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往復4時間かけて、美容院に通う理由。

40年間生きてきて、行きつけの美容院はたった3つしかない。1つ目は、子どもの頃近所にあった美容院。家から自転車で5分。クラスメイトのお母さんに切ってもらっていた。

その後、大学のときか社会人になってからだったか忘れたが、友達が通っていた美容院を教えてもらい、そこに通うようになった。これが2つ目。しかし、結婚を機に地元を離れることになってしまった。

当時の配偶者は転勤の多い仕事をしており、同じ県内で2年に一回くらいのペースで引っ越していた。そのたびに、近くで美容院を探して行ってみたが、なかなか行きつけには至らず、結局は新幹線で片道1時間半かかるが、帰省に合わせて2つ目の美容院に通っていた。

何回目かの引っ越しで、家から歩いて3分の美容院に行ってみたところ、これが運命の美容師で、それを機に美容院難民に終止符を打ち、そこに通うようになった。3つ目の美容院である。

しかし数年後、当時の配偶者が転職のため、県外に引っ越し。その後、離婚、引っ越し、再婚、引っ越しといろいろあった(笑)が、その間も、私は3つ目の美容院に通い続けた。電車を乗り継いで片道1時間半〜2時間かかったが、とにかく運命の美容師だったため、休みの日に小旅行気分でその美容院に行くのは私のライフワークのひとつとなっていた。

しかし、ある時、運命の美容師は、家庭の事情で、平日しか営業できなくなってしまった!

これはさすがに、新たな美容院を探すしかないか……と現配偶者が行っていた近所の美容院に駆け込んだ。たまたま担当してくれた美容師さんが腕も相性も良く、4つ目の美容院見つかった、よかったー!と思ったのも束の間、3回目に行こうと思って予約しようとしたら、担当美容師さんは辞めてしまっていた……!

結局、美容院難民は近場での捜索を諦め、平日に運命の美容師に予約を入れて、有休をとって行ってきた。やっぱり、運命の美容師、いい。今後は潔く、平日に有休をとって美容院に行くことにした。

それにしても、なぜ、私はこんなにも運命の美容師にこだわるのか。

腕がいい、相性がいい。それだけなら、他にも探せばいるはずだ。しかし、私にとっては、自分の身体の一部をあずけ、ある程度の時間を共有する相手は、誰でもいいわけではなかった。人付き合いが基本「狭く深く」の自分的には、むしろ美容院を転々とすることの方が苦痛でしかなく、例え、美容院滞在時間より移動時間の方が長かろうと(笑)往復4時間かけて行きつけの美容院に通う方が苦にならないのだ。

運命の美容師は、これまでの蓄積で、1言えば100の仕上がりになる。その腕はもちろんだが、おそらく、私は運命の美容師と話したいのだ。自分の人生の変化を、全て知っている他人はそう多くない。美容師と客という一定の距離感を保ちつつ会話をする中で、自分の現状や価値観を客観的に確認できる時間が、自分にとってはかけがえがないのだ。

友達でもない、個人的には連絡先も知らない、「美容院」という場所で交差するだけの縁。しかし、だからこそ続く関係。それがとても心地よい。

おそらく、運命の美容師が美容師でいる限り、私はそこに通い続けるだろう。

ちなみに、運命の美容師への最初の頃のオーダーは、当時年甲斐もなく好きだったジャニーズのアイドルの写真を見せ「これと同じ髪型にしてください(小声)」という、痛々しいことこの上ないものだったが、今だにそれは忘れた頃にネタにされる。

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