【ショートショート】噴水公園
六月のよく晴れた休日。田中一家は噴水公園にやってきた。
更衣室で水着に着替えて、第二層にて待つ。
午前十時、ずおおおと大きな音を発して、噴水が噴き出した。
大きな円盤状の第二層が空中に持ち上がる。
「わーっ」
と歓声が上がる。
第二層からも噴水が噴き出し、第三層が持ち上がる。
「おとうさん、あの円盤に行きたい」
と娘のさやかがおねだりした。
「いってみるか」
噴水のなかに突入すると、痛いほどの水圧を感じた。水中にいたのはほんのすこしの間。空中に放り出される。
あわてて水を掻いて、第三層の円盤にしがみつく。
「さやかー」
「ここだよー」
円盤の上は一面の噴水。ほかにはなにもない。円盤は噴水に支えられているとは思えないほど安定しているが、ときどきぐらぐら揺れるのはサービスだろうか。
妻の聡子と長男のさとしは下から円盤を見上げているに違いない。はげしい水しぶきで下は見えないが、たぶんそうだと田中は考える。
「おとうさん、もっと上」
「わかったわかった」
田中とさやかは噴水に何度も突入し、とうとう第七層までやってきた。最後の円盤だ。
太陽がまぶしい。噴水が霧状になって消えていく。
「登り切っちゃったなあ」
「まだまだ」
娘は最後の噴水に突っ込んでいき、空へと飛び上がった。
舞ったというほうが正確かもしれない。
娘の姿が見えなくなった。
「さやかー、さやかー」
呼んでみるが、答えはない。
娘はどこへ行ってしまったのか。
田中もおずおずと噴水に近づいた。
ふわっと体が浮いた。
(了)
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