第百三話:やるべきことの判明~頼もしい愛しき者達~
治安維持所の連絡が何故か学長経由で来た。
「ブルーノ学長、どうしたのです」
「ええ、治安維持所の方からの連絡に重要な内容が含まれていたので、私から話すべきかと思い」
屋敷にやってきた学長におかしな箇所はない、寧ろ真面目な雰囲気をまといすぎてて不安になる程だ。
「生への憎しみの封印を解こうとする輩がいます」
「?!」
寝耳に水な言葉に私は問いかける。
「待ってください、四つの封印は私がしなおしました」
「――『五つ目』の封印があるのです」
「……まさか」
「ダンテ殿下の御想像の通りです、この共同都市メーゼの地下に五つ目の封印があるのです」
「……正確にはオディオの『本体』が封印された、封印の地なのですねここは」
「その通りです」
ブルーノ学長の言葉に頭が痛くなった。
というか頭痛が痛いと言いたいレベルで重大な内容すぎて心労がやばいことになりそうだった。
だが、それでぶっ倒れるのは後だ、話を聞かなくては。
「ここの封印が完全に解かれると――」
「他の四つも連鎖的に解かれます」
予想通りの回答。
思わずため息が出る。
「つまり私はそれに対処しなくてはならない、と」
「……はい、その通りです」
――サロモネ王も厄介なの残してくれやがりましたな本当に!!――
そう思いはするも口には出さない。
「ところでブルーノ学長」
「何でしょうか?」
「オディオは本当に生への憎しみから生まれたものなのでしょうか?」
「――そう言われていますが……」
「サロモネ王の本を解読しているんですが『アレは生への憎しみだけではない』と書かれているのですよ」
「サロモネ王の本を解読できたのですか!!」
「最近ですけども……」
歓喜の表情をしたブルーノ学長は私の手を掴んだ。
「間違いない、貴方様は終わらせられる方だ!!」
「はい?」
言っている意味が良く分からなかった。
「とりあえず情報共有します」
ブルーノ学長との話を終え、エドガルドとエリア、クレメンテ、アルバート、カルミネの五人と応接室で会話をすることにした。
「ふぃ、フィレンツォさんは?」
「フィレンツォには後で情報共有します」
私はそう言って、エリアの質問に答えると話を続ける。
「オディオの復活を目論む輩がいるそうです、おそらく集団で」
「「「「「?!?!」」」」
全員が驚愕の表情を浮かべる。
「お、生への憎しみってあの……その……」
「で、此処でエリアが以前言った取り違えについて軽く説明をば」
「ダンテ、まさか無理して翻訳を……」
「してませんしてません、そんな自殺行為する位なら寝ます!!」
エドガルドの疑いの声にはっきりと否定する。
実際無理してないし、ちゃんと寝てるし、フィレンツォの恐ろしいドアノックがあるからできるか!!
