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【ショートショート】空気ポンプ

「あるところに」
 とチドリの十四郎が言った。旅鳥である。いまは羽休めに我が家に滞在し、語り部をしている。
「どこ?」
「東南アジアのとある奥深い場所でございます」
「ふむふむ」
「そこに仙人のようなお爺さんがおります。爺さんの家には代々、使命がございました」
「代々なんだ」
「もうずっと昔、神代の時代からの長い長い家系でございますな」
「使命っていうのは」
「空気ポンプを踏むことでございます」
「空気ポンプ」
「バラエティ番組などで、でっかい風船を膨らませているあれでございますな」
「ああ。罰ゲームの。おまえはチドリのくせに妙なたとえをするなあ」
「チドリとてテレビくらい見るのでございます」
「それで爺さんはなぜ空気ペダルを踏んでいるのかしらん」
「地球を膨らませているのですな」
「ははあ。地球は膨らんでいるのかね」
「年に数ミリという単位でございますが、塵も積もれば山となります」
「いつかぱあんと破裂するのかね」
「いたします。じつは今、もうぱんぱんに膨らんでいる状態なのでございます」
「えーと、これはなんの寓話なのかな」
「寓話ならよろしいのでございますが」
 と言って、十四郎はおやつのミミズをついばんだ。

(了)

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