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#254【連載小説】Forget me Blue【画像付き】

 木曜の朝がやって来た。年中午前六時に設定してあるスマホのアラーム音が鳴り響いた瞬間、目覚めた佐村が「ふぇあっ! ここどこ……」と呟いたので、起きたばかりなのにイチは盛大に噴いてしまった。
「俺の部屋だよ……」
「あっ、そうだった……すっかり自分の部屋に居るつもりだったから、びっくりした」
 現在地を教えてやると、佐村はむくりと起き上がってやや呆然とした様子でそう言った。けれどもぐに明るい顔になると、うーんと伸びをして「超気持ち良かった﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅し、本当に良く眠れた!」と言ったので、イチはまた噴いた。
「デカい声でそんなこと言わないでくれる!?」
「だって、本当のことだもぉん。あっ、今日は出る時にゴミ持って行くの、楽だね。集積所はぐそこだから」
 硬くて冷たい床で寝たのに、佐村はるんるんとそう言うとさっと布団を片した。イチはそれを見て、本当に体力馬鹿﹅﹅﹅﹅だな、と感心した——けれどもいつまでこんな風に過ごすか分からないから、やっぱり心配になった。
「こっちのキッチンは広いし便利だから、いつもより早く作れるね! だから今日もだし巻き卵を作りまぁす! 勿論もちろん、一さんの分もね」
「マジ? 悪いな……父ちゃん、後十五分もすれば出ると思うけど」
「本当!? じゃあ超特急で作らなきゃ!!」
 うでまくりしたYシャツの上にエプロンを着け、うきうきとそう言った佐村は一の分の朝食も作る気満満まんまんだから、家を出る時間を教えてやると大慌てになった。だから、イチも「味噌みそしるに豆腐と味噌みそ入れんのは、俺がやるよ」と言って立ち上がった。
「ええ、佐村さん、私の分も作ってくれたの!?」
「はい! こちらでお世話になる間は、毎朝お作りしますよ!」
「本当、ごめんね……いっちゃんが心配で、無理矢理こっちに来て貰ったのに」
「いえいえ、とんでもないです!」
 佐村は十分も経たないうちにだし巻き卵を完成させ、(昨晩下拵したごしらえしてあったのを)イチが仕上げた味噌みそしると、茶碗にこんもり盛った白米と一緒にテーブルの上に並べた。丁度その時、三階から下りて来た一が驚きの声を上げて、遠慮しながらも目を輝かせた——それから急いで席に着き手を合わせると、パクパクがっつき始めた(一の普段の朝食は、めっちゃでっかいスライスチーズ﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅を載せたトースト一枚なのである)。

めっちゃでっかいスライスチーズを載せたトースト

「それじゃ、行って来るね! いっちゃん、本当にお外に出ちゃ駄目だよ!」
「おう……」
「一さん、お気を付けて行ってらっしゃい!」
「佐村さん、本当にありがとうね! そんで、佐村さんも気を付けるんだよ!」
「はーい」
 あっという間に朝食を平らげた一は、そう言ってしっかり釘を刺して出て行った。それに不満げに応えていると、汚れた食器をシンクへ運びながら、佐村まで「お腹も張ったばっかだし、当分運動はしなくて良いよね!」と念押ししたから、イチはぷうと頬を膨らませて「へーい……」と応えた……。

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【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村さむらと出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。

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