#285【連載小説】Forget me Blue【画像付き】
「これ、バターと味噌が入ってるんだな。母ちゃんが作ってくれたのはシンプルな塩味だったけど、これはこれでめっちゃ美味いな」
「でしょ? ハイカロリーだけど、それだけに美味しいよね……」
「ウヒョー、堪りませんなあ! 佐村さんの賄い付きだし、このバイトやめられない……」
「俺をお尻でど突いた癖に、調子良すぎません? 未央さん」
「だから、佐村さんだって倍返しして来た癖に!!」
「そもそも、大の男二人が尻でど突き合いっておかしいやろ……」
煮込みハンバーグの付け合わせには、粉吹き芋の他に茹でブロッコリーと人参のグラッセも作った。そうして全ての料理が完成した時には午後七時過ぎになっていて、佐村は「すっかり遅くなっちゃった!」と言いながらテーブルに料理の皿を並べた。そして三人揃って手を合わせ、わいわい賑やかな夕食が始まった。
「そうそう、明日は今年最後のTマルシェの日なんだよね」
「ああ、そういえば……」
「あるもんも来るから、明日のお昼は唐揚げ三昧だね! イチも一緒に行く?」
「おう、行きたいけど……」
佐村に誘われたイチは、チーズイン煮込みハンバーグを箸で割りながら口籠もった(とろりと中のチーズが溢れ出して来る)。結構な傷害事件を起こしたから、三好はもう懲りただろうか——しかし、不意に現れたらと思うと外に出るのが怖い。
「兄ちゃんは家で居た方が良いと思うよ。三好さんの動向分かんないし……」
「そうだよな……」
「月曜は仕事納めだけど、三好さんの会社に問い合わせてみるよ、彼女のこと……」
真面目な顔になった未央が忠告して、イチはしょんぼりと頷いた。すると、珍しく険しい顔をした佐村がそう申し出た——しかし、もし三好が会社を辞めることにでもなったら、全く様子が分からなくなるから却って厄介だ。
「でもまあ、いつまでも籠もってる訳にもいかんよな。そろそろ前に進む時期かも……」
イチがそう言うと、佐村と未央は箸を止めてうーんと唸った。それにイチは苦笑して、「じゃあ明日は三十分だけ、二人がボディガードしてよ。そんで様子見しながら、ちょっとずつ外出するようにしよう」と提案した。
「そうだね。でもそうちゃんが生まれるまでは、絶対に一人で外に出ちゃ駄目だよ……」
「おう。生まれたら今度は、そうちゃんを守らないといけなくなるけどな」
「そうなんだよね……」
「でも、危険なのは三好さんだけじゃないから。徐徐に普通の生活に戻って行こうぜ。それでも駄目だったら、弁護士に相談だ」
「うん。もし最後まで諦めてくれなかったら、徹底的に戦おうね」
イチと佐村はそう言うと目を合わせ、こっくり頷き合った。すると、見ていた未央がぼそっと「もういっそ……」と言い掛けたから、イチは最後まで言う前に「絶対に止めろよ!」と釘を刺した……。
【53万文字試し読み】無料で最初から読めます↓
【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村と出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。
この記事が参加している募集
いつもご支援本当にありがとうございます。お陰様で書き続けられます。