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雲のマイクロノベル 他3篇 #66

 いまの季節、羊が空を渡っていくのを見たことがあるだろう。あれだけの数がいると、毎年二、三頭萎んで落ちてくる羊がいるんだよ。それに空気を入れて空へと返してやるのがわたしの仕事だ。見つけたら教えておくれ。

 空にはいろんな生き物がいるんだ。ほら、あのいわし雲を浸食するカビの菌糸のようなもの。ほどなくあのいわし雲は喰われて無くなってしまう。あの雲の下には行かない方がいい。ときおり、地面まで垂れ下がってくる。

 この雲は捏ねごたえがある。よかったら、あなたもちょっと捏ねてみるといい。こうしてこうすると、ほらクジラにも象にもなる。上達すればダイオウイカの雲にだってできる。さて、ここに未来の雲使い名人はいるかな。

 あー、いつの間にかまた空にサインが記されている。見ている間に、サインは消えてしまうのだけど、これでこの世界にルールが一つ追加されたことになる。あれするな、それはダメと、毎日空から声が聞こえてくるんだ。

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