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【ショートショート】副業

 家の庭には緑がない。
 緑のかわりに立て札が生えている。
 まだ小さいものも、大きく成長したものもある。
 じいちゃんの子どもの頃から立て札でいっぱいだったというから、そういう土地柄なのだろう。
 庭の広さは十坪ほど。さほど広い土地ではない。
 塀際から濡れ縁の側までいたるところに立て札がある。
 玄関の呼び鈴が鳴った。
 お客さんだ。
 私は客を濡れ縁まで案内する。敷石の上に雪駄がある。五十前後に見える男性は、沓脱ぎ石の上の雪駄で履くと、狭い庭の中を徘徊した。
 戻ってきたときには、手に一メートルほどのシンプルな立て札を持っていた。
「推し活、禁止」
 と書いてある。
 私は存じ上げないが、推し活に迷惑を蒙るような有名な方なのかもしれない。あるいはたんに推し活に反感を持っているだけかもしれない。
 こうした文字は立て札が成長するにしたがって勝手に浮かび上がってくるので、私の一念で書き換えることはできない。
 五千円を頂戴した。
「包みましょうか」
「いや、けっこう」
 男性は剥き出しのまま立て札を持って去って行った。
 本業になるほどではないが、こうしてときどき立て札を買ってくださる人がおり、小遣い程度の収入にはなっている。
 広告を出したことはない。
 家の前に、
「立て札あります」
 の立て札を立ててあるだけだ。

(了)

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