なぜ再び大阪都構想なのか

 上にある、先日の「#Nエッセー」でも書いたように、今、大阪では大阪都構想の議論が盛り上がっている。(というよりもそもそも、前回の知事選挙・大阪市長選挙は大阪都構想の再挑戦を掲げて大阪維新の会の2人は当選しており、翌日のメディアも再挑戦を大きく報じているのでそれ以来、大阪都構想の議論は進んでいたのである。ここへきて大きく報じられるようになった理由は以下に列挙していく。)
 それに絡んで、大阪クロス選挙(大阪ダブル選挙ともいうが今回の選挙の性質からあえてここでは「大阪クロス選挙」で統一する。)まで行われるまでに至った。
 しかし、なぜ「大阪クロス選挙」が行われることになったのか、簡単にまとめたいと思う。

1、 各党の立場

 まず確認する必要があるのは、各党の立場である。

 「大阪維新の会」はもちろん大阪都構想を推し進めているが、最終的に決めるのは住民投票による民意だとの立場である。
 「公明党」は住民投票の実施までは容認(「5、 公明党の協力」「6、 住民投票の実施時期」の項を参照のこと)していたが、前回の住民投票の時も大阪都構想自体には難色を示している。
 残る、「自民党から共産党」までは、大阪都構想自体に反対であり、住民投票の容認をどうするか、という段階ではない。

 間違えてはいけないのは、知事選挙・市長選挙の結果で「大阪都構想」が決定されるわけではなく、最後には必ず住民投票が行われ、そこで民意が示されるという点である。その民意を問うこと自体を否定するのは、前回賛成に投票したおよそ半分の有権者を否定するだけでなく、民主主義の観点からもとても危険な状態であろう。

2、 「1度目」の住民投票〜無視してはならない約半分の賛成民意

 大阪や関西地方以外の方はご存じない方もいらっしゃるかも知れないが、大阪都構想では既に1度、大阪市民を対象に住民投票が行われた。こちらは、0.8%差で否決された。つまり、およそ半分は賛成票を投じていることを考えると、この民意を無駄にしてよいのか、という議論も成り立つ。

3、 都構想に代わる手段としての『大阪会議』

 0.8%差とは言え、否決されたため、大阪維新の会は大阪都構想を諦め、当時の大阪市長であった、橋下徹氏は任期を満了後、退任し、民間人となった。

 また、住民投票の結果を受けた大阪都構想の終結により、大阪維新以外の大阪都構想反対派が掲げていた、府市の調整機関としての「大阪戦略調整会議」通称、「大阪会議」が設置された。これは、大阪都構想を実現しなくても、大阪府と大阪市(加えて、いわゆる政令指定都市の堺市)の間で話合いをすることで、二重行政などの無駄を省き、効率よく大阪を運営していくことができる、との立場から反対派が掲げたものであった。

 つまり、大阪維新の会は、住民投票の結果に従い、反対派が掲げる手法に則って、大阪府市の問題解決を図ることにしたのだ。

 しかし、住民投票後、大阪都構想反対派は「大阪会議」は都構想の対案ではなかったと主張しており、会議は空転。大阪府と大阪市が議論・協調をする場としてはうまく機能せず、事実上失敗した。

4、 『大阪会議』の失敗を知った府民・市民が下した結論

 「大阪会議」は事実上の失敗に終わり、それを知った大阪府民、大阪市民は直後に行われた大阪府知事選挙・大阪市長選挙で、「大阪都構想再挑戦」を掲げて立候補した大阪維新の会の候補者を当選させた。話合いによって大阪府と大阪市が調整することは難しく、統治機構そのものを変える必要があると改めて認識した有権者が少なくなかったのであろう。(もちろん他の公約・争点から維新候補者に投票した人もいるだろうが、当時のダブル選挙は大阪都構想の再挑戦が大きな目玉であったことは間違いない。翌日のメディアも大きく再挑戦を報じている。

