【ショートショート】出会い
今日は彼女と渋谷で待ち合わせだ。
オレはウキウキと家を出て地下鉄に乗り込み、ポケットを探ってハッとした。スマホがないっ。
あわててリュックの中身をあたらめるが、ない。
自分でも青ざめているのがわかる。
彼女との約束はざっくりしている。
十時頃、渋谷駅で。
あの広い、わけがわからないくらいいろいろな路線が乗り入れている渋谷駅で、スマホなしでどうやって出会えばいいのだ。
彼女も副都心線でくるはずだから、とりあえず、改札口で待ち伏せればいいか。いや、改札はひとつじゃないよなあ。
オレは絶望的な気持ちになった。
待て。
同じ副都心線で、同じ時間に待ち合わせなら、この電車に乗っている可能性だってある。オレは、人混みをかき分け、すべての車両を見て回った。
彼女の姿はなかった。せっかく二人の休日が重なったのになんてことだ。
山を張り、ひとつの改札口で人の流れをずっと見ていたが、彼女の姿はない。さぞかし怒っているだろうなあ。
もう待ち合わせ時間を十五分も過ぎている。
こんなところにいても無駄だ。
オレはガクガクする足を動かして、とにかく、彼女を探そうと思った。
とりあえず、一階に行ってみる。いろいろな路線にわかれる元締めのような場所があったはずだ。ひょっとすると、あのへんにいるのじゃないか。
それとももう怒って帰ってしまったかなあ。
人のうねりのなかで、オレだけが立ち止まり、じっと流れを見ている。
渋谷駅。渋谷駅。
渋谷駅とはいえばなんだ。
十時半頃、オレはハチ公前広場に行ってみた。
あっ。
いたっ。
あの白いワンピース姿はたしかに彼女だ。
向こうもオレを見つけたみたいで、さかんに手を振っている。
怒ってはいないようだ。
あわてて駆け寄ると、
「ごめんっ」
と謝ってきた。
「いや、こっちこそごめんっ」
「えっ」
「スマホ忘れちゃったんだ」
「えっえっ。私も忘れちゃったんだ」
オレたちは抱き合い、ぴょんぴょん跳ねた。
(了)
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