#259【連載小説】Forget me Blue【画像付き】
溝口に声を掛けた女性の髪型は、イチと同じ漆黒のワンレングスロングヘアーだった(サラサラの髪質だが、艶はイチに及ばない)。年の頃は三十代半ばで女性にしては背が高く、百七十三、四センチメートル位だろうか。そして、睫毛が長いのが目立つ切長の目に、高い鼻梁と紅くて薄い唇を持つ物凄い美人だった——しかし、学生時代にはスポーツをやっていたのではないかと思う程、(太くはないのだけれど)しっかりした体付きだ。
彼女は白のロングカーディガンを翻して側まで来ると、ぽかんと口を開けているイチ達三人に笑い掛け、「こんにちは」と挨拶した。それにハッとして口口に挨拶を返したら、溝口に向き直り「お友達?」と尋ねた。
「えっ、あっ、私の推しとその婚約者さんと弟さんです」
「ブッ」
「ああ、推しってこの人だったんだ。へえ……」
溝口の言い様にイチは思い切り噴いたが(一方男二人はむっと口を尖らせた)、女性にじろじろ見られて「ヒェッ」と小さく悲鳴を上げた(目付きが物凄く怖かった)。すると、彼女は不意ににこっとして自己紹介する。
「初めまして。私、溝口さんと最近仲良くさせて貰ってる蜂須賀茜です」
「うっ、あっ、初めまして。佐藤一と申します……。こっちは佐村蒼士で、後弟の未央」
「どうも初めまして」
「ちわーッス」
蜂須賀は何故だか挑戦的な笑みを浮かべているせいか、イチに紹介された佐村はぺこっと頭を下げたけれど目が笑っていなかった(そして未央は無愛想にいつもの挨拶をした)。そんな風に不穏な空気になりイチが焦っていると、溝口が蜂須賀に話し掛けた。
「あかちゃんさん、今度の誕生日パーティー、イチさんのお家でして貰うことになってるんですよ」
「あかちゃんさん!?」
物凄く個性的なニックネームを聞いて、イチ達三人は声を揃えて仰天した。すると蜂須賀元いあかちゃんが「私があかちゃんって呼んでってお願いしたんです」と説明したから、イチは「お、おう、そうなんだ」とぎこちない相槌を打った。
「あっ、それで、その誕生日パーティーなんですけど、あかちゃんさんも参加したいって言ってるんです……良いですか?」
溝口は困り顔でそう聞いたから乗り気ではないようだが、イチが何か言うよりも早く佐村が「勿論! 是非いらして下さい」と答えたのでぎょっとした。異存は無いが、何故だか嫌な予感がした。
「すみません、初対面なのに図図しくて。でも私も、絶対にまどちゃんのお誕生日をお祝いしたかったので」
「ねえねえ、二人は付き合ってるん?」
「ブッ」
突然、空気を読まない弟がそう聞いて、彼とあかちゃん以外の三人は盛大に噴いた。すると、間髪入れずにあかちゃんが「いえ、猛烈にアプローチしてるんですけど、中中手強くて」と答えたから、イチは思わず「マジか!」と呟いた。そして内心、溝口は凄くモテるんだな、と舌を巻く。当の本人は耳まで赤くなっていたが、未央が「へえ! 溝口さん、誕生日は兄ちゃんと過ごしたいとか言った癖に、こんな美人とデートしたりして、変なの!」と指摘したので、今度は真っ青になった……。
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【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村と出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。
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