#274【連載小説】Forget me Blue【画像付き】
二分位じっとしていたが、イチは気を取り直すとさっさと洗濯物の残りを取り込み、自室へ運んで畳み始めた(夜は佐村が布団を敷いているスペースでやった)。すると暫くして祖父が帰宅して、それから十分もしないうちに佐村と未央が帰って来た——丁度最後の一枚を畳み終えたところだったので、階段を下りてリビングへ戻った。
「あっ、兄ちゃん! ただいまー」
「イチ、ただいま!」
「おう、お帰り、二人共」
イチは何でも無い風に挨拶を返したが、本当は今直ぐに佐村の腕の中へ飛び込みたかった。けれども我慢して「どうだった?」と尋ねる。
「割とスムーズに受け付けて貰えたよ。準備万端だったからね」
「連れて行かれた時、三好さんは何て言ったんやろ?」
「詳しくは教えてくれなかったけど、『好きだったのに冷たくされたから』とか言ってたらしい!」
佐村が答えたのに続けて質問すると、未央が憤然として答えた。すると、佐村が困り顔で「こっちも出来るだけ詳しく経緯を話したんだけどね」と付け加えた。
「そうか……でも、今出来ることは全部やったんだよな。後で溝口さんにラ◯ンしとかんと」
「それじゃ、ご飯にしよっか。イチはもう食べたんだよね?」
「おう。モリモリのモリアーティ教授したぞ」
そんなやりとりをして、佐村と未央は手を洗いに行ったが、イチはさっき見たことをいつ話そうかな、と思った。一段落してホッとしている様子なのに、彼女は諦める様子が無いと教えるのは気が重い。
「うおお、肉汁たっぷり! 流石『サムさんのハンバーグ』」
「ふふ。未央さんもモリアーティ教授してね!」
「それさ、兄ちゃん達の間ですっかり定着してるけど、ちょいダサだよね〜」
「酷い! それなら、いやはやハヤシライスだってちょいダサじゃないですか!」
ダイニングテーブルに着いた未央は、電子レンジで再加熱して貰ったハンバーグをパクパク食べながら絶賛したが、佐村が嬉しそうに応えると憎まれ口をたたいた。それに佐村はぶうぶう言ったが、普段ならツッコミを入れる筈のイチが黙っているのに気付いて、「どうしたの? イチ」と尋ねた。
「あ、うん……。さっき洗濯物取り込んでた時に、歩道を三好さんが歩いてたの見掛けてさ」
「ブッ」
イチの返事を聞いて、佐村と未央は揃って盛大に噴いた。未央の口から飛び出したハンバーグの欠片がダイニングテーブルの上に散ったのを見て、イチは眉を寄せるとティッシュの箱に手を伸ばした。すると、ゲホゲホ咳き込んでいた二人が立ち直り口口に叫ぶ。
「昨日の今日で!?」
「何かされたんじゃないでしょうね!?」
「いや、直ぐにどっか行ったよ。俺には気付いてないし……でも、家の周り彷徨いてたんやろな」
「……」
今度は二人揃って深刻な顔つきになったのを見て、イチは苦笑すると「まあ、引き続き警戒するしか無いよな」と言った……。
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【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村と出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。
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