」
続けて未央がフォトストリートモリで佐村がモデルをした話をしたら、溝口は目をきらきら輝かせてそう頼んだ。だからイチはテーブルに置いてあったスマホを取り上げて答える。すると、その様子を見ていたあかちゃんが「佐村さんはどちら出身なんですか? Tじゃないですよね」と聞いた。
「はい。転勤族なんで、地元っていう地元は無いんですけど、主に大阪とKに居ました」
「へえ、そうなんだ! 私は生え抜きですよ。大学までTで……」
「そうなんですか! どちらの大学なんですか?」
「T大です。T大医学部」
「医学部!?」
溝口と肩を寄せ合うようにしてスマホ画面を覗き込んでいたイチは、あかちゃんの返事を聞いて素っ頓狂な声を上げた(未央も同じようにした)。すると、彼女はにこっとして「医者やってます。精神科ですけど」と言った。
「へえーっ! お医者さんだったなんて! 道理で……」
「え? 道理でって……」
「ああっ、それで溝口さんと知り合ったんか。事務やってるもんな、病院で」
目を見開いて感心した未央が余計なことを言い掛けたのを遮って、イチは溝口に話し掛けた。すると彼女はこっくり頷いて言う。
「あかちゃんさんが診てらっしゃる患者さんが、ウチに入院してた時に声掛けられたんです」
「まどちゃんのこと、最初に見た時から気になってて。何回目かに、勇気出して話し掛けたんです」
「ヒューッ」
「ブッ」
溝口とあかちゃんの馴れ初め(?)を聞いた未央が口笛を吹いて、イチは思い切り噴いた。すると佐村が矢鱈嬉しそうに言う。
「でも、素敵ですね! 近頃は同性カップルも法的にパートナーとして認められるようになって来てるし、お二人も何れは……」
「ちょっ、佐村さん、先走り過ぎですよ!! そもそも私達、付き合ってな……」
「私は是非そうしたいんですけどね! まどちゃんさえ良ければ」
顔を真っ赤にした溝口の言葉を遮って、あかちゃんがにっこりしてそう言った。すると溝口は耳まで赤くして押し黙る。それを見て、イチは「案外満更でもないのかな」と思った。
「あーあ。ってことは、俺とじーちゃん以外みんなリア充じゃん。ちぇっ」
「おいおい、ナチュラルにじーちゃんを巻き込むな。じーちゃんはばーちゃんとラブラブだったんだぞ」
「ラブラブなんてもんじゃねぇぞ! ぺちゃんこに尻に敷かれてたんだから」
「あはは! 仲良しだったんですねぇ、お祖父様とお祖母様」
口を尖らせた未央の言葉にイチが突っ込んだら、ニヤッとした祖父がそう応えたので佐村はにこにこした。確かに、祖父と祖母は仲が良かった——二人並んでテレビを観ている後ろ姿を良く覚えている。
「ところで、唐揚げも頂いて良いですか? 佐村さんのお料理美味しいから、どんどん食べたくなっちゃう」
「あっ、勿論です! ごめんなさい、気が付かなくて……今取り分けますね!」
スコッチエッグのラタトゥイユ風ソース煮の皿をすっかり空にしたあかちゃんがそう言って、佐村が慌てて立ち上がった……。
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【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村と出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。
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