「エドガルド、大丈夫ですよ。フィレンツォが度々部屋をのぞいて無理してないか確認してますし」
「なら大丈夫か……」
クレメンテが説明してくれて私はほっとする。
「話を戻しますと、オディオは生への憎しみだけではない、という事が判明しました」
「じゃあ何で生きている物を襲うのだい?」
「はい、アルバートよい質問です」
私はサロモネ王の本を取り出し、開く。
「サロモネ王曰く『アレは生まれるべくして生まれた、命ある、心ある故に生まれるべくして生まれたものだ』との事です」
「よ、余計意味が分かりません」
――まぁ、そうだわな――
「これはこういう意味を含んでいます。『私達は永遠の離別の悲しみを知っている、私達は不条理に奪われる苦しみを知っている、私達はどうすることもできない悲しみを、憎しみを、怒りを知っている、知りうる存在だ』と言う意味が」
「……心があるからこそ、生まれてしまったもの?」
「エリアその通りです。心がある私達だからこそ生まれてしまい、ああいう形になってある種の『呪い』となってしまったのがオディオの正体。サロモネ王はこれを生の苦しみと後のページでは書いてます」
「……苦しみ……」
「今は大分マシですが、かつては人生とは不条理ばかり詰まっている箱のようなものだったのでしょう。箱の中を探しても探しても不条理な事ばかり、ようやく見つけた希望もあっけなく壊される。そんな時代を通過したからこそ、王達は民が幸福であるために何をするべきか、と常々考えているのです」
前世の知識で得た言葉を元に私は現在のこの世界の状況と照らし合わせて言う。
「――ダンテ、サロモネ王はなんと?」
「だからこそ、終わりにしてあげて欲しいと。彼らに救いを」
私は言う。
「彼らを生み出した我らの罪を赦したまえ、苦しみを生み出す彼らの罪を赦したまえ、苦しみ続ける彼らを――救いたまえ」
「サロモネ王の言葉はそう言う意味なのです」
すべて解読したわけではない、術の部分がまだ残っている。
――だがそれ以外の重要な箇所は解読……したかなー?――
『安心しろ、それ以外は問題ない、残りは術だ』
――あざっす――
神様のお墨付きももらったので安心する。
「でも、救うって言ってもどうやって……」
「それが今解読真っ最中、でも分かる事がありました」
「何がだ、ダンテ?」
エドガルドの問いかけに応える。
「私が以前四大守護者と精霊王と妖精王から貰った五つのとんでもない代物、アレを各所の封印の地に沈めるそうです」
「沈めるってことはつまり、ダンテが五か所――」
「いえ、出来るだけ同じタイミングかつ、その土地と相性がいい方が向かう必要があるんです、私の関係者で」
「つまり――」
「カルミネがロッソ火山帯、エリアがヴェルデ川、クレメンテがビャンコ丘、エドガルドがネーロ山」
「ちょっと待ってくれ、私は!?」
名前を呼ばれなかったアルバートが抗議するようにたずねる。
「アルバートがね、一番ヤバイ」
「え?」
「此処、共同都市メーゼの地下にある封印の場所へ私といくことになる。彼らの封印を解こうとする連中は確実にこっちに本部隊か、一番強い奴が来る」
「「「「「……」」」」
周囲が静まり返る。
「すまない、こんな事に巻き込んでしまって、罵る言葉もあとで全部受け入れるし、婚約破棄されても仕方ないと――」
「「「「「何を馬鹿なことを言っているんだ(です)?!?!」」」」
同時に怒鳴られて私はびくりと硬直した。
「死なば諸本上等だ、私の命はダンテ、お前の為にある」
エドガルドが、心臓のある箇所を叩き誇らしげに言う。
「僕は、ダンテ様、貴方に救われました、だからお手伝いできるならば喜んで……」
エリアはにこりと微笑んだ。
「ダンテ、私は嬉しい。こんな大役を任されるなんて……私の誇りだ……!!」
クレメンテは、誇り高く笑う。
「アルバートが心配だが、俺も俺でしっかりやらないといけないのがわかったさ、それに頼られているんだ、これほど誇らしいことはない」
男気溢れる声色でカルミネは言った。
「しょ、正直一番ヤバいのはわかった……だけど、それで逃げる私じゃない、ダンテお前の力になろう!!」
アルバートは自身の胸をどんと叩いて笑った。
「皆さん……ありがとう……」
「ところで、なんでアルバートがメーゼなんですか?」
クレメンテは疑問を口にした。
「クレメンテ、アルバートの髪の色を」
「……緑ですね」
「メーゼに住まう人の髪の色は?」
「緑……あ」
「ええ、アルバートはアナベル家で唯一母方の血を――共同都市メーゼの民の血を強く引いているんです、結果が髪や肌、目の色にでているのです」
「成程、そういう事なんですね……」
「ところで、決行の日は?」
「この本の術の部分を解読して使える様になってからですね……なるべく早――」
「「「「「ゆっくりと正確にやってくれ(ください)。無理は絶対するな(しないでください)。」」」」
「……はい」
相手の動きが過激になる前に動きたいのだけどもそうもいかなそうだなぁと私は一人心の中でため息をついた。
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