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「合気之体」「浮揚之合気」「力抜きの合気」について過去の仮説アーカイブ

大東流合気武術宗範 佐川幸義先生の「合気」について個人的に考察を行った過去のnoteでは未検討だった、「力抜きの合気」「合気之体」と「浮揚之合気」についての4ヶ月前に書いた仮説noteのアーカイブです。(2022/4/29再投稿)

現在は「小手之合気」について新たな仮説の検証中で、検証結果と応用研究の結果次第で新たに全体の仮説を見直す予定です。ですのでこちらの記事はあくまで試験報告程度とお考えください。

佐川幸義先生については、『透明な力』の著者である木村達雄先生が道場跡地の公園化サイトに写真入りで書かれていますのでご参照ください。

合気之体


「合気之体」については、吉丸慶雪氏の著作で佐川先生の言葉として以下の言葉が掲載されています。

一本になって出る。手を張り肩の力を抜く。

(「合気道の奥義」p256)

合気を使う体は糸を張ったように使う。どこまでも糸をピンと張ったように連続していく。それをそうでないように見せて使う。

(「合気道の奥義」p357)

これを「足親指の付け根」または「頭頂部」を起点に「小手の指先」へと張られる、体を弓に見立てた「一本の意識の糸」と仮定します。

そう仮定したうえで「合気揚げ」のときは、❶頭頂から小手の人差し指、中指、親指先端に向かって体をつたい意識の糸が張られていて、頭頂部から引き上げられているイメージをします。

「小手返し」のときは、❷小手の指先から前足爪先に向かって糸が引き下されるイメージ。

「一か条の受け」など相手の攻撃を受けるときは、❸後ろ足親指付け根から小手に向かって意識の糸の張力をイメージします。

これら❶❷❸のパターンで「体を伝う意識の糸の張力」をイメージすると、相手の力を受けずに相手の体を軽く崩すことが出来ます。

「合気之体」は、この一本の糸を張ったような意識の張力を使えるように、無意識のレベルまで訓練された意識的な体だと推察しています。

またこの「意識の張力」を使うには、真っ直ぐな姿勢が重要になります。
具体的な方法はこちらのサイトが大変参考になりました。(上部胸椎と顎関節の歯車的噛み合わせの図)

浮揚之合気

「浮揚之合気」の仮説を書くきっかけは、こちらの動画です。

元佐川道場で稽古されていた渡邉剛氏が合気揚げを掛けているのですが、同じく元佐川道場で稽古されていた保江邦夫氏と同じ浮き揚げ現象に見えます。

このお二人の技術が共通のものだとすると、保江邦夫氏の過去の著作から意識(魂?)やイメージを使った技術だと考えられます。

ぼくの後頭部から紫色のオーラが、もやもや広がっていって相手をしていてくれる人のオーラ(中略)の中に、モニョモニョモニョと侵食していき、(中略)そうすると相手の身体が僕の思いどおりになる、そういうものが合気

(「合気完結への旅」p19,20)

同書には、佐川先生がフワーと浮き上がる合気と吹っ飛ばす合気を、門人のタイプによって遣い分けていたことが書かれています。

実際に佐川先生が僕に技をかけて下さったときは、吹っ飛ばさなかった。というのは、他の門人はすごい頑丈な人ばかりだから、吹っ飛ばして柱にぶつけても平気だけど、(中略)僕のときは常にフワーと、そして最後だけは床に頭をパーンと打つのだけど、それもいつも佐川先生の足元に。

(「合気完結への旅」p44,45)

特に保江氏は佐川先生から入門時に「優しい人間」と評されており、そういうタイプの人は他の闘争的なタイプの門人の方より「浮揚之合気」が掛かりやすかったと予想できます。

このような人間のタイプを佐川先生は骨相学などを研究することで見分ける訓練をしていたそうです。

よって「浮揚之合気」は、人間のタイプの違いによる意識的な反応を利用して掛ける技だと仮定します。

参考文献

・木村達雄「透明な力」講談社、1998.9.10 第3版

・吉丸慶雪「合気道の奥義」ベースボール・マガジン社、2001.9.21 第1版

・吉丸慶雪「合気道の科学」ベースボール・マガジン社、1998.1.20 第1版第14刷

・保江邦夫、浜口隆之「合気完結への旅」海鳴社、2018.3.12 第1版

「力抜きの合気」


「力抜きの合気」
とは、古くは1978年に発行された松田隆智『秘伝日本柔術」の228Pにある、合気について佐川先生が武田先生の教訓をまとめた文章にある「合気之術(技法)」の定義に詳しく書かれています。

敵に我が身体のいずれの個所でも摑まれ、又は押され、引かれ其他種々様々な技を仕掛けられた場合、我は直ちに合気之術によって敵の出す力を封じ、無力化して、くっついて離すことを不可能にして、投捨て技あるいは逆技や極め技等を行なうのである。

