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0.3%の大企業と99.7%の中小企業、この構造が男性の育休取得を阻んでいる!?

前回の記事を含め、ここ数回、男性育休の取りやすそうな企業について調べたことをお伝えしてきました。
調べながら、むむむ??企業規模が関係してるかも!?と思うようになりました。
で、さらに調べてみることにしました。

とても大きな企業では、育休を取得した男性のいる割合が高い

平成30年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)には、企業アンケート調査結果もあります。
この企業アンケート調査結果の中に、男性の育児休業取得率を企業規模別にみたものがあります。

企業規模別の結果を見る上で、育休を取得した男性がいなかった企業の割合に注目してみました。

■企業規模別にみた育休を取得した男性がいない企業の割合
  ◇ 31人~50人  93.1%
  ◇ 51人~100人   89.7%
  ◇ 101人~300人  84.3%
  ◇ 301人~1000人  84.8%
  ◇ 1001人~  46.9%
平成30年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

企業規模が100人以下の小さな企業だと、育休を取得した男性のいる企業はほとんどありません。
企業規模が101人~300人以下の企業でも同じです。
1001人を超える企業規模になると、半分以上の企業で、育休を取得した男性がいるということになります。
明らかに、1001人以上のようなとても大きな企業では、育休を取得した男性のいる割合が高いことが分かります。

大きな企業で育休を取得した男性がいる割合が高いからと言って、大きな企業の方が男性の育休取得率が飛びぬけて高いわけではありません。

■企業規模別に見た男性の育休取得率
  ◇31人~50人  6.9%
  ◇51人~100人  8.0%
  ◇101人~300人  7.7%
  ◇301人~1000人  4.7%
  ◇1001人~  9.6%
平成30年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

1001人以上の大きな企業で育休取得率がやや高い印象を受けますが、企業規模による差はあまりないように見えます。

企業規模よりも業種が男性の育休取得に影響しているかも?

企業規模自体に、業種による差があるのかもしれません。
そこで、業種別のデータも見てみることにしました。
平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)で調査しています。

■男性の育休取得率が10%を超えている業種
  ◇「金融業、保険業」 14.4%
  ◇「電気・ガス・熱供給・水道業」 12.5%
  ◇「医療、福祉」 10.4%
■男性の育休取得率が下位の業種
  ◇「教育、学習支援業」 2.1%
  ◇「不動産業、物品賃貸業」 4.7%
  ◇「運輸業、郵便業」 5.2%
※「鉱業、採石業、砂利採取業」(20.0%)は、育休取得者が1人と少ないため、この調査結果からは育休取得率が高いとは言えない。
平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

上位と下位を比べてみると、確かに、「金融業、保険業」や「電気・ガス・熱供給・水道業」は企業規模が大きそうですし、「教育、学習支援業」「不動産業、物品賃貸業」「運輸業、郵便業」は、特定の企業を除けば、企業規模が小さそうです。
したがって、企業規模よりも、業種が男性の育休取得に影響している可能性もあります。

同じ10%でも、2000人と20人とでは違う

残念ながら、男性の育休取得における企業規模や業種が与える影響について研究した文献を見つけることはできませんでした。

2009年の研究になりますが、「出産・育児期の就業継続と育児休業─大企業と中小企業の比較を中心に─」(労働政策研究・研修機構)で、育児休業制度の導入率について、企業規模と業種のどちらが影響しているかを分析しています。
この研究によると、「育児休業制度の有無は企業規模によって規定されるところが大きい」とされています。
男性の育休取得でも、この研究と同様だということは乱暴ですが、具体的に考えてみると納得できる気がします。

分かりやすく、規模の違う2つの企業で比較してみます。
どちらの企業も男性の育休取得率を10%とします。

男性従業員が2000人いる大きな企業で、毎年、その5%にあたる100人に配偶者の出産があったとします。
配偶者の出産があった100人のうち、10%にあたる10人が、毎年、育休を取得することになります。

一方、男性従業員が20人いる小さな企業でも、毎年、5%にあたる1人に配偶者の出産があったとします。
同じように10%の育休取得率だったとしても、育休を取得する男性は10年に1人しかいないことになります。

毎年10人の男性が育休を取得する大きな企業、10年に1人しか育休を取得しない小さな企業

男性が育休を取りたくても取れない理由の上位には「育休を取得しづらい雰囲気だった」が上がっています。
この条件だけで考えるならば、小さな企業の方が取得しづらい雰囲気になるのは当然です。
また、小さな企業の方が、育休を取得した従業員の代わりとなる人材の確保が難しいことでしょう。

もちろん、すべての小さな企業にあてはまるわけではありません。規模の小さな企業の中にも、素晴らしい取り組みにより、男性の育休取得率100%を達成しているところもあります。
概して考えると、小さな企業では、男性の育休取得率が低くなる傾向にあると思います。

男性育休も企業規模による影響が大きいのならば

もし、企業規模の影響が大きいのならば、産業構造の変化がもたらされることで、男性の育休問題が好転するのかもしれません。

2021年版中小企業白書」(中小企業庁)によると、大企業0.3%、中規模企業14.8%、小規模企業84.9%となっています。
この白書で用いている中小企業基本法上の中小企業の定義では、産業により異なりますが、大雑把に言えば、301人以上で大企業、21人~300人で中規模企業、20人以下で小規模企業と分類しています。
従業員数での比率は、大企業に勤める人が約3割、中小企業に勤める人が約7割と言われています。

日本の人口は、2065年には約9500万人になると予測されています。
この人口減少により生産年齢人口も約5000万人にまで減少します。
生産年齢人口は約2500万人減です。
すると、全体の99.7%を占める中小企業では、その存続が危ぶまれるようになると予想されます。
どんなに素晴らしい技術や手法、商品、サービスを開発していても、担い手がいなくなってしまうのです。
淋しいことですが、現実に起きる大きな問題です。
問題が分かっているのならば、先んじて手を打てばよいのかもしれません。

今ある中小企業同士が手を組み、新たな企業として再編する。
いくつかの中小企業が統合して新たな企業となるなんて、かなりハードルの高いことです。
経営者からすれば自分の会社を失いたくないでしょうし、そもそも誰が主導して行うのでしょうか。
でも、いくつかの中小企業の統合により大企業へと再編されることで、経営者にも労働者にも多大な恩恵が保障されるのならば、あり得ないとも言い切れません。

その結果、99.7%の中小企業と0.3%の大企業という産業構造が大きく変化すると、男性の育休取得は取るに足らない問題となるのかもしれません。


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