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小説「真夜中に目が覚めた」

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「真夜中に目が覚めた」で始まる、結婚とは、夫婦とは、家族とは、幸せとはを綴った短編連作。
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#結婚式

【第六夜】ありがとう

【第六夜】ありがとう

 真夜中に目が覚めた。

 明日、いや、すでにもう今日か、私は25歳になる。と同時に、結婚式の日を迎える。

 しっかり寝ておきたかったのに……母があんな話をするから……気になって仕方がなかった。

 物心ついた時、すでに父親はいなかった。母ひとり、娘ひとり。自分の名前が父親の名前から一字とってつけられたことと、その父親はすでに他界していることだけ聞かされていた。

 けれど……本当は

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【第七夜】澱

【第七夜】澱

 真夜中に目が覚めた。

 家の中に漂う空気は明らかに昨日までのそれとは違っていた。昨日まであった美優の気配が、今はもうない。あの子の存在が私を支えてきたことを改めて実感する。

 後にも先にも一度だけ……忠幸さんの葬儀の時、これが最初で最後だと言って、奥さんから私に連絡がきた。

 正直、悲しいという感情は湧かなかった。余命半年と聞かされた時、彼の最期を受け止めるだけの情は私にはなかった

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