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【ショートショート】持続可能なスーパー

 ポスティングされたチラシを見ながら、田中は道を歩いている。
 家の近所に持続可能なスーパーが開店したというのだ。今日は寿司のセールをやっている。
 五分ほど歩いたところにスーパーはあった。自転車置き場の向こうにある大きな建物がそうだ。
 田中は籠を持って、スーパーの中に入ってみた。
 入り口付近は野菜売り場。寿司コーナーは野菜売り場の奥にあった。このスーパーの寿司は、専門店が業者として入り、店舗の奥で直接作っている。たくさんのお客さんが買い物をし、次々に商品が補給されていく。
 田中はバラちらしと太巻きを籠に入れた。あとはビールか。
 レジ前ではエコバッグを売っていた。このあたりが持続可能な店作りなのかな。田名はカードを使い、電子決済する。
 帰宅して、エコバッグから寿司を取り出した。食品トレイの上にきれいに盛り付けられたバラちらしを食べる。うまい。ビールを飲む。
「いい店ができたな」
 と呟くと、どこからか、
「そうでしょう」
 という声が返ってきた。空耳かも。
 バラちらしを食べ終えてビールを飲んでいると、
「太巻きもいかがですか」
 とまたも声がする。
「誰」
 すると、食品トレイに尻尾が生えて、タヌキの姿になった。
「おや」
「どうもお買い上げありがとうございます」
 とすこしマヌケな顔をしたタヌキは言った。
「じつは太巻きのほうは妹でして、今日がはじめての食品トレイなのです。一緒に帰ってやりたくて」
「へえ。兄妹思いだね」
 太巻きは夜食にとっておこうと思っていたが、ばりばりとビニールを剥がして、中身を小皿に移してみた。
 食品トレイはぱっとタヌキの姿に戻る。
「お兄ちゃん」
「うまく化けられたねえ」
 二匹のタヌキを見ながら、田中は太巻きをひとつ手に取る。ああ、こちらもうまい。
「おいしそう」
 と妹タヌキが言った。
「おまえたちは、寿司を食べたことがないのかい」
「はい、商品は食べません」
「ひとつあげよう」
 田中は太巻きをひとつ取り上げ、半分に割ると、兄妹に手渡した。
 夢中で食べる二匹のタヌキ。
「こんなにおいしいものだったとは」
「お兄ちゃん、夢みたい」
「ありがとうございます」
 と言って、二匹はスーパーに帰っていった。
「品物に手を着けるんじゃないぞ」
 と田中はタヌキたちの背中に声をかけた。

(了)

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