またその技術が、佐川先生からその高弟の方にも引き継がれていたことは、長年佐川先生の受けを取った吉丸慶雪氏が、その後同じく長く受けを取られた木村達雄氏について合気錬体会HPで書かれていた内容から推察できます。

 さらにその謎の一環として先生が「真の合気」つまり「合気を掛ける」のではなく「力抜きの合気」を遣っていたのは吉丸および木村達雄先生だけであったことです。なぜなら「力抜き」を何回も何回も遣っていると、感覚が分る恐れがあるからです。だから先生はこの「真の合気」を掛ける人には、ある条件が必要でした。それで『透明な力』の「修業論」を読むと木村達雄先生もその条件に該当していたのです。
 だから木村達雄先生が佐川先生最晩年の「真の合気」を体得したことを信じることができます。(合気錬体会「木村達雄先生からの質問状」より)

では、その「力抜きの合気」とはどのような技術なのでしょうか?
ここでは実際の対人検証で、力が抜ける現象が起こった時の必要条件を、あくまで仮説として記しておきます。
(以下「力抜きの合気」についての部分は上部の記事より先に書いた記事のアーカイブなので、辻褄が合わない部分があることをお含みおきください)

「力抜きの合気」の仮説

「力抜きの合気」に必要な要素は主に2つあります。

1つ目は「下腹部への意識の集中」、2つ目は「下腹部意識へ力を吸収するイメージ」です。

これらの要素を順に実行すると、相手の力が抜ける現象が起こります。

これが「力抜きの合気」の仮説手順になります。

ただし、以下の条件の場合にしか「力抜きの合気」は効力を発揮しません。

.相手の腹部と自分の腹部が向かい合っている場合

または

2.相手と自分が平行の位置関係にある場合

そのため、互いに正面で半身同士では「力抜きの合気」は掛かりません。


では、その中に合気の極意があると言われる「座捕両手首取り合気揚げ」で、「力抜きの合気」の仮説の手順を解説していきます。

「力抜きの合気」の手順1

手順1は「下腹部への意識の集中」です。これは所謂「肥田式強健術」の「腰腹同量の中心力」に近い身体意識となります。

◇上体を真っすぐにして、姿勢を正しくする。
◇腕、肩、胸の力を抜いて、軟らかにする。
◇腰を、しっかり据える。
◇膝は、やゝ曲げる。膝が前へ出ないようにする。
(中略)
◇腰と腹とに、等分の力を作る。これを中心力という。あらゆる洗練徹底した姿勢動作の根本生命である。
現代版『聖中心道肥田式強健術』 肥田春充研究会 編

今回は肥田式強健術の深い術理について研究する訳ではありませんので、あくまで参考とさせていただきながら、簡易的に「下腹部への意識の集中」の行なう手順を提唱させていただきます。

①肩幅よりやや足幅を狭く、自然体で立ち、背筋は真っ直ぐ、膝は軽く曲げる。

②パートナーに後ろから手のひらで、仙骨部分を足親指のある斜め下方に軽く押してもらい、グラつかないようにバランスを取る。

③今度は膝を伸ばした状態で、パートナーに前から手のひらで下腹部を足踵のある後ろ斜め下方に軽く押してもらい、グラつかないようにバランスを取る。

④上記を行い、臍下3cmくらいで腹側と背中側の中心部に、ソフトボール(もしくはグレープフルーツ)程度の大きさの軽い緊張感を感じたら手順1は終了。

「力抜きの合気」の手順2

手順2は「下腹部意識へ力を吸収するイメージ」です。このイメージをつくるには、以下の2つの前提を理解する必要があります。

まず1つ目は、「合気は意識だ」を前提とすることです。これは「合気はイメージだ」とも言い替えが出来ます。

つかまれている手首だけに力を集中するには、初歩の段階では、「意識・イメージ」を持つことが重要だ。佐川先生が「合気は意識だ」というような表現をしたこともあるが、これは「合気の集中」には意識を強く持つことが重要だということだ。(高橋賢「佐川幸義先生伝 大東流合気の真実」P193より)

こちらの文章では初歩のイメージトレーニングのように扱われていますが、今回の仮説では「イメージ自体を使う」ということを前提とさせていただきます。

次に2つ目は、以下の2つの文章の定義です。

座取り両手捕り上げ手で合気を会得すること。わしが合気の崩しを会得したのがこれである。ここで重要な秘伝は、①.親指を我が方に向けてそらせること。②.小手を回すこと。回すからくっ付く。回すために山吹の花のごとくする。各指に力を入れることが大切である。(吉丸慶雪「合気道の奥義」p153)

いくら力の強いものでも大きい手でも小さい手でも、手をつかむには同じつかみ方しかない。そしてある点を外せば力は入るものではない。研究のこと。それができないから、早く出て上げるということを教えている。しかし一寸引けばそれでよい。(吉丸慶雪「合気道の奥義」p162)

