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「桜餅」のマイクロノベル 他3篇 #65

 桜の葉っぱが落ちて、落葉から桜餅の匂いが香り立つ小径を散策する。お金がなかった頃は、この時期になると目をつぶりながら団子を口にして、桜餅を食べた気分になったものだ。だから、あの頃は季節が半年ずれていた。

 子どもの頃、桜の葉っぱの穴に見える青空をうまくペロッと剥がして、爪に貼って青くするのが流行った。自分ではうまくできなくて、亡くなった姉が上手で左手の小指に貼ってもらった。いまもその爪は、空色のままだ。

 この時期、寒さに弱い軟弱鉄塔に防寒用の布を巻く「鉄塔くるり」の作業がはじまります。霜害による停電と、鉄囓り虫がもたらす錆の被害を防ぎ、春になってくるりを取り除くと、一回り大きな鉄塔へと成長するのです。

 電球色の月の球が切れてしまって、買いに行くと在庫が昼光色しかなかったので仕方なく買ってきたけれど、なんだか昼間の月のようで味気ない。最新型LEDにすれば色が段階的に変えられて、しかも十年は持つという。

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