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【ショートショート】渡り鳥

 ベランダで猫を遊ばせていると、渡り鳥の群が見えた。
 渡り鳥は不思議だなあ。
 どうやって地図もなしに何千キロもの距離を飛ぶのか。
 などと思いながら、渡り鳥を眺めていると、片翼の端にいる一羽が離脱し、へろへろと空を泳ぐようにしてこちらに近づいてきた。
 ベランダの物干し竿に着地。
「旅がらすの十四郎でございます」
 頭の中に直接声が響いてきた。
 テレパスかよ!
「カラスに見えないけど」
「じつはチドリでございます」
「どうしたの?」
「旅鳥でございまして、本来、日本は休憩地。すこし休んでまた飛び立つのございますが、私、疲れてしまいました。ちょっと長居して、また来年兄たちに合流しようと思います」
「渡り鳥も疲れるんだなあ」
「疲れます。たいへん疲れます」
 十四郎はこくこくとうなずいた。
「そりゃあもう、大変なものでございまして。下手に魚を食べようものなら、プラスチックの破片がたくさん詰まっていたりして、私どももやられてしまいます」
「人間が悪いな」
「そりゃあ、まあ、ね」
 渡らず鳥の十四郎はチラリとこちらを眺めた。
「ですから、ちょっとね、世話をお願いしたいかなと。私ども、冬は辛いんですよねえ」
「え、うち、猫がいるんだけどなあ」
 十四郎は、猫のびすと話をしたようだった。
「いいお猫様で」
「そう?」
「仲良くできそうです」
「餌はなにを食べるの」
「昆虫とかミミズでございますな」
「それくらいなら、まあ」
 それからチドリの十四郎は一年間、私の家に滞在した。
 十四郎は語り部だった。世界各地の話を面白く物語ってくれた。
「もったいないなあ。マスコミに出れば?」
 と聞いたが、十四郎はしぶい顔をした。
「誰とでもテレパスできるわけじゃないんですよね。波長が合う相手でないと」
 私は仕方なしに、十四郎の話を聞き取り、noteで「チドリのニッポン日記」というお話を連載した。たいへんにウケた。
 出版が決まったところで、兄たちが渡ってきた。十四郎は、
「来年また来ますので」
 と言い残して、ベランダから去って行った。

(了)

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