1つ目の文章は、手首の具体的な操作について書かれていますが、「イメージ自体を使う」ための技法だという解釈でこの操作を行います。

そして2つ目の文章の「一寸引く」ですが、こちらも「イメージ自体を使う」と解釈します。

そして上記2点の解釈を前提に、重要な秘伝とされる「①.親指を我が方に向けてそらせる」「②.小手を回すこと。回すからくっ付く。回すために山吹の花のごとくする。各指に力を入れる」を行います。

それと同時に抑えられた両手首から、手順1の「臍下3cmくらいで腹側と背中側の中心部に、ソフトボール(もしくはグレープフルーツ)程度の大きさの軽い緊張感」に向かって、「一寸引く」感覚で「自分の手首から丹田付近に力を吸い取った!」という、動的なイメージ操作を行います。

結果として以下の文章のように、手首を少し浮き上げたときに動画のような相手の浮き揚げ現象が起これば「力抜き」が起こったと言えます。

腕で上げず手首で上げる。(吉丸慶雪「合気道の奥義」p187)


座捕り合気揚げ以外での検証と追加手順3

全身の重みをかけて押さえこんでいるのを、手先だけで投げとばすのだよ。このとき先生は、幾つもの手の内を細かく使いわけていたのが分かったよ。(津本陽「孤塁の名人」p230)

こちらの文章は、武田惣角先生が合気を後世に残すために掛けた合気の技法と言われ、「力抜きの合気」の技術が少なくとも2つ以上詰まっていると考えられます。

確かにここまで解説してきた「力抜きの合気」の仮説手順1.2を行っても、こちらの動画でも示されているように仰向けの状態で諸手で抑え込まれると、手首だけで「力抜き」を掛けても投げ飛ばすことは出来ませんでした。

そのため、さらにもう一つ「力抜きの合気」について仮説手順を加える必要があります。

それには、以下の文章が手掛かりになります。

■合気揚
 合気揚は手首に力を集中する事と、腕関節を鍛える意味がある。
 合気揚は、合気に適った素直な力を出して、相手の重心を崩すことを学ぶ練習である。また、武術全般に必要な腰と腹を練る練習でもある。
 さらに、手の内を鍛える練習であり、相手の攻撃を相手に掴まれた部分の皮膚で察知する能力を養成する入門の練習である。
(BABジャパン「佐川幸義 神業の合気」P124より)

手順2の解説でも行ったとおり、「力抜きの合気」に関する記述は「イメージを使う」という視点で再定義すると突破口が見えてきます。

この文章では、「腕関節を鍛える」の部分に着目します。つまり「肘」です。また文中の「手の内」も「イメージ」の要素が含まれていると解釈すると、「肘のイメージを使う」という技法を加える仮説が生まれます。

つまり手順3は、手順1・2を行ったあと、相手の力を手首を通じて「肘関節の先端から丹田付近に吸い取った!」という動的イメージ操作を行います。

この操作をすると自然に肘が下腹部方向に曲がりますので、相対して手首が少し上がります。その結果として座捕両手首取り合気揚げでは、相手が浮き上がった状態になります。

「力抜きの合気」の検証と今後

手順3を「力抜きの合気」の手順に加えたうえで、武田惣角先生が合気を伝えるために掛けたとされる、「仰向け状態の諸手捕り合気投げ」を行って検証を行ってみました。

先の検証で手順1・2だけでは相手を投げることはできませんでした。しかし仰向けの状態で手首から丹田に力を吸収する動的イメージ操作(手順2)を行ったあと、肘を丹田方向に近づけつつ、相手の力を吸収する動的イメージ操作を行なう(手順3)と、肘が自分の身体に近づくにつれて自然に腕が持ち上がり、相手が自分の頭方向に勝手に投げ飛ばされるという現象が起こりました。

これは先の動画とは少し違う現象で、抑えた側は肘が動くにつれて身体が伸ばされ、相手の手首が自然に持ち上がった瞬間に自分の頭が畳に向かっていくような感覚で投げ飛ばされます。

※【2022/4/29追記】「力抜きの合気」については「小手之合気」と一体で考える必要が出てきたため、「合気揚」と「仰向け状態の諸手捕り合気投げ」のやり方を、今後「敵の親指付け根を意識で攻める」やり方でアップデートする予定です。

以上が「力抜きの合気」についての仮説検証と同じく仮説手順の定義です。

なお、この研究結果を他の方がさらに検証されて再現性が認められれば、ある程度近い技術であったと証明されることになりますので、ご興味がある方は危険のない範囲で検証してみてください。

仮説のもとになるその他の引用文献は先に書いたnoteをご参照ください。

今回の仮説はとりあえずここまでになります。

今後は時間はかかると思いますが、未検証の「透明な力」、「一瞬で吹き飛ばしてしまう合気」について、継続的に研究をつづけていく予定です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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