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#277【連載小説】Forget me Blue【画像付き】

 佐村は宣言通り、いつもより早く午後五時半に帰宅した。ドアに鍵を掛けるなり、「真っ赤なお鼻の〜」と歌い始めたから、階段の踊り場まで出て行ったイチはぷっと噴き出した。
「お帰り、サムさん。ご機嫌だな」
「ただいま! あたり前◯のクラッカー﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅でしょ、イチと過ごす初めてのクリスマスイブなんだよ!?」
「サムさんが言うと何か破壊力﹅﹅﹅あるな、そのギャグ……とにかく、今夜のご馳走ちそうが楽しみだわ。特に『サムさんのクリスマスケーキ』」
「イチのリクエストで、アラザンもチョコレートもたっぷり買ってあるからね!」
「何さ、二人共! そんなとこでイチャイチャしてないで、早く入って来なさい!」
 階段を上って来た佐村とそんなやりとりをしていると、リビングから顔を出した未央がぷりぷりしてそう言った。それに二人は「ごめんごめん」と謝って、暖かな部屋の中へ入る。
「そういえば、ツリーとか出すの、すっかり忘れてたね」
「いや、そもそもこの家にはツリーが無いんや……」
「ええっ、何で?」
「母ちゃんが出て行ってからずっと仕舞い込んでて、五年くらい前に出してみたらカビだらけになっててさ。仕方無く捨てた」
「そんなあ……」
 菜葉なっぱふくの上着を脱いだ佐村がふとそんなことを言って、イチは眉を寄せて訳を話した。すると彼はとても悲しそうな顔をしたので、イチはうっとうめいた——佐村のこういう表情にはとても弱い。けれども、彼はぐに立ち直り目を輝かせて言う。
「じゃあ、そうちゃんと過ごす初めてのクリスマスには、ツリー買おうね! オーナメントなら、埠頭ふとうのイベントで買ったハリネズミのがあるし……一つじゃ全然足りないけど」
「サムさんはツリー持ってないんか? 何か意外……」
「えっ、ああ、俺も捨てちゃったからね。小さい壁掛けタイプだったし」
「ふうん」
 イチの質問に佐村は少し慌てた様子で答えたから、嘘をついたのが丸分かりだった。きっとその壁掛けツリーは希が選んだもので、彼のことだから大切に仕舞ってあるはずだ——気不味きまずいから出したくないのだろう。その時、ソファにかえって(スマホを弄りながら)やりとりを聞いていた未央が、つまらなさそうな口調で「ねー、早くご飯作ろうよー」と言ったので、二人はびくっとして同時に「分かった!」と叫んだ。
「ディナーの主役はいつものスペアリブのマーマレード煮にしたかったんだけど、残念ながら◯協に行く時間が無かったので、王道のローストチキンです! でも、フライパンで焼く簡単レシピだよ」
「おお、ローストチキンとか久し振りやな。毎年Lキチ﹅﹅﹅で済ませてたからな……」
 それから佐村は念入りに手を洗うとワイシャツをうでまくりして、後ろ手にエプロンの紐を結びながらうきうきとそう言った。それにイチがボッチ時代の悲しい思い出﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅を披露したら、冷蔵庫のドアを開けて中を覗き込んだ未央が言う。
「フライパンで焼くの、手軽で良いね! 他には何作るの?」
勿論もちろん、未央さんの大好きなモリアーティ盛り﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅のフライドポテトと、あったかコンソメスープにグリーンサラダ、それから……何と追加のお肉として『サムさんの塩麹しおこうじ唐揚からあげ』も作りまあす!」
「うおーっ!」
「鶏肉ばっかやん」
 佐村の披露したお品書き﹅﹅﹅﹅に未央は雄叫おたけびを上げたが、イチは冷静に突っ込んだ。けれども、佐村が作るものは何でもとびきり美味しいから楽しみだ。
「でも、そんなに作るんなら、ケーキ食べるのは明日なん?」
「ううん、イブの夜なので禁断の『午後九時以降のケーキ』をやっちゃいます……」
「うおお、背徳的﹅﹅﹅だ……」
「ってか未央はサムさんが送るんか?」
「そうそう!」
「お世話になりまあす」
 そんな風にわいわい盛り上がっていたら、ソファでスマホを弄っていた祖父が振り返り目を細めた……。

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【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村さむらと出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。

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