#251【連載小説】Forget me Blue【画像付き】
「ああ、いっちゃんのお顔見ながら佐村さんの肉じゃがを食べられるなんて、至福だなあ」
「至福って。大袈裟じゃない?」
「大袈裟じゃないわよ! 愛する家族と一緒にご飯を食べるのは、最も幸せな行為の一つだからね」
「そうですよね! 俺も、いつも幸せだなあって思いながら食べてるんです」
「まあ、俺もそうだけど……」
三人は、佐村が手早く完成させた(イチも出来る限り高速でじゃが芋の皮剥きをして貢献した)熱熱の肉じゃがを頬張りながら、そんな会話をした。一と一緒に食事するのは久し振りだ——殆ど趣味みたいに残業や休日出勤をしている彼だけれど、雨でなくても偶にはこんな風に早く帰って来たら良いのに、と思う。
「そういえば父ちゃん、山田先生は元気にしてる?」
「山田先生? うん、元気だと思うけど、ちょっとぼんやりしてるかな、最近」
「え?」
「相変わらず凄く真面目なんだけど、自分の席で作業してるときとか、ぼーっとしてることがあるかな。話し掛けても一度で気付かなかったり」
「ええっ」
何気なく一の同僚である山田の近況を尋ねたら、そんな答えが返って来たので、イチと佐村は同時に声を上げた。すると、イチが応えるよりも早く佐村が口を開く。
「それって、きっと恋煩いですよ。典型的な症状……」
「まあ、そうかもね。年頃だからね」
「何だか甘酸っぱいですね! ね、イチ!」
「おぇっ? お、おう、そうだな」
当然口にはしなかったが、山田が溝口に恋しているのを知っている佐村は、にこにこしてそう言うとイチに同意を求めた。それにイチは思わず素っ頓狂な声を上げたが、慌てて何度も頷いた。他人事なのに、何故だか恥ずかしくて赤くなる。
「でも山田先生、凄く人気あるから、直ぐに両思いになれそうだけどね」
「え、そうなんだ」
「生徒からは絶大な人気を誇ってるよ。あんなイケメン、然う然う居ないでしょ? あ、そうでもないか。ここに居た」
「えっ!? そんな、迸りですよ!」
「迸りって」
私見を述べた一は、言葉の途中で佐村を見つめてそう言ったので、佐村は透かさず抗議した——散散苦労した結果、最早彼にとって容姿を褒められるのは嬉しいことではないのである。
「それに、こんなこと言うと下品だけど、山田先生のお家って凄くお金持ちだし……Kの大地主さんだからね」
「マジ!? でも何か納得……言われてみれば御坊ちゃまオーラ凄いもんな」
「大地主さんかぁ……それじゃ、山田先生が好きな人は上手く行ったら、凄い玉の輿ですね!」
「そうそう。だから上手く行かない筈無いよ」
自分のことのようにうきうきした佐村がそう言うと、一は真面目な顔でこっくり頷いて請け合った。けれどもイチは内心、溝口が相手ではそう簡単には行かないのではないか、と心配した……。
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【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村と出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。
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