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【ショートショート】つらら

 天気予報で、週末に大寒波がくるとは言っていた。
 言っていたが、ある程度、気楽に構えていたのである。
 家の中にいれば、どうということはないだろうと。
 いやもう、ふつうの寒さではなかった。
 零度を通り過ぎても、気温が下げ止まらない。
 金曜日の夜中、あわてて家中の暖房をつけて回った。
「これ、水道も凍るな」
 オレはひとりごちた。古いタオルを水道管に巻きつけたほうがいい。
 玄関をあけた。
 吐く息が真っ白。
 十分後、ぎしっぎしっと軋みながら家の中に戻った。
 大寒波は繰り返し襲ってきた。雨が降ったかと思うと凍る。その繰り返しで、いつまでたっても寒冷前線が去らない。
 そろそろ食料の備蓄もなくなってきた。買い出しに行かなくちゃならない。
 ひさしぶりに玄関を開けた。
 ばりばりばり。
 なんの音だ、と思ったら、上から白いものが落ちてくる。つららだ。
 外に出て眺めると、家がびっしりとつららに覆われていた。
 壮観である。が、感心しているわけにはいかない。
 凍りついた物置の扉をこじあけ、スコップを取り出した。
 長く伸びたつららをがんがん殴って、落としていく。
 庭のつららを家の前の歩道に積み上げた。
 翌日からまた寒波が強くなり、つららが育った。
 うちなんか二階建てだからまだいいが、東京タワーとかスカイツリーなどはたいへんである。つらら除去の様子をテレビで実況していた。
 東京中、いや日本中につららがあふれた。
 三月に入り、ようやく寒冷前線が引っ込んでいくと、街中に積み上がったつららたちは「よっこいしょ」と立ち上がり、海に向かって歩いていった。
「生きていたのか」
 とオレはびっくりしたが、豪雪地帯のひとたちには当たり前の風景なのかなあ。

(了)

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