 また、大阪府民以外は分かりにくいところであるが、大阪府と大阪市の対立は古くより自明の理ともいうべき状態であり、それらからも少なくとも、もう一度住民投票を行う準備をすることを認めた人もいるだろう。(大阪都構想の住民投票を行うまでには様々な条件・ハードルがあり、容易に住民投票をすることはできないようなシステムになっている。)

5、 公明党の協力

 先に書いたとおり、住民投票には様々な条件・ハードルがあるが、その一つに協定書作りがある。つまり、大阪都構想の設計図を考えるのである。前回の否決を受けて、修正すべき点を修正した設計図を法定協議会で作成する必要がある。

 しかし、自民党は真っ向から大阪都構想に反対しているので、協力を得ることができない。そこで、(住民投票の実施については)比較的中立的立場を貫いてきた公明党へ協力を要請、法定協議会が進められてきた。

6、 住民投票の実施時期

 しかし、2018年末になり、大阪維新の会と公明党の間で、任期中に住民投票を行うことで合意していたという書面が公開され、両党から府議会議員がサインをしていた事実が発覚した。この任期が問題となり、府議会議員の任期(大阪維新の会側の主張)なのか、知事・市長の任期(公明党の主張)なのかが争点となった。(筆者としては、全体の文面サインした両名が府議会議員であることから、府議会議員の任期である、と考える。)

 大阪維新の会は再挑戦を掲げた大阪ダブル選挙(府知事・大阪市長選挙)以来、常に大阪都構想の準備を進めており、今の議会の任期中に住民投票まで行うのが筋であるとの立場から以前は2018年秋の住民投票を目指していた時期もあったが、様々な要因からずれ込んだ。

 そして、時間的余裕もなくなり、議会議員の任期中の住民投票は難しいものとなった。ならばせめて、議員の任期中に協定書(設計図)を完成させ、2019年の参議院選挙と同時に住民投票を行うことで税金の削減にもなると考えたのであろう。しかし、同日選挙(投票)を嫌う、公明党としては、これを受け入れるわけにはいかなかった。

7、 維新の譲歩

 任期の解釈で揉めた両党であったが、大阪維新の会側が、「知事・市長の任期という解釈でよい。その代わり、書面で確約してくれ。」と譲歩することになった。
 しかし、公明党は書面化を拒否。大阪維新の会としては、書面にしない約束を反故にされてきた歴史などから、また、書面を公開されて困るような約束はそもそも約束に当たらないと主張。(たしかに、例えば、契約書は証拠として残すために作成することを考えれば、公開されて困る書面というのは、あまり意味を成さないだろう。)

8、 両党の協力関係の決裂、クロス選挙へ

 これにより、大阪維新の会と公明党との決裂は決定的となり、年末に主張したとおり、大阪府知事・大阪市長共に辞職を表明、クロス選挙を行うこととなった。なぜ、クロスなのかはこのまま両名が当選した場合、任期は残りの任期となり、今年の後半に再びダブル選挙を行う必要があるからである。

9、 補足・まとめ

 ちなみに、大阪市では大阪都構想と共に、それに反対する立場が主張する「総合区案」の議論も同時に進めてきた。
 また、クロス選挙が行われることにより、不足の事態が発生しない限り、大阪市内では大阪府知事・大阪市長・大阪府議会議員・大阪市議会議員が今後も4年に1度同じ日に選挙されることになるので、税金の面から見ると大きな削減になると言える。

 なぜ『再び大阪都構想なのか』をまとめると、

・1度目の住民投票で否決されたものの、およそ半数の民意が賛成している。
・都構想の代わりになると思われた「大阪会議」が停滞した。
「大阪会議」の失敗もあり、大阪維新は「大阪都構想」の再挑戦を掲げて、府知事選挙・大阪市長選挙に臨み、共に大阪維新の議員が当選した。
公明党が住民投票実施の実現までは協力する予定であったが、その見込みが立たなくなり、府知事・市長が民意を問うことになった
・上記の経緯などから、大阪維新の会は、大阪府と大阪市の対立を解決する手段としての大阪都構想などについて再び民意を問いたいと考えている。


 最後になって恐縮だが、私は行政の専門家でも統治機構の専門家でもないことを記して、このコラムを締めたいと思